意外な容疑者 6
元から落ち着きのない傍聴人が数人混ざっていただけで、まるで法廷内全員が野次を飛ばしているように感じます。僕が法廷内に入って間もなくの心細さもこの見物人が原因だったのでしょう。
さすがに騒ぎが大きくなりすぎて、ノドカ検事が「黙りなさい!」と牽制しても通用しません。
ついには物を投げる人までいるようで、裁判官席に届かずとも中央スペースに投げつけられた物が散乱します。
僕は手を挙げました。すると裁判長が気付き、カンッ、と木槌を叩いてから小さい身体で精一杯の大声を出します。
「被告人~! 喋っていいよ~!」
ようやく少しだけ静けさが取り戻せました。
しかし、熱気は上がる一方で暴発寸前です。
それでも言わなければならないことがあります。
「まだ殺人犯が誰か決まったわけではありません。それに、ここで騒げばもれなく現行犯で犯罪者の仲間入りです。そうでしょ? ノドカさん」
「当然よ! まずは席に着きなさい。そして頭を冷やしなさい。
黙ってられないならダメ男が絶賛した留置所へ招待してやるわ」
彼女の言葉のあと、もはや口を出す人間は1人もいなくなりました。
学校と違って比較的理性を持った大人ばかりなので楽なのかもしれません。
僕は裁判官席にいる少年を見上げます。
「裁判長。僕は被告人としてあなたの判決を受けることにしています。他の裁判官では、すでに僕が有罪判決を受けていたでしょう。この事件の全貌を知ることができるのはあなた以外にいません」
大げさでもなんでもなく、本当に彼でなければいけないのです。
〔つづく〕
登場人物
遠崎悠一 主人公
藤堂奈々 ナナさん。弁護士藤堂姉妹の三女
裁判長 十代で裁判官になった天才少年
武笛鉄人 テキ検事、マッスルを連呼し筋肉を強調
藤堂和花 ノドカ検事。藤堂姉妹の長女
藤堂音子 ネコ刑事。藤堂姉妹の次女
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編集掲載 緋鷹由理(ひたかゆり)
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