1962年にフランソワ・トリュフォーが監督し、ジャン・グリュオーが脚色・演出に参画した『突然炎のごとく(Jules et Jim )』は、アンリ・ピエール・ロシェの小説「ジュールとジム」を基にした恋愛映画です。
第一次世界大戦前夜のフランス。
オスカー・ウェルナー(役名:ジュール)はオーストリア出身の内向的な作家で、外向きの性格のフランス人のアンリ・セール(役名:ジム)と共に詩や小説を書いていることから強い友情で結ばれます。
スライド投影で観た古代女神の胸像とその穏やかな笑顔に魅了された2人は、彫像のあるアドリア海の島に向います。
2人は彼の地で穏やかな笑みを浮かべた像を思わせる容姿を持った、自由奔放なジャンヌ・モロー(役名:カトリーヌ)と出会います。
意気投合した3人は共に穏やかで愉しい時間を過ごす様になりますが、次第にジャンヌ・モローとオスカー・ウェルナーの関係が密になります。
アンリ・セールはガールフレンドのヴァンナ・ユルビノ(役名:ジルベルト)との関係を続けており、2人の関係を距離を置いて見守ります。
第一次世界大戦宣戦布告の数日前、オスカー・ウェルナーとジャンヌ・モローは結婚の為にオーストリアに転居します。
敵味方に分かれたオスカー・ウェルナーとアンリ・セールは自分が友人を殺害する可能性を畏れます。
戦時中、アンリ・セールはオスカー・ウェルナーとジャンヌ・モローの新居を訪問し、幼い娘サビーヌ・オードパン(役名:サビーヌ)を連れてシュヴァルツヴァルトにあるバンガローに滞在します。
アンリ・セールはオスカー・ウェルナーから、ジャンヌ・モローがボリス・バシアク(役名:アルベール)との逢瀬を始めとする数々の情事が彼を苦しめ、彼とサビーヌ・オードパンを置いて6月間家を出ていたことを聞きます。
ジャンヌ・モローは自分に気があるアンリ・セールに接近し、彼を誘い始めます。
オスカー・ウェルナーは、ジャンヌ・モローが永遠に自分から離れてしまうことを畏れることから、アンリ・セールがジャンヌ・モローと結ばれることで彼女が自分から離れて行かないことを願い始めます。
暫くの間、3人はバンガローで幼い娘と共に倖せに暮らしますが、望めども子供が出来ないアンリ・セールとジャンヌ・モローの間に緊張が生じ始めます。
荒れだしたジャンヌ・モローと別れたアンリ・セールは、パリに戻ります。
ジャンヌ・モローと何度か手紙のやり取りをしている中で、ジャンヌ・モローが懐妊したことを知ったアンリ・セールは、彼女との再会することを決意します。
しかし、オスカー・ウェルナーからの手紙でジャンヌ・モローが流産したことを知ったアンリ・セールは、彼女と会うことを取り止めます。
それから暫くの時が過ぎ、アンリ・セールはパリでオスカー・ウェルナーと遭遇し、2人がフランスに戻っていたことを知ります。
ジャンヌ・モローはアンリ・セールと縒りを戻そうとしますが、アンリ・セールはヴァンナ・ユルビノと結婚する積りであることを告げます。
憤慨した彼女はアンリ・セールに銃を突きつけますが、彼は銃を奪い取ってその場を去ります。
数ヶ月の後、アンリ・セールが立ち寄ったニュース映画館でドイツの焚書映像を観ている時、後ろの席に座っているオスカー・ウェルナーとジャンヌ・モローの姿が目に入ります。
映画館を出た3人は、屋外のカフェに立ち寄ります。
ジャンヌ・モローはアンリ・セールに話したいことがあると言って、彼女の運転する車に乗るよう頼みます。
この映画を始めて観たのは1986年で、2004年に閉館した有楽シネマのリバイバル上映でした。
先般、久し振りにこの作品を鑑賞して感じたことは、ジャンヌ・モロー演じるカトリーヌの存在が愛と自由を象徴的に表す鳥の姿に思えたことです。
庭と庭の間を翔び廻り、籠に拘束しようとすると翔び立ち、愛(食料)が欠乏すると啼き騒ぎ、妖艶な羽模様の美しさで多くの異性を惹き付けて止まない姿がジャンヌ・モローと重なります。
芸術で結ばれているオスカー・ウェルナーとアンリ・セールが魅せられたアドリア海の古代女神が、あたかも『エクソシスト』(監督:ウィリアム・フリードキン 1973)のイラクでの遺跡発掘現場でマックス・フォン・シドーが掘り起こされた霊と対峙した時の様に、ジャンヌ・モローの姿を借りてアドリア海の島を訪れた2人の目の前に現れます。
ジャンヌ・モローを婚姻で引き留めることが叶わないことを悟ったオスカー・ウェルナーは、芸術家として希求する共通の’美’をジャンヌ・モローに見出すアンリ・セールの庭に彼女を誘うことで、彼女が彼等の森から翔び去らないように画策します。
しかし、ヴァンナ・ユルビノとの婚姻で家族生活を営むことを恋愛観とするアンリ・セールが自分の許を去ってしまったことで、美の化身としてのジャンヌ・モローの燻り続けていた自尊心の火種が炎となって燃え上がります。
アンリ・セールとオスカー・ウェルのファム・ファタルであるジャンヌ・モローが、空を羽ばたく美の象徴の様に自分の眼に映る、フランソワ・トリュフォー監督の映像芸術としてこれからも観続けて行きたい映画です。
§『突然炎のごとく』
アンリ・セール、オスカー・ウェルナー↑
スライド 投影で古代女神の胸像を観るオスカー・ウェルナーとアンリ・セール↑
アンリ・セール、ジャンヌ・モロー、オスカー・ウェルナー↑
橋の上から飛び込もうとするジャンヌ・モロー(個人的に、アドリア海の海涌の女神が水に戻る様にも思えるシーン)↑
ボリス・バシアク、アンリ・セール、オスカー・ウェルナー↑
アンリ・セール、オスカー・ウェルナー、ジャンヌ・モロー↑
ジャンヌ・モロー↑
ジャンヌ・モロー、アンリ・セール↑
オスカー・ウェルナー、ジャンヌ・モロー↑
アンリ・セール、オスカー・ウェルナー↑