アッバス・キアロスタミ監督が1987年に撮った『友だちのうちはどこ?』は、ファジル国際映画祭で最優秀監督賞・審査員特別賞を受賞し、ロカルノ国際映画祭で銅豹賞・FIPRESCI賞特別賞、エキュメリック審査員賞特別賞を受賞した作品で、キネマ旬報年度別ベストテンでは第8位にランキングされております。

 

ババク・アハマッドプール(役名:アハマッド)が通うイラン北部コケール村の小学校で、教師のホダバフシュ・デファイが生徒達の宿題を確認しています。

アハマッド・アハマッドプール(役名:モハマッド・レダ・ネマツァデ)は宿題をノートではなく紙に書いてきたことから、これまでホダバフシュ・デファイに度3度注意されています。

怒ったホダバフシュ・デファイは、アハマッド・アハマッドプールに次も同じことをしたら退学にすると言い渡します。

ババク・アハマッドプールが家に帰ると、自分のノートの他にアハマッド・アハマッドプールのノートを持ち帰ってしまったことに気付きます。

このままではアハマッド・アハマッドプールが退学になってしまうことを心配したババク・アハマッドプールは、母親のイラン・オタリにノートを届けに行かなければならないことを必死に説きます。

しかし、イラン・オタリは他人のことより自分の宿題を早く終わらせてパンを買いに行けと言い放ちます。

埒が明かないことに業を煮やしたババク・アハマッドプールは、アハマッド・アハマッドプールが住むポシュテ村に向かいます。

小山を越えて到着したポシュテ村で、ババク・アハマッドプールはアハマッド・アハマッドプールの家を尋ねますが、なかなか彼の家を知る人に出会えません。

苦労の末、辿り着いた親類の家でババク・アハマッドプールは、彼が5分前にコケール村に行ってしまったことを知らされます。

アハマッド・アハマッドプールを追い駆けて来た道に歩を進めていると、ババク・アハマッドプールは祖父のラフィア・ディファイに、孫が急いでいるのを知りながら目上の命に従わせる’躾’の名目で、煙草を家から取ってくるように命令されます。

ババク・アハマッドプールが煙草を見つけられず戻ってくると、その場にいた見ず知らずの木工職人が紙を1枚くれといって、アハマッド・アハマッドプールのノートを勝手に破ってしまいます。

木工職人がアハマッド・アハマッドプールの姓’ネマツァデェ’であることを聞いたババク・アハマッドプールは、彼がアハマッド・アハマッドプールの父親であるかを尋ねますが、職人は何も答えずにロバに乗ってポシュテ村へと立ち去ります。

木工職人を後を追ってポシュテ村に着いたババク・アハマッドプールは、彼がアハマッド・アハマッドプールの父親ではなかったことを知ります。

日が暮れたポシュテ村で、ババク・アハマッドプールはアハマッド・アハマッドプールの家を知っていると言う老人ラフィア・ディファイに出会います。

道中、先を急ぐババク・アハマッドプールの思いとは裏腹に、一輪の花を摘んだラフィア・ディファイは、彼にノートに花を挟んでおくと良いと言います。

しかし、ババク・アハマッドプールは、ラフィア・ディファイに案内された家が先程の木工職人の家であることに気付きます。

失意の中帰宅したババク・アハマッドプールは、食事を摂らずに泣き続けた後、宿題を始めます。

 

アッバス・キアロスタミ監督の『桜桃の味』(1997)同様、人生行を表わすかのようなつづら折りの道が登場する本作は、少年の清冽な眼が映し出す世の中を描いた作品ではないかと考えます。

この映画を観ていると、イタリアのネオレアリズモ作品の様なノン・プロフェッショナルの俳優達が演じる人物が、夫々象徴的な存在であるかの様に自分は感じます。

作品中、ホダバフシュ・デファイ演じる教師の姿を観ていると、自分は『ケス』(監督:ケン・ローチ 1969)でデイヴィッド・ブラッドレー少年に理不尽な扱いをする体育教師を思い起こします。

そして、他人の困難事よりも家事や息子の宿題を優先させようとする母親イラン・オリタや、自分が受けた理不尽は教育だったとうそぶき孫に無体な要求を強いる祖父ラフィア・ディファイ、金属製の扉を売りつけることで手に入れた伝統的木工細工の扉を海外に売り捌く木工職人の姿が、F値の低いレンズの様な情報量の多い少年の眼を通して映し出されます。

それらは、自愛的、利己的な姿や、理不尽な踏襲型ハラスメント(盲従の強要)を伝統の様に繰り返しながらも、文化的な伝統をたやすい甘言で抛棄する社会を暗に批判しているのかも知れません。

小津安二郎監督を信奉するとされるアッバス・キアロスタミ監督によるミニマルな映像の中に、往年のポーランド映画を思い起こす、検閲の枠内で最大限に想像の糊代を刺戟する映像作品としてこれからも観続けて行きたい映画です。

 

§『友だちのうちはどこ?』

ババク・アハマッドプール、アハマッド・アハマッドプール↑

ホダバフシュ・デファイ↑

アハマッド・アハマッドプール、ババク・アハマッドプール↑

イラン・オタリ、ババク・アハマッドプール↑

ラフィア・ディファイ(左)、ババク・アハマッドプール(中央)↑

つづら折りの道で木工職人が乗るロバを追い駆けるババク・アハマッドプール↑

ババク・アハマッドプールと木工職人↑

ババク・アハマッドプールとラフィア・ディファイ(約半世紀前にラフィア・ディファイが作った扉に差し込んだ光が、ステンドグラスの様に頭上に投影されている)↑

窓の外の強風を見ながら宿題をするババク・アハマッドプール↑