特に目的もなく、僕はぶらぶら歩いていた。

 

 

外は、まだ暗い。

 

太陽もまだ顔を出していなかった。

 

 

なんとなく、暗い気持ちになりかけたとき、

 

いきなり、目の前に気球が現れた。

 

 

倒れて、横になっている。

 

鮮やかな色だ。

 

 

僕は、びっくりしながら、じっと見る。

 

 

「ぼうっ!」

 

突然、気球の中で、火が燃えた。

 

「ぼうっ!」

 

たびたび、火が灯される。

 

 

僕はじっとしていられなくなって、駆けだす。

 

 

気球がよく見えるところまで、ぜいぜい息を切らしながら、走った。

 

 

大きな気球が姿を現す。

 

まるで、生き物みたいだ。

 

 

「あの気球に、君と乗りたい。」

 

強烈な願望が、稲妻のように、僕の中を貫いた。

 

 

 

迷っている暇はない。

 

君を探すために、また走る。

 

 

「きっと、すぐそばにいる。」

 

勘をたよりに、僕は君を探した。

 

 

「きっと、あそこだ。」

 

きっと、いる。

 

 

「いた!」

 

君は、空を見上げて、ぼんやりしている。

 

僕も空を見上げる。

 

 

「!!!」

 

そこには、もうはるか上の方に、さっきの気球が飛んでいた。

 

僕は、がっくりと肩を落とし、君に近づく。

 

 

「あれに、君と乗ろうと思ったんだ。」

 

「え?そうなの?」

 

 

「うん。でも、もう飛んじゃった。」

 

「そうだね。」

 

 

ふたりで、しばらく気球の行方を見守る。

 

 

「気持ちよさそうだね。」

 

「うん。きっと気持ちいいよ。」

 

 

「今度、乗ろうか?」

 

「え?いいの?」

 

 

「もちろんだよ。」

 

「よし、約束しよう。」

 

 

僕は小指を差し出し、君のものと、からめた。

 

 

「指切りげんまん。嘘ついたら、針千本のーます!」

 

ふたりで笑いながら、小指を振って、離した。

 

 

さっきまでの憂鬱は消えていた。

 

 

いつになるかわからない。

 

でも、横たわった気球を見たときから、僕は心に決めていた。

 

 

いつか、君と一緒に、空の旅に出るのだと。

 

 

「ふわりふわり。」

 

風を感じながら、上空に浮かぶ二人。

 

 

遥かかなたには、くっきりと山が見え、空は、雲の中にいるかのように、近い。

 

下に広がる、街並みを眺めながら、美味しい空気を吸う。

 

 

ふたりだけの時間とふたりの空。

 

きっと、きっと。

 

 

「手に入れてみせる。」

 

僕は君の横顔を見つめながら、そっと手をつないだ。

 

 

君の手は冷たく、ひんやりしていた。

 

僕の手であっためてあげる。

 

 

二人は、いつまでも手をつなぎながら、空を眺めていた。

 

 

太陽は燦燦と輝き、静かな一日が始まろうとしている。

 

 

 

 

                           完