今日は、私の好きな詩を載せようと思います。

 

 

朝の祈り

 

             藤堂孝雄

 

 

ゆうべはごめんねときみが言った

 

きみが恋人なら  それは仲直りの始まり

 

きみが妻なら  新しい戦いの前触れ

 

きみが生徒なら  先生はほっとする

 

きみが息子なら  父親はただうなずき

 

きみが風なら  倒れた木はもう答えない

 

きみが太陽なら  夏は続いて

 

きみが雲なら  今日は晴れるだろう

 

きみが隣の国なら  僕らの国は身構えて

 

きみが大きな国なら  僕らの国は恐縮する

 

きみが上司なら  僕は許そうと思う

 

きみが部下でも  僕は許そうと思う

 

そして

 

きみが鉛筆なら  僕はきのう書いた詩を破らなくちゃならない

 

僕はきみが嫌いじゃないけど

 

あやまってほしくなんて  なかったんだ

 

ごめんなさいって言葉が吐き出されたとき

 

きみの伏せたまぶたにつっと現れたかすかなとまどいが

 

どこかしら不穏な力となるのを  僕は見逃せない

 

謝罪は権力を生む

 

だからあやまってほしくないんだ

 

朝は等しく祈りたいんだ

 

言葉をすべて飲み込んで

 

狂った世界のために  ただ祈りたいんだ

 

きみが権力を生まないように  僕が権力を生まないように

 

無言でただ 祈りたいんだ

 

 

 

私はこの詩を読んで、体を覆っていた薄膜が剥がれ落ちる思いでした。

 

あなたは、何を感じましたか?