「寂しいよー」
「龍くんがいないのやだー」
「早くお家に帰ってきてよ」
「なんで残業するの」
「私のこと大切じゃないのーーー」
あああああああ
これ龍くんに言いたいんじゃない。
お母さんに言いたかった言葉だーーーーー。
気づかなかったなぁ。
昨日、龍くん残業でいつもより４時間くらい帰ってくるの遅かったんだけど、
すごい寂しかったのね。
で、そのことをパートナーシップのテーマで書こうと思ってたんだけど、
書き始めているうちに気がついてしまった。
ああああ
これお母さんに言いたかったやつだ。
お母さんに聞いてほしかった言葉だ。
昨日は気づかなかった。
龍くんが残業してくるから寂しいんだ！
怖いんだ！
そう思っていた。
そうじゃなかった。
子どもの頃の、
誰もいない静かな部屋や
夕暮れになって暗くなっていく部屋や
１８時のチャイムの音や
そういうのが重なって、
寂しかった
怖かった
そばに居てほしかった
そんな
「思い出し怖い」をして
龍くんに八つ当たりしてしまった。
何も言わなくても分かってほしかった。
お母さんから
「寂しかったね、
もう大丈夫だよ」
って抱きしめてほしかった。
残業した日は忙しいかもしれないけど、
掃除や食事の準備をする前に、
ギュッと抱きしめてほしかった。
いつもの日常に戻ってしまう前に
私の「寂しい」「怖い」を分かってほしかった。
ああーー
まんま龍くんに求めてしまったなぁ。
龍くんから
「寂しかったね、
もう大丈夫だよ」
って抱きしめてほしかった。
そうしてくれなかったから、
すねて不機嫌になって
「もう残業しないで！！」
って怒った。
察してほしかった。
抱きしめてほしかった。
全部全部お母さんに向けてだった。
笑ってしまう。
まだまだ子どもだなぁ。
やっと気がつけたなぁ。
龍くんが残業するのが嫌だった。
帰ってくるはずの時間に帰ってこないのが怖かった。
頭では「残業だ」って分かってるし、
体力的に辛くないように
花ちゃんと虎くんはお義母さんに預かってもらって、
空くんがぐちゃぐちゃにしたものの片付けだって何もしなくて。
何も何も、不満に思うことなんてないはずなのに。
いつも残業が嫌だった。
龍くんが帰ってこないことが嫌だった。
なんで私が嫌がること何度もするの！？
って怒っていた。
私は鍵っ子だった。
学童さんにも通っていたけど、
途中から、私の希望で鍵っ子になって
一人で家に帰るようになった。
妹はまだ小さいから学童さんのまま。
私はもう大きいし、
早く帰ってテレビで流行りのアニメが見たかったから
一人で先に学校から帰っていた。
夜になると、
母が妹を連れて帰ってくる。
私は二人を出迎える。
１７時をすぎると、
アニメは終わって大人のニュースの時間が始まった。
その日にあった交通事故や事件を
ニュースキャスターが伝えていく。
外は暗くなっていく。
ついさっきまでお日さまの光で明るかったから
部屋の電気はつけていなかった。
気がつけば部屋の中は真っ暗になっていた。
なんとなく面倒くさくて、
後もう少しでお母さんたちが帰ってくるから、と
電気をつけないで真っ暗な中でテレビを見ていた。
時計を見ると、
いつも時間より１０分遅い。
あれ？
そう思ったけど、
１０分くらい、って思って
帰ってこないことを気が付かないふりした。
ニュースではその日にあった交通事故を報道していた。
結局３０分くらいいつもの時間より過ぎて
お母さんと妹は帰ってきた。
大きなスーパーの袋を２つも３つも抱えていて
帰ってきてそうそう
「冷蔵庫に運んどいてー！」
って頼まれてそのまま言われたことをした。
そのうちに父も帰ってきて
いつもどおりの日常が始まっていた。
怖かったんだね。
寂しかったんだね。
ない、ふりしてたね。
あったね。
怖かったね。
寂しかったね。
私がお願いして一人で先に帰るって決めたから。
「怖かった」「寂しかった」なんて言ったら
ダメだと思ってたんだね。
ずーっとずーーーっと我慢してきたんだね。
感じないように見ないふりしてきたね。
寂しくないふりしてきたね。
怖くないふりしてきたね。
こんなこと思っちゃダメだって、
自分にバツつけてきたね。
あーーーーーーーーーー
寂しかったーーーー！！！
怖かったーーー！！！
お母さんが帰ってこなくて怖かったーーー！！
寂しかったーーーー！！！
交通事故にあっちゃったんじゃないかって
もう会えないんじゃないかって
怖かったよーーーーー！！！
寂しかったよーーーーー！！！
暗い部屋にいるの嫌だーーーー！！
夕暮れから夜になっていく部屋が嫌いだーーー！！！
怖かったよーーーーーー！！！
早く帰ってきてほしかったよーーーー！！！
もう大丈夫だよって
抱きしめてほしかったよーーーーーー！！！
はぁぁぁぁぁ
知らなかったなぁ。
こんな自分がいるなんて知らなかったなぁ。
小学４年生くらいかな？
怖いとか寂しいとか
感じちゃダメだと思っていたんだね。
だって、自分で決めたことだもん！
って強がっていたんだね。
怖がってよかったんだ。
寂しがってよかったんだ。
早く帰ってきて！
ってお母さんに甘えてよかったんだ。
寂しかった！
ってお母さんに甘えたかったんだ。
それを龍くんの残業に重ねていたんだねぇ。
龍くんにどんなに気遣ってもらっても、
満たされなかったのは、
全部、お母さんに言いたいことだったからなんだね。
お母さんに分かってほしかっただけなんだね。
本当に知らなかったなぁ。
全然大丈夫だと思っていた。
怖いことなんてないと思っていた。
あったなぁ。
怖かった気持ち。
寂しかった気持ち。
次、龍くんが残業したときにはちゃんと思い出そう。
この「寂しい」は子どもの頃の「寂しい」だよ。
この「怖い」は子どもの頃の「怖い」だよ。
あー多分もう大丈夫だな。
ちゃんと気がつけたから。
昨日、子どもっぽく泣いてすがって、
龍くんに「寂しかった」って言ったの。
そしたら龍くんはイイコイイコしてくれた。
ちゃんと私の欲しいものくれてたのに、
私がお母さんへの気持ちだと知らなかったから。
何度も何度も龍くんの残業にイライラしてたんだなぁ。
それ、龍くんにじゃないよ。
お母さんに感じてる気持ちだよ、って。
あーーーーー
やっと気がつけたな。
やっと迎えにいけたな。
おかえり。
ただいま。
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