いっときの気の迷い小説 | 寂兎のブログ

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常日頃、思ったことをなんか綴ってくブログです。たまに(?)小説あり、アニメ話あり

君と出逢えて好かった、どんなに嬉しかっただろう
時を巡り過ごしてきた日々は色褪せずにそのまま・・・・
君と、僕は何時の間にこんなに離れてしまったのだろう?
時の壁が僕等を隔ててしまったんだ
それでも僕は、君を忘れるもんか、絶対に忘れはしない
ずっと、ずっと、永遠に
僕から離れていった心が君から消えることは無いから
だから、他の心に寄り添ってしまうのを遠くから眺める位なら
いっそ、いっそ、
壊してしまおう
だから、今は、さようなら
さようら、さようなら・・・・・・・・・・
 繰り返し、繰り返し、歌を歌う
軽やかに、花が風に舞うように
澄み切った音色が優しく耳の奥の底まで響いて、頭の中で霧散する
歌は、風に乗って花を揺さぶる
はらはら、花びらが落ちる
その様子がまるで踊るように見えて、つい魅了されてしまう
眺めているうちにああ、また また眠くなってきた・・・・・・
            ****



 風丸の膝を枕代わりに頭を置き、体を横にして眠る春奈は幼い赤子のようだ。
対して風丸は春奈の頭を撫でながらカナリヤのように見事な音色を淀みなく歌として紡ぎあげる。
その姿はまるで愛する我子を寝付かせる聖母のように見える。
眼差しは春奈一点に注がれ、瞳には愛情で一杯に満たされている。
清らかな音色には濁りがなく、想い人のことを歌うに適した音であると思える。
 だが、その「歌」は純粋に相手を愛するは良いが、純粋故に起こった悲劇がうっすら見え隠れしている。
何やら不吉を臭わせる歌である。
このような歌があっても良いのかと苦情が殺到しそうなものだが・・
と、まあその歌はかなり古いもので知っている人間なぞごくごく僅かであろう、それに作詞・作曲者が不明というごく稀な歌である。
 人から人へ、伝わるわけもなし、しかもこの内容である、人気も無かったであろうに。
元より、近代にあるような歌ではない歌であるの確かだが、想い歌であるのに子守唄調であるのがまた摩訶不思議だ。
作詞者不明、作曲者不明のこの歌を何故風丸が気に入ったのかは定かでは無いが・・・・・・
とにかく、風丸の奏でる音、歌唱法に”この歌”は不思議と合っているのだ。
風丸のために出来た歌といっても過言ではない。
今この場に他の人間は一人も居ないが、もしも居たなら拍手喝采していただろう。
 ひらひらと何処から来たのか二頭の蝶々が、戯れに春奈の頭に止まった。
風丸はくすり、と微笑んだ。
二頭はちょこまか動き回り、落ち着く場所が見つかったのか、ぴたっと身を寄せ合い、固まった。
「・・?」
その様子に風丸は一瞬瞠目し、あは、と笑う。
「可愛い」
蝶が止まった場所は調度こめかみの部分で、何やら髪飾りをしているようで可愛らしい。
青い蝶に、赤い蝶。
この二頭のりんぷんが、陽射しに反射して、美しい。
それが水に差して出来た反射した光のように瑞々しく、揺れ動いて。
その蝶々が居る所為か、己の膝に眠る少女を何所か儚げに見せた。
 無性に涙が零れそうになるのを堪える。
理由など解からない、けれども胸が熱く、苦しいのだ。
歌が、歌えない。
呼吸が出来ないのだから。
突然の出来事にどう対処したら良いのか解からずおろおろする自分がどうしようもなく哀しかった。
 どうしてこうなるのかわからない、けれど無性に悲しい。
涙が零れそうになる。
自分の心の奥底で、何を悲しんでいるのか解からない。
くぅくぅと安らかな寝顔を見せる春奈に蝶が二頭、とまっただけで、こんなにも泣きたくなるような衝動に駆られるなんて。

「大好きだ」
春奈を力強く抱きしめた。

つよく、つよく、はなさないように、はなれないように



えんど



思った。なんだこりゃ?