「競技かるた」という世界がある。
日本人なら多くの人が一度や二度くらい「かるた」をやったことがあるかもしれないが、それを1対1のガチ勝負に昇華させたのが競技かるた。
NHKの新年のニュースでは「京都の○○寺で競技かるたの決勝戦が行われ・・・」みたいな報道がよく見られるほか、漫画を元にした実写映画「ちはやふる」が数年前にブームになったので、それでご存じの人もいるかもしれない。
ちなみに、「ちはやふる」のロケは、地元茅ヶ崎の某老舗旅館でも行われたらしい。

自分がよくお邪魔するご近所の喫茶店「珈房」(こーぼー)のマスターも競技かるたがお好きで、そのため、このお店はかるた関係者の常連客も多い。
今日も男性の方がいらしていて、お若いながら「A級」という一流の肩書きを持つ競技かるた選手なのだそうだ。
そのA級氏、マスター、同じく常連仲間のH氏との4人で、おしゃべりを楽しむ。
最初は、A級氏やマスターから競技かるたの奥深さについてあれこれご説明いただいていたが、途中から風向きが変わった。マスターがおもむろにマイクを取り出したのである。
このマスター、競技かるたの選手であると同時に「読み手」でもある。で、それに使うマイクをご自身になりに吟味した「マイマイク」をお持ちというわけだ。
我々素人がイメージする競技かるたは、二人の対戦者が向き合って、その横に読み手がいるという構図だと思う。その場合は、対戦者と読み手は距離が離れていないので(せいぜい2メートル弱?)、マイクなど必要ない。

一方、これが予選だと話が変わってくる。
予選では、体育館のようなどでかい部屋に何十ペアという対戦者がひしめく。
ただし、読み手も同じように何十人も用意するのは難しいので、読み手は一人だけということが多いのだそうだ。
そうなると、遠くの対戦者にまで肉声を届かせるのは難しいので、PA用のスピーカーが必要で、当然ながらマイクも必要になってくるというわけ。

で、驚いたのが、現在の競技かるたの世界では、これらのマイクやスピーカーとかにまったくと言っていいほど無頓着らしいこと。
例えば、ピアノのコンクールは、演奏者たちの戦いではあるが、その水面下では調律師の戦いでもあるという。
演奏の休憩時間という限られた時間内に、いかに素早く、次の曲や演奏者やピアノ自体の良さを引き出す調律を施すか・・・。
そうした水面下の戦いが、競技かるたの世界ではまるっきり未開拓なのだそう。
ほんの少し話を聞いただけでも、競技かるたの読み上げは実に奥深い。
例えば、「ワイン」と「我々」では、どちらも「わ」で始まるものの、微妙にキーが異なる。対戦者はこの微妙な違いを0.01秒でも早く聞き分け、ひいてはどの下の句の札を取ればいいのかを瞬時に判断するわけだ。
そうした神経研ぎ澄まされた世界なので、マイクやスピーカーの品質が勝負に大きな影響を及ぼすことは想像に難くない。
一方で、反対意見もある(というか、予想される)。
たとえマイクやスピーカーの質が悪くても、そこにいる全対戦者にとって悪いことになるので、それはそれで公平ではないのかと。
たしかにそれも分かる。
ただ、これは個人的な意見だが、会場によって聞こえやすい・聞こえにくいの差はあってはならないと思う。
実際
「あの会場では読み手の声が聞き取りにくいから行きたくない」
という対戦者や、
「あの会場では自分の声が届きにくく、対戦者から自分の読み手としての評価を下げられかねないから行きたくない」
という読み手もいるそうだ。
それを是正するには、どの会場でも同じマイク・アンプ・スピーカーを用いること、もっと言えば、会場の広さ・形状・反射具合に応じてスピーカーをベストにセッティングするエンジニアの存在が欠かせない。
そこまで行くと今の状態からは夢物語ではあるが・・・。
少し話が飛躍するが、技術の進歩というのは大きく分けて二つあると思っている。
ひとつは、研究所などで行われる純粋な技術開発。新素材の開発とか。
もうひとつは、ある分野では普通に行われていることを他の分野に持ち込むこと。
自分も、オーディオ趣味で得た知識をテレビゲーム趣味にフィードバックさせたことなどはあるが(効果はさておきw)、今回の例もまさにそれで、音楽やオーディオにも造詣が深いマスターのような方がかるた予選会場で用いる機材の品質・セッティングにもこだわるべきと声を上げ始めたことで、今後業界が、何十年かかるかは分からないが、どう変わっていくのか。
部外者ながら自分でも驚くくらいワクワクした。
同時に「今の自分は選手としてのランクはC級、読み手としては(最入門の)B級。自分のこうした意見に広く共感を得るためにも、より精進して自分のランクを上げていかないといけない。」と仰るマスターは、60代とはとても思えない若々しくキラキラした表情で、とても恰好よかった。
現実的にも、一部のオーディオメーカーにとってはいいビジネスチャンスだと思うけどね。KORGやFOSTEXなんかにとっては特に。
********
A級氏はかるた協会(?)の役員的なお仕事もされているようで、僕もこうした声を広げていきたいと思います!と賛同してくださった。
が、途中から自分(とマスター)の悪い癖が発動し、話は徐々にかるたからオーディオ寄りへ・・・。
自分
「いやぁ、人の声の再生品質が重要ということ、よーくわかります!私自身、NHKのスタジオでアナウンサーの発音をチェックするために作られたようなスピーカーを使っていますので」
A級氏
「ちなみにお幾らしたんですか?」
自分
「(当時の新品税抜き価格で)300マソ」
A級氏
「・・・・。(テーブルに突っ伏す)」

マスター
「このくさもんさんはトランスを幾つも導入して電源にもこだわっておられるんですよ!」
自分
「人間が健康を保つのに綺麗な水や空気が欠かせないように、いい音にはきれいな電源が大事ですからね、ムフー」
A級氏
「は、はぁ・・・(明らかに笑顔がひきつる)」
かるた協会に
「珈房のマスターが機材の品質云々とか言っていますが、あれはちょっと逝っちゃったレベルなので聞き流していいと思います」
とか言いませんように・・・。
