『世界中がアイ・ラヴ・ユー(Everyone Says I Love You)』(監督:ウディ・アレン 1996)は、マルクス兄弟出演の『御冗談でショ(Horse Feathers)』(監督:ノーマン・Z・マクロード 1932)中に使用されている楽曲名を題名にしたとされる、ロマンチック・ミュージカル・コメディです。
マンハッタンの上流階級のドリュー・バリモア(役名:スカイラー・ダンドリッジ)とエドワード・ノートン(役名:ホールデン・スペンス)は、婚約を真近に控えた倖せなカップルです。
エドワード・ノートンは、ドリュー・バリモアの異母妹であるナターシャ・リオン(役名:ジュナ・’D・J’・バーリン)に、高価なダイヤモンドの婚約指輪選びを手伝ってもらいます。
しかし、ドリュー・バリモアは、頼りになるタイプの男性を求めていることから、心の深層に隙間が生じています。
ナターシャ・リオンの勧めでエドワード・ノートンがデザートに指輪を忍ばせたところ、ドリュー・バリモアがそれを飲み込んでしまい、救急病院に運ばれてしまいます。
夫・アラン・アルダ(役名:ボブ・ダンドリッジ)と妻・ゴールディ・ホーン(役名:ステフィ・ダンドリッジ)は、リベラルな民主党支持の弁護士で、前妻との間に生まれた子供達の居る大家族と共に暮らしています。
彼等は、犯罪者を街から排除すべきだと主張し、ゴールディ・ホーンの犯罪者更生活動に反対する共和党支持の息子・ルーカス・ハース(役名:スコット・ダンドリッジ)に理解を示すことが出来ません。
アメリカ自由人権協会(ACLU)でボランティア活動をしているゴールディ・ホーンは、婚約パーティーに支援する活動・ティム・ロス(役名:チャールズ・フェリー)を連れて来ます。
ティム・ロスは、刑務所での刺傷事件の話で皆を怖がらせ、バルコニーでドリュー・バリモアを強引に抱き締めます。
最初はティム・ロスの積極的なアプローチに戸惑うドリュー・バリモアでしたが、やがて彼の魅力に心を奪われたことで、エドワード・ノートンと別れる決心をします。
ゴールディ・ホーンとアラン・アルダは、ゴールディ・ホーンの元夫・ウディ・アレン(役名:ジョー・バーリン)と親しくしています。
恋多きウディ・アレンは、パリに住んでおり、最近、薬物中毒の恋人と別れたばかりです。
ゴールディ・ホーンはウディ・アレンにもっとふさわしい女性を紹介しようとしますが、上手く行きません。
イタリアのヴェネツィアで父親と休暇を過ごしているナターシャ・リオンは、母親が心理学者である友人と共に、隣室の壁穴から患者達のセラピーを盗み聞きする習慣があります。
美術史家のジュリア・ロバーツ(役名:フォン・シデール)は、セラピストに夫に不満とロマンスへの願望について語ります。
ナターシャ・リオンは、ウディ・アレンにジョギング中のジュリア・ロバーツに偶然出会うことを提案し、彼に美術、音楽、旅行、そして急遽購入したパリの屋根裏部屋に興味がある素振りをさせたり、美術館やコンサートで偶然の出会いを演出したりして、ジュリア・ロバーツの関心を惹くことを演出します。
理想の男性に出会ったと確信したジュリア・ロバーツは、何も知らずに夫のロバート・ネッパー(役名:グレッグ)を捨てて、ウディ・アレンの許へと去って行きます。
ナターシャ・リオンは、ゴンドラ漕ぎに恋をし、彼と結婚するために大学を中退しようと計画しますが、新たな恋人・ビリー・クラダップ(役名:ケン・リスリー)に出会ったことでゴンドラの彼氏のことを忘れてしまいます。
競争心の強い姉妹・ギャビー・ホフマン(役名:レイン・ダンドリッジ)とナタリー・ポートマン(役名:ローラ・ダンドリッジ)は、ナターシャ・リオンの異母姉妹で、2人とも地元の青年・ヴァンダーモスト家の莫大な財産の相続人に夢中になりますが、14歳のナタリー・ポートマンは、相続人がギャビー・ホフマンに恋をしたことを知り心を痛めます。
認知症を患う88歳の祖父・パトリック・クランショーは、家政婦のトルード・クライン(役名:フリーダ)に付き添われていますが、徘徊壁の為に時折家から居なくなります。
暫くして、天から迎えが来たパトリック・クランショーの葬儀では、礼拝堂に安置されたパトリック・クランショー遺体が亡霊達と歌い踊ります。
ドリュー・バリモアは、元服役囚・のティム・ロスに法律を学んで法律事務所で働くことを勧めますが、ティム・ロスはドリュー・バリモアを巻き込んでギャング仲間と食料品店を襲います。
かろうじて逃走車から降りたドリュー・バリモアは、ハロウィーンパーティー会場で元婚約者のエドワード・ノートンと縒りを戻します。
再びドリュー・バリモアは、エドワード・ノートンがクラッカーの箱に忍ばせていた婚約指輪を飲み込んでしまいます。
ルーカス・ハースは、脳への酸素供給を阻害する動脈閉塞と診断されますが、恢復すると青年共和党員クラブを辞任し、左翼運動に傾倒し始めます。
ナターシャ・リオンは、コロンビア大学の学生・ビリー・クラダップ(役名:ケン)と別れた後、ニューヨークのラッパーに恋をし、続いてパリの颯爽とした男性に恋をします。
理想の男性との夢を叶えてしまったジュリア・ロバーツは、ウディ・アレンへの情熱を失い、夫・ロバート・ネッパーの許へ帰ります。
クリスマスにパリに旅行した大家族は、グルーチョ・マルクスをテーマにした新年パーティーに参加します。
アラン・アルダが風邪をひくと、ゴールディ・ホーンはウディ・アレンと共にパーティーに出席します。
2人は思い出話に花を咲かせ、結婚生活は破綻したものの、今も互いを想い合っていることを認め合います。
ゴールディ・ホーンはアラン・アルダを心から愛していつつも、ウディ・アレンとキスを交わし、彼に相応しい相手を見つけるよう励まします。
家族は’エヴリワン・セズ・アイ・ラブ・ユー’に合わせて踊り、ナターシャ・リオンはハーポ・マルクスの衣装を着てダンスパートナーとロマンチックな時間を過ごします。
淀川長治をして現代恋愛ミュージカルの傑作と言わしめた本作は(※1)、冒頭の「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」、「イフ・アイ・ハド・ユー」や「メイキン・ウーピー」等のスタンダード・ナンバーに彩られた、往年のハリウッド・ミュージカルのオマージュ作品になります。
ハリー・ウインストン店内のダンス、葬儀で行われるパトリック・クランショーと亡霊のダンス、SFXを用いたゴールディ・ホーンがセーヌ川沿いを舞うジンジャー・ロジャースとフレッド・アステア風デュエットダンス等、ドリュー・バリモアを除く主要キャスト全員による実歌唱(※2)が愉しめます。
マルクス・ブラザース映画のオマージュとしての軽妙なコメディ・タッチと、洪水の様な登場人物と饒舌がちな科白の合間に煌めく歌とダンスに溢れた本作が、非メジャー系の映画として1996年に製作されたことに驚きを覚えます(※3)。
『レオン』(監督:リュック・ベッソン 1994)から2年を経たナタリー・ポートマン、本作の3年後に製作された『25年目のキス』(監督:ラジャ・ゴズネル 1999)のドリュー・バリモアと『ノッティングヒルの恋人』(監督:ロジャー・ミッシェル 1999)のジュリア・ロバーツが出演している点に関しても、私的思い入れを感じる作品です。
ニューヨークを拠点として、パリやヴェネチアで撮影された本作は、ミュージカル映画を代表作する『巴里のアメリカ人』(監督:ヴィンセント・ミネリ 1951)、『パリの恋人』(監督:スタンリー・ドーネン 1957)、『恋の手ほどき』(監督:ヴィンセント・ミネリ 1958)のパリを連想させると共に、ヴェネチアを舞台とするレジェンダリーな恋愛映画『旅情』(監督:デイヴィッド・リーン 1955)を連想します。
ブロードウエイ舞台の映像化が主流と思われた1970年代以降のミュージカル映画の世界に、『ワン・フロム・ザ・ハート』(監督:フランシス・フォード・コッポラ 1982)と共に突如として現れた、映画ファンの口元を綻ばせる往年のハリウッド製ミュージカルのオマージュ作品です。
(※1)「・・・恋、恋、恋のミュージカルの傑作・・・」淀川長治「淀川長治 映画ベスト1000〈決定版新装版〉」(河出書房新社、2021年、pp182)
(※2)萩尾瞳「プロが選んだはじめてのミュージカル映画〈萩尾瞳セレクション50〉」(近代映画社、2008、pp108~109)
(※3)スウィートランド・フィルムズ、ミラマックス等により約2,000万ドル(≒21.8億円 @108.8)で製作されたとのことです。
§『世界中がアイ・ラヴ・ユー』
エドワード・ノートン、ドリュー・バリモア(ショーウインドゥのマネキンが踊るシーン)↑
ナタリー・ポートマン、アラン・アルダ、ゴールディ・ホーン↑
イツァーク・パールマンのヴァイオリン演奏↑
病院の群舞シーン↑
ジュリア・ロバーツ、ウディ・アレン↑
パトリック・クランショー(右から4人目)↑
ドリュー・バリモア、エドワード・ノートン↑
宙を舞うゴールディ・ホーン↑









