前回は3時間もの格闘の末、いてもたってもいられなくなりギブアップを余儀なくされたばかりですが、今回はスタイリストのルーシーちゃんが「今日は本番日だからよろしくねっ!」と念入りに、そして脅迫的に私を呼び寄せました。
本番っていうのはなんかテストがあるみたいです。
もー、テストだがなんだか知りませんけどねえーえ、ルーシーちゃんねえ。
あたしだって課題がいっぱいあるんですよーおー。
暇そうなオーラは出てますけどねーえ、時間はいくらあっても足りねーでやんすよーおー。
と、相当しぶしぶブーブー想像の中で文句をタラタラ言いながら現場に向かいました。
ルーシーちゃんは顔が拳ぐらいちっちゃなお顔の黒人のスレンダーでキュートな美容師のたまごです。
今日も、「本当にごめんっ。本当にありがとうっ。来てくれてありがとうっ。本当にごめんっ。」と早くもあたふたしています。
あたしも「いいよっ。本当にいいよ。遅れてごめんっ。本当にごめんっ。」とつられてあたふたします。
さあ、前回の続きです。
超!スーパー!ハイパー!ストレートなおかっぱスタイルを作り上げるべく、私も精神統一でっす!
それにしたって、ルーシーちゃん。
以前にもまして、あたふたしています。ちょっと半泣きです。
さっきからずーっと眉毛がハの字です。
「今日のテストはすっごく大事なの。これで受かればあたしも美容師になれるのよ。」
「えっ。何ですか。これってただの練習とかじゃなくて本気の本番なんですか!?」
「相当。」
あたしはそうとは知らずにいつものようにヘラヘラしていましたが、よく見たらファイルを手にした試験官らしきおっしゃれ~な男性がこちらの様子をうかがっています。
こりゃあ、いけねえや。と、さっそくいつものヘラヘラモードからおかっぱの似合うミステリアス・ジャパニーズガールモードに切り替えます。
ぽち。
さあ、タイムリミットが近づくにつれルーシーちゃんのハの字眉毛にも力が入ります。
完成!おわったよっ!と思いきや、
「ちょっと、ちょっとこっち来て!早くっ!」とルーシーちゃんが鏡の裏に私を呼びます。
なんかよくわかんないけどけっこうビビリながら鏡の裏に行くと、素早くぱぱぱっとメイクアップです。
「あたし、実は前はメイクアップ・アーティストだったのよ。」とルーシーちゃん。
1分もたたないうちにみるみるプリティー・アジアンガールに変身です。
ルーシーちゃん、こっちのほうが才能あるんじゃないのってくらいスピーディーかつきれいなテクです。
何事もなかったかのように、(でもあたしの顔は確実な変化を隠せずに、)元の椅子に戻りました。
試験官がやってきて、無言で私の髪を観察します。
ビダルサスーンのCMみたいな気分です。
ルーシーちゃんの強張った顔や涙目が想像がつきますが、あたしも同じく緊張していたのでもうなにがなんだかわかりません。
試験官がついに口を開きました。
「とてもいい。合格だ、合格。」
と一発オーケーが出ました。「やったー!」とあたしとルーシーちゃんは大喜びです。
周りの受験生は何度もやり直しを命じられていたので、私たちは鼻高々です。
そして喜びのあまりルーシーちゃんは本気で泣き出してしまいました。
あたしは実際、女の子が泣いている時どうしていいかわかりません。
ポケットの中を探ってみましたが、あめ玉はみつからず。
気の利いた言葉もみつからず。
私は自分の机に山積みになっている本のことを思いました。