カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『ミラノの奇蹟( Miracolo a Milano)』は、脚本担当のチェーザレ・ザヴァッティーニの小説「トト・イル・ブオーノ」を基にヴィットリオ・デ・シーカ監督が1951年に映像化したファンタジー映画になります。

本作は、後にスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』(1982)に影響を与えた映画とされております。

 

ミラノ郊外にある菜園でエンマ・グラマティカ(役名:ロロッタ)が水遣りをした時、野菜の間で泣き叫ぶ新生児を見付けた彼女はその子を家に連れて帰ります。

エンマ・グラマティカは、その子を「トト」と名付けて育てます。

数年が経ち、エンマ・グラマティカが病気で亡くなると、子供は引き取られた孤児院で育てられます。

成人となり孤児院を出たフランチェスコ・ゴリザーノ演じるトトが、ミラノの街で仕事を探している時、道に置いた鞄をアルトゥーロ・ブラガリア(役名:アルフレド)に盗まれてしまいます。

フランチェスコ・ゴリザーノはアルトゥーロ・ブラガリアを追い駆けて盗みを白状させますが、鞄が欲しかったからとの男の言葉を聞いたフランチェスコ・ゴリザーノは、彼を赦すと共にスラムに在る彼の寝床で一夜を過ごすことになります。

スラムには、戦争で家を失った多くの人々が簡素な掘建て小屋に暮らしています。

没落した家族のメイドとしてスラムにやって来たブルネラ・ボーヴォ(役名:エドウィジェ)と出会ったフランチェスコ・ゴリザーノは恋に落ち、二人はやがて互いに心を寄せ合うようになります。

或る日、スラムの土地を新たに購入したグリエルモ・バルナーボ(役名:モッビ)を乗せた高級車が、大勢の取り巻きと共にスラム街に到着します。

不法占拠者としてスラムの住人達を一旦は追い出そうとしたブルネラ・ボーヴォですが、同じ指や鼻を持つ人間同士として彼等がそこに住み続けることを許可します。

しかし、スラムの人々が祭りを祝いメイ・ポール用の穴を掘っている最中に、突如石油が湧き出して来ます。

スラム街の住人パオロ・ストッパ(役名:ラッピ)は、石油をタンクに入れるとグリエルモ・バルナーボの会社に向かいます。

気が変わったグリエルモ・バルナーボは、住民を追い出す為に武装集団をスラム街に向かわせます。

混乱と催涙ガスの霧の中、フランチェスコ・ゴリザーノはメイ・ポールの上に登ります。

その瞬間、彼は自分を呼ぶ天使の姿をしたエンマ・グラマティカが近付いて来るのを見付けます。

エンマ・グラマティカは、願いを叶える魔法の鳩を手渡します。

 

ヴィットリオ・デ・シーカ監督は、同監督のネオレアリズモ作品同様、本作でもノン・プロフェッショナル俳優を起用しております。

そのことにより、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の映像世界とも言える、人生の厳しい現実の中で生活する'普通の人々'がリアルに描かれている様な気がします。

天使が登場する作品は枚挙に暇が有りませんが、個人的に真っ先に思い浮かぶのは『ベルリン・天使の詩』(監督:ヴィム・ヴェンダース 1987)、『素晴らしきかな哉、人生!』(監督:フランク・キャプラ 1946)、『天国から来たチャンピオン』(監督:ウォーレン・ベイティ、バック・ヘンリー 1978)ですが、『オール・ザット・ジャズ』(監督:ボブ・フォッシー 1980)のジェシカ・ラングの演じた天使や、アンドレイ・タルコフスキー監督の『ノスタルジア』(1983)に登場する少女・アンジェラの天使のイメージも強く印象に刻まれております。

この映画では、エンマ・グラマティカ演じる育ての母ロロッタが天使として登場しますが、フランチェスコ・ゴリザーノ演じるトト自身も天から遣わされた無垢(イノセント)な存在であることから、母子共に人間の夢を叶える天使と理解するのが自然ではないかと考えます。

天使映像のシーンが予算を大幅に超過させてしまったとのことですが、全編に散りばめられた幻想的なシーンと人間の業が醸し出すコントラストの妙は、この映画特有のリアリズム世界を浮かび上がらせている様に思います。

ネオレアリズモを基調としたマジカルで幻想的なイメージは、「百年の孤独」のガブリエル・ガルシア・マルケスやスティーブン・スピルバーグ監督にインスピレーションを与えたとの見解があります。

ファンタスティカルな映像表現が観る人のイマジネーションを刺戟して止まないネオレアリズモ作品として、これからも観続けて行きたい映画です。

 

§『ミラノの奇蹟( Miracolo a Milano)』

エンマ・グラマティカが菜園で見つけた乳児を抱く↑

フランチェスコ・ゴリザーノと扉(2022年新海誠監督の『すずめの戸締まり』に登場する扉を連想)↑

雲間から降り注ぐ天の光に集まり暖を取るスラムの人々↑

女性の彫刻に魅せられるスラムの住人↑

手を繋ぐフランチェスコ・ゴリザーノとブルネラ・ボーヴォ↑

井戸を掘削すると石油が湧き出る↑

フランチェスコ・ゴリザーノ、ブルネラ・ボーヴォ↑

フランチェスコ・ゴリザーノ、ブルネラ・ボーヴォ↑

女性の彫刻、フランチェスコ・ゴリザーノの魔法で得たドレスに身を包むブルネラ・ボーヴォの女主人↑

ブルネラ・ボーヴォ、フランチェスコ・ゴリザーノ↑

フランチェスコ・ゴリザーノの魔法で人間になった彫刻の女性↑

朝日を望むフランチェスコ・ゴリザーノとブルネラ・ボーヴォ(左下に2人の天使の使い)↑

ブルネラ・ボーヴォ↑

フランチェスコ・ゴリザーノに天使エンマ・グラマティカが魔法の鳩を渡す↑

フランチェスコ・ゴリザーノ、ブルネラ・ボーヴォ↑