セリーヌ・ソング監督が脚本を書いて2022年に撮った長編映画デビュー作『パスト ライブス/再会(Past Lives)』は、多くの米国映画賞(※)に輝く宿世と恋愛を描いた作品です(鑑賞館:TOHOシネマズ池袋 Screen 5)。

 

2000 年のソウル。

ムン・スンア(役名:12歳の’ノラ’、ナヨン・ムーン)とイム・スンミン(役名:12歳のチョン・ヘソン)は 12 歳のクラスメートで、お互いに恋愛感情を抱いております。

その直後、芸術で生計を立てるムン・スンアの家族が活動の幅を拡げる為にトロントに移住したことから、2人は連絡が取れなくなり、ムン・スンアはカナダで名前をノラ・ムーンに変えます。

12年後の2012年、ユ・テオ演じるチョン・ヘソンが兵役を終えた頃、グレタ・リー演じる’ノラ’・ナヨン・ムーンはトロントからニューヨークに引っ越します。

或る日、グレタ・リーは、ユ・テオが名前が変わったことを知らずにグレタ・リーをSNSで探していることに気付きます。

ビデオ通話を介した2人の交流が始まりましたが、グレタ・リーは作家が執筆活動に利用するリトリート施設に入居する為、そしてユ・テオは中国語の研修で上海に居る為に、互いを訪問することが叶いません。

その様な状況が続く中、グレタ・リーはユ・テオに、執筆に集中することを優先したいことから、暫く連絡を絶つことを提案します。

リトリート施設で、グレタ・リーはユダヤ教徒の小説家ジョン・マガロ(役名:アーサー・ザトゥランスキー)と出会い恋に落ちます。

その頃、ユ・テオも或る女性と出会い付き合い始めます。

2024年、ジョン・マガロと結婚したグレタ・リーはニューヨークに住んでいます。

付き合っていた女性と距離が生じたユ・テオは、グレタ・リーに逢いにニューヨークに向います。

ユ・テオが逢いに来ることを聞いたジョン・マガロは、自分の存在が未完の恋愛の障碍となり、婚姻はグリーンカードを得る為の方便ではないかという懸念があったことをグレタ・リーに告白します。

その際、自分のこれまでの寝言が全て韓国語であることも知らされたグレタ・リーは動揺しますが、ジョン・マガロに彼への愛は真実であることを断言します。

翌日の夜、食事に出かけた3人は、食後にカウンター・バーに立ち寄ります。

最初、両脇に座った男性2人との会話を通訳していたグレタ・リーでしたが、途中からユ・テオと2人だけの会話になります。

グレタ・リーが化粧室に立った時、ユ・テオはジョン・マガロにノラと2人だけで話していた事を謝りますが、ジョン・マガロはユ・テオに遭えたことに感謝の気持ちを伝えます。

彼らはジョン・マガロとグレタ・リーのアパートに戻ります。

ユ・テオは彼等がいつの日か韓国を訪問するよう誘い、タクシーを呼びます。

グレタ・リーも一緒に待ち、2人は手配した車両の到着迄長い視線を交わします。

そしてユ・テオは、今を前世とする来世の関係はどうなるかをグレタ・リーに尋ねます。

 

Past Lives(前世)を表題とする本作では、グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロの今世の出逢いと結びつきを、韓国語で’縁’を意味するとされる’イニョン(摂理、宿世)’をキー・ワードとして描いている様に思われます。

この映画で感銘を覚えたことは、ある段階から今世では婚姻が2人の’縁’の最終形ではないことを互いに自覚しながらも、引き寄せ合うグレタ・リーとユ・テオの魂です。

文学賞(ノーベル賞やピューリッツァー賞)受賞を目標に執筆活動することを今世の使命とするグレタ・リーは、12歳当時の彼女が終世を共に暮らすことを誓ったユ・テオと道が分かれることになっても、惹かれ合う魂に’縁’の存在を思い続けます。

終盤、ジョン・マガロは憂悶の末に、婚姻のパートナーとして愛し合う自分達の関係も妻とユ・テオの関係も、共に今世の’縁’であることを認めます。

ユ・テオも、直截逢って彼女への想いを告げると共に、異性として同居するパートナーではない宿世を確認します。

ニューヨークの深夜の別離の場面で、12歳の時には「昼間」だったY字坂の別れの場面が、当時の2人の姿と場所のまま「深夜」のY字坂での別離となる場面には、心が激しく揺れるのを感じました。

大人になったグレタ・リーとユ・テオの邂逅(めぐり逢い)の場面に多用されるロング・ショットと逆光撮影に、セリーヌ・ソング監督の映像作家としての魅力を感じる恋愛映画としてこれからも観続けたい作品です。

 

(※)全米映画批評家協会賞・作品賞、ニューヨーク映画批評家協会賞 第一回作品賞 、2023年 LA批評家協会賞・ニュー・ジェネレーション賞 、インディペンデント・スピリット賞 作品賞・監督賞、ボストン映画批評家協会賞 ・New Filmmaker賞 、ワシントンD.C.映画批評家協会賞・オリジナル脚本賞 、シアトル映画批評家協会賞・作品賞 

 

PS:映画では、公園と思しき公共施設にある現代美術作品が効果的に登場します。

東京都初台オペラシティや香川県直島ベネッセハウス・ミュージアムに展示されているジョナサン・ボロフスキーの立像登場は、好きな作家の作品なので嬉しくなりました。

 

§『パスト ライブス/再会』

 

Y字坂の別離:イム・スンミン(役名:12歳のチョン・ヘソン)、ムン・スンア(役名:12歳の’ノラ’、ナヨン・ムーン)↑

ムン・スンア、イム・スンミン↑

ジョン・マガロ、グレタ・リー↑

グレタ・リー、ユ・テオ↑

ユ・テオ、グレタ・リー↑

ユ・テオ、グレタ・リー↑

ユ・テオ、グレタ・リー↑

ユ・テオ、グレタ・リー↑

Y字坂の別離(夜):イム・スンミン(役名:12歳のチョン・ヘソン)、ムン・スンア(役名:12歳の’ノラ’、ナヨン・ムーン)↑