大正13年9月17日 | 胡桃澤盛のブログ

胡桃澤盛のブログ

戦間期の農村に生きた一青年の日記。長野県下伊那郡河野村。大正デモクラシーの時代、左傾青年運動にも心を寄せていた胡桃澤盛(くるみざわ もり)は、やがて村長となって戦時下の国策を遂行する。その日記には、近代日本の精神史が刻み込まれていると言えよう。

九月十七日(水曜) 曇

朝、残部の上簇。後、一昨日上簇の分の上拾いを為す。

心理学上何と解説するか知らんが、人間には相反する物象を禧ぶ心理作用がある。今日自分が長姫神社の花火を見に往こうとした。其の時往こうと決心すると行かぬ方が良い、風に吹かれて、電車に乗り遅れて、足を棒にしてなどと考えて、行く事が嫌になる。次に歇め様とすると、花火の彼の本で聞く音がたまらない情調る。斯うした相反した事、即ち人間の真正面に向うべき道を厭う事がになる。神経衰弱等と云う連中に時に此の傾向は深い。

夜、往かぬ積りで居たが、街道端へ行くと芦部君が行こうと云うので、来合せた大倉君と三人行くと、市田駅で電車がとても混雑して屋根迄盛んに乗ってる程で、到底行く事が無図可しいのでやめて帰る。