どんなきみも大好きだから | 花の兎 雪の兎~オリジナルと2次元 2.5次元BL~

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日々のあれこれ、気ままに創作、なんでもありのブログかな?

「はい、らっしゃいっ」

 

威勢のいい声に迎えられて入った店内は 今日もわいわいと賑やかだった。

 

ビル街から外れたダウンタウン。

 

本来なら『俺』みたいなやつの出入りは疎んじられるのだが

 

「お、仕事終わり?」

 

「先生来てるよ」

 

と キジムナーとアカナーの兄弟が俺に声をかけて来た。

 

彼らは 好物の魚をテーブルに並べ 熱燗を飲んでいて ただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にしている。

 

「あ、ありがとうございます」

 

ぺこり、と頭を下げて 彼らの脇を抜け奥のカウンターに進むと 俺が来たことをわかっているはずなのに 素知らぬふりでかぼちゃの煮物を食べている恋人の隣に俺は腰を下ろした。

 

「・・・・・・まだ・・・怒ってる?」

 

「・・・あ、リュウさん、おでんの玉子も食べたい」

 

「あの・・・、マオ?」

 

「それと 餅巾着」

 

「・・・あの、マオ・・・。そろそろ口をきいてもらえる?」

 

ネクタイを緩めながら 俺は包帯で顔を隠した恥ずかしがり屋で意地っ張りな恋人に優しく言った。

 

マオは 口を尖らせて

 

「なんですか? モテ男さん」

 

と言った。

 

「モテ男じゃないって・・・」

 

「嘘ばっかり」

 

「もし 仮にモテても嬉しくないよ。マオに好かれないと」

 

「・・・・・・ずるい。そんな言い方」

 

やっと俺の方を向いたマオは 包帯をしていてもわかるくらいに頬を膨らませている。

 

「えーーー、マオ先生、まだ怒ってるの? はい、玉子と餅巾着。渡辺さんは?」

 

「とりあえず生ビールで」

 

「はいよ」

 

カウンターの向こう側から この居酒屋の店主である龍神のリュウさんは すぐさまジョッキに泡いっぱいにビールをついできて 俺の前に置いた。

 

龍神ということは ここでは秘密である。

 

ここは 下層の妖怪が住むダウンタウンなのだ。

 

そして 俺はいまでは珍しい純血種の狼男。

 

この街に住むなんて むかしは考えたこともなかった。

 

「マオ先生だって 包帯を取っていけばよかったんだよ。そしたら 渡辺さんは女の子だけだけど 先生は男も女も声を掛けられまくりだったのに」

 

「・・・それは・・・困る」

 

と言ったのは俺。

 

「そんな人前で包帯を取るなんてできない。だってミイラだよ、僕」

 

と答えたのは 本当はミイラじゃない医師のマオ。

 

最愛なる俺の恋人は 複雑な家庭の事情で どうしても自分はミイラだと言い張っている。

 

ミイラなら 本来なら腐った皮膚で 腐敗すればするほど『ミイラ』なのだが もちろん ミイラじゃないマオのその包帯の下は 美しいの一言に尽きた。

 

その素顔を知るものは ほんの一握りだった。

 

「せっかく人間界のハロウィンに行ったんだから 「人間」の仮装すればよかったのになぁ。商店街の旅行くらい羽目を外そうよ」

 

「僕はいつでもミイラです。リュウさんやユウさんみたいにどこでも楽しめる性格じゃないし・・・」

 

そうなのだ。

 

今年の商店街の旅行は 人間界のハロウィン視察。

 

この商店街で居酒屋を営むリュウさんと その恋人で美容院をしているユウさんに誘われて 俺とマオも一緒に人間界に行ったのだ。

 

ハロウィンは仮装しているほうが普通らしく 俺は 半分オオカミの姿で出かけたのだが なぜか露出度高めの女の子たちに囲まれてしまって マオとふたりでしっぽれ観光、にはならなかった。

 

その不可抗力な事態で 旅行から帰っても マオは口をきいてくれず怒っていたのだった。

 

・・・ま、怒るということは 俺をそれだけ好きだということで・・・

 

なんてポジティブにとらえている俺には そんなマオの態度も可愛くて仕方がないだけど そろそろかわいい笑顔も・・・とはいっても包帯でわからないのだけど 愛があるから包帯の下も透視できるので見たいわけだ。

 

「えっと、ほら、リュウさん。俺がマオに買ったやつ 出してくれる?」

 

こっそりとマオには内緒で リュウさんに依頼していた人間界のお土産。

 

家に置くと遠慮するだろうから リュウさんに頼んでここに置いてもらうことにしていた。

 

「はいはい・・・。ほら、これ・・・」

 

俺も実物は知らないので マオと一緒にリュウさんに注目をする。

 

「こちら、高級日本酒 百光でございます」

 

きどった物言いで リュウさんはカウンターの上に黒い瓶を置いた。

 

きょとん、とするマオに俺は焦った。

 

・・・しまった、ミスったか?

 

 

「すごい。これって限定500本でずに売り切れるんでしょ。こっちの世界じゃ もしかしたらいまこの1本しかないかも」

 

と マオの瞳が輝きだす。

 

・・・よっしゃー、高いお金を払っただけある

 

「大ちゃんが?」

 

「そうだよ。渡辺さんがどうしても、ていうから 人間界のネットに不正アクセスして・・・」

 

「・・・スパイかよ」

 

俺はもっとリュウさんに突っ込みたかったが「大ちゃん、ありがと」と マオがやっと俺に笑顔を向けた。

 

が・・・

 

「女の子に囲まれていたのはいまでもムカつくけどね」

 

と にこり・・・と冷たく微笑んでくれて 俺は内心「どんだけ俺を好きなんだよ」と思い しっぽが勝手にぶんぶん振れてしまったのだった。