「何で、何でこんなことになるんだよ!目を覚ませよ潤!!」
「潤くん、ごめん…俺のせいだ」
念願叶った再会のはずがこんな形になっちまった
目の前には自分を責めて号泣するニノと叫び声をあげる翔ちゃんの姿だ
呼ぶつもりはなかったのに
おじが呼ぶように俺に言ってきた
「潤にとっちゃ友達なのかもしれねぇじゃん。会わせてやれ、最期なんだから」
納得できないけど黙って従う俺はやっぱおかしい
もう頭がついていかなくて何もかもどうでもいいんだ
「兄貴から電話あって、潤のことで女房がぶっ倒れて入院したと。退院は未定。兄貴も付き添わなきゃなんねぇから来れない。全て智に任せるってさ」
任されてもわかんねぇよ
何をどうすればいいのかわかんねぇよ
何もできず途方に暮れる俺を前に
おじは誰かと電話を繰り返していた
泊まると言い続けるニノと翔ちゃん
潤の側にいたいとおじに懇願してる
だけど
「ありがたいけど今日は帰ってくれ。明日改めて来てほしい。今日だけは智と潤を2人きりにしてやりたいから、なっ?」
2人は明日の時間をおじに伝えてから帰っていった
俺に慰めの言葉を色々言ってたみたいだけど全く聞いてない
なんにも感じねぇんだ
「智、飯食うか?」
「いらね」
「風呂入るか?」
「いい」
「少し休むか?」
「だからいいって!放っておいてくれよ!!」
「んじゃ、潤の近くにいてやれ。離れんな!」
俺は無意識に潤から離れて座っていた
近くにいたら…現実を見なきゃならねぇから怖かったんだ
渋々潤が眠るベッドに近づく
ベッドには柔らかく微笑む潤がいる
まるで生きてるみたいだ
「潤は幸せだったと思うぞ。お前は充分潤の為に頑張ったさ」
「…。」
「だから…」
「俺は何もしてねぇよ。ただ自分の欲の為に潤を死なせただけだ」
「…それは違う。潤は幸せだったんだって。だからこんないい顔で最期を迎えられたんじゃねぇの?」
「勝手に決めんな」
「潤はさ、ただお前の側にいたいだけ。最期まで離れず一緒にいたかっただけ。それが叶ったんだ。幸せに決まってんじゃん」
「今は一緒にいねぇじゃん!離ればなれになっちまっただろ!!」
「確かにそうだ。お前らは今、離ればなれだな」
そうだよ、 俺らは離れちまった
ずっと一緒だと誓ったのに
あんなに誓ったのに
もう…潤はいねぇんだよ
「言わない約束してたけど、もういいから話すわ。潤はお前の思った通りにしっかり目を覚ましてた。意識を取り戻してたよ」
「…いつ」
「お前が気づく少し前に俺も気づいた
。もしかしたらとはずっと思ってたけど、はっきりわかって話をした」
「潤と?!」
「ああ、でもな潤は智に言わないてほしいって言ってきた。言ったらこいつは自ら死のうとするってわかったからお前には伝えなかったんだ」
「…なんでそんな」
「知られたら智が離れていくと思ったんだろ。自分はお荷物になるだけだからってな。バカな奴だよ」
悔しくて、悔しすぎて
気付けなかった俺が情けなくて
何でわからなかったんだろう
きっともっと早く気づくことができたはずなのに
おじよりももっと早く
俺が諦めていたからだ
潤はずっと人形のままだと諦めていたから
「潤はもういない。でもお前は生きてる。これからもずっと…わかるか?」
「…望んでないのにな」
「だけどチャンスだ。もう一度チャンスがきたんだよ。今度こそ自分の生きる道を見つけて進んでみたらいいじゃん。潤の分も」
「…だから望んでねぇんだよ、そんなこと!」
「じゃあどうすんだ、これからお前はどうするつもりだ!」
「…わかんねぇよ。わかんねぇけど、潤がいない世界でまともに生きていけるとは思えない」
潤がいない世界
俺には無に近い世界だ
孤独と絶望しかない
潤、お前はこんな世界に俺を残していくのかよ
眠ってる潤の頬を擦って
黙って潤を見つめていた
「はいよ、やる」
おじが差し出してきたのは白いカプセル
何かの薬に見える
「これなに?」
「潤の元へ逝ける」
「まさか…毒?」
「そんな悪く言うなよ。考え方を変えたら最高の薬だろ」
「俺に飲めって?」
「飲まなくていい。飲むべきじゃない。だけど一応な」
こいつは何でも用意ができる
すごいけど、怖くもある
こいつの考えがわからない
でも…
「これ飲んで俺が死んだらどうなる?薬を用意したお前が逮捕されたりすんだろ?」
「バカ。俺がそんなヘマするかよ。これ飲んで死んでも簡単には毒だと気づかれないんだよ。心臓発作と診断されんだろ」
「お前はどこからこんな…」
「日本じゃねぇからな。金さえあればなんとでもなる世界なんだよ。いい加減わかれよ」
これを飲めば潤の元に逝ける
二度と引き返すことはできない
どうする、俺
潤の顔を見た
優しく微笑む潤を見た
苦しかったはずなのになんでそんな顔で逝けんだよ
なあ、潤?!
『…あい…してる。お兄ちゃんを愛してる」
潤の言葉がよみがえる
艶やかな潤の表情も
迷うことはない
恐れることもない
潤が望んでることを叶えてやりたい
潤が望んでることをはきっと…
「本当にあんたに迷惑かからないか?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ」
「あんた、寂しくないか?俺も潤もいなくなったら…」
「寂しいに決まってるだろ。だけど…俺はお前らの思い出があるから大丈夫だ。心配ないから気にせず自分の思いを大切にしろ」
「…わかった」
「…決めたか?」
「ああ…。俺は潤と離れないって約束したんだ。潤も俺から離れない。俺らは離れられない永遠に」
「…だな。俺もそう思うよ」
「潤は…俺が追って来るのをずっと待ってるはずだ。もう待たせたくねぇよ」
「俺もそう思うよ」
おじの手からカプセルを受けとる
水の入ったグラスを渡してきて時計を見た
「1時間後に戻る。あとのことは何も心配ないから安心しろ」
「ああ」
「潤も智も…俺にとって大切な家族だ。2人ともずっと愛してるからな」
「…気持ち悪い告白すんな」
「迷いはないか?本当にいいんだな?」
「迷いはないけど頼みがある。俺らを絶対に引き離さないでくれ、頼む」
「心配ない。絶対に約束は守る」
最期におじが力一杯抱き締めてきた
キモい奴だけど…最期だから我慢してやる
ついでに
「ありがとう。あんたには…感謝してる」
本音を初めて正直に伝えてやる
最期だからな
おじがいなくなって
俺は父親と母親に簡単な手紙を書いた
翔ちゃんとニノにも
これで…大丈夫だ
「潤、待たせたな。すぐ逝くからな。もう離れんなよ。お兄ちゃんとずっと一緒だからな」
潤のベッドに入って
口の中にカプセルを含み水で流し込んだ
最期に見たのは
やっぱり潤の顔
愛しい最愛の恋人の顔だった