大正13年9月14日 | 胡桃澤盛のブログ

胡桃澤盛のブログ

戦間期の農村に生きた一青年の日記。長野県下伊那郡河野村。大正デモクラシーの時代、左傾青年運動にも心を寄せていた胡桃澤盛(くるみざわ もり)は、やがて村長となって戦時下の国策を遂行する。その日記には、近代日本の精神史が刻み込まれていると言えよう。

九月十四日(日曜) 晴

熟蚕が早い処には見え初めた。秋蚕は経済上最も有利な様に思える。捨ておけば落葉する春蚕用の桑葉を用いて飼育し、気温も本年の如く秋涼の気が早く来ない年は炭火を要する事も少しでいゝ。用桑を取り入れるに小用である故労力が省略出来る。少し桑を虐待する気になれば春に百貫取った畑で七拾貫位いは取れる。秋蚕をうんと飼う必要がある。

夜、今宮の煙火だ。市田の菓子屋迄往くと途中に皆煙火見物ばかりだ。帰り堤防の頭を来る。明月の筈だが雲って居て月は出ぬので四辺は淡く明るくて、こんな夜、こんな処を〈Sと〉散歩したらと思〔う〕。二拾〔人〕程石の上に腰を下して花火を見る。犬の仔一匹通らん。天竜の水が静かに流れる。