ハワード・ホークス監督が1959年に撮った『リオ・ブラボー(Rio Bravo)』は、B・H・マッキャンベルの短編小説を映像化した西部劇です。

 

粗暴な西部の資産家である兄ジョン・ラッセル(役名:ネイサン・バーデット)に甘やかされて育ったクロード・エイキンス(役名:ジョー・バーデット)は、以前副保安官だったアルコール依存症のディーン・マーチン(役名:デュ―ド)をからかい、彼が欲する酒代の金貨を噛み煙草の唾壺に投げ込みます。

保安官のジョン・ウェイン(役名:ジョン・T・チャンス)は、ディーン・マーチン(役名:デュ―ド)が壺に手を伸ばそうとするのを静止します。

憤ったディーン・マーチンはジョン・ウェインを殴り倒しますが、今度はクロード・エイキンスはディーン・マーチンを殴り始めたことから、彼を止めようとした丸腰の男を撃ち殺してしまいます。

恢復したジョン・ウェインは、クロード・エイキンスを追ってジョン・ラッセルの酒場に入り、ディーン・マーチンの援護によりクロード・エイキンスを殺人容疑で逮捕します。

ジョン・ウェインの友人ワード・ボンド(役名:パット・ホイーラー)は、物資とダイナマイトを積んだ荷車列を率いて町に入ろうとしますが、その為にはジョン・ラッセルの部下をかき分けて進まなければなりません。

ジョン・ウェインは、ジョン・ラッセルの小隊と彼等が解放したいクロード・エイキンスとの間には、自分とディーン・マーチンと脚が不自由な老いた副保安官ウォルター・ブレナン(役名:スタンピー)だけであることを明かします。

ジョン・ウェインはワード・ボンドのワゴンにリッキー・ネルソン(役名:コロラド・ライアン)が居ることに気付きますが、リッキー・ネルソンは問題を起こすつもりはないと約束します。

その夜、ホテル・オーナーのペドロ・ゴンザレス=ゴンザレス(役名:カルロス・ロバンテ)は、ワード・ボンドが戦闘員を募集しようとしているとジョン・ウェインに警告します。

ジョン・ウェインはワード・ボンドの所為で誰かが傷つくことは望んでおらず、ワード・ボンドを止めようとします。

ワード・ボンドはリッキー・ネルソンが助けてくれるかを尋ねますが、リッキー・ネルソンは自分の闘いではないと断ります。

その後、ジョン・ウェインはホテルで不正なカードゲームが行われていることに気付きます。

そこに指名手配のイカサマ師の未亡人女性アンジー・ディッキンソン(役名:フェザース)が居ることに気付いたジョン・ウェインは、彼女の不正を暴こうとしますが、リッキー・ネルソンは別の男のイカサマを摘発します。

ワード・ボンドが銃撃されたことで、ジョン・ウェインとディーン・マーチンは犯人をジョン・ラッセルの酒場まで追い込み、ジョン・ウェインはディーン・マーチンに狙撃犯を撃つことを許可します。

アンジー・ディッキンソンはジョン・ウェインを守るために密かにショットガンを持って一晩中起きていましたが、そのことを知ったジョン・ウェインは、彼女の身の保全の為に町を去るよう命じますが、彼女は駅馬車には乗らずに町に残ります。

ウォルター・ブレナンは土地を奪われたジョン・ラッセルにかねてから遺恨があり、一人留置場に乗り込んできた彼に何か近辺で問題が起きたら弟クロード・エイキンスを撃つと脅します。

これを聞いた、ジョン・ラッセルは酒場のミュージシャン達に情け容赦無きことを意味する「エル・デグエロ(凶悪な歌)」を繰り返し演奏させ、ジョン・ウェイン達を精神的に追い込もうとします。

ジョン・ウェインはディーン・マーチンに古い銃と服、そして依存症でお払い箱になったときに置き忘れた黒い帽子を返し、ディーン・マーチンは再出発を期して髭を剃ります。

身なりを整えて留置場に戻って来たディーン・マーチンを敵と間違えて発砲したウォルター・ブレナンに、ディーン・マーチンの心は激しく動揺します。

翌日、ジョン・ラッセルの部下に待ち伏せされたディーン・マーチンは捉えられ、ジョン・ウェインはクロード・エイキンスを解放しなければディーン・マーチンの命は無いと脅されます。

リッキー・ネルソンとアンジー・ディッキンソンは、策を講じて彼等の注意を反らした隙に、ジョン・ウェインにライフルを投げ、ディーン・マーチンを解放することに成功します。

ディーン・マーチンとジョン・ウェインはホテルに戻り、ディーン・マーチンを入浴させますが、ジョン・ラッセルの手下はペドロ・ゴンザレス=ゴンザレスの妻エステリータ・ロドリゲス(役名:コンスエラ・ロバンテ)を捕らえ、彼女にジョン・ウェインを罠を仕掛けた階下に呼ぶ様に命じます。

ディーン・マーチンはクロード・エイキンスを釈放することをジョン・ウェインに主張し、ジョン・ラッセルの部下を留置場に連れて行きます。

留置場に着くと、ディーン・マーチンの目論見が当たり、待ち伏せていたスタンピーが発砲します。

銃撃戦の混乱の中、数人の男達が捕まえたディーン・マーチンをジョン・ラッセルのところへ引きずり込み、ジョン・ラッセルはディーン・マーチンと弟クロード・エイキンスとの交換を要求します。

ジョン・ウェインは要求に同意し、人質交換場所にリッキー・ネルソンを連れて行きます。

 

ディーン・マーティンとリッキー・ネルソンの歌唱(※1)も愉しいこの映画は、和田誠と山田宏一の共著「たかが映画じゃないか」で、両名からワン・オブ・ザ・ベストワン扱いされている作品になります(※2)。

この映画は、『真昼の決闘』(監督:フレッド・ジンネマン 1952)とは異なり、敵対する一味に対峙する保安官ジョン・ウェインに、彼が望むと望まざるに拘わらず共闘を申し出る人々の姿が描かれます。

しかしながら、その協力者達は、アルコール依存症、経験の浅い青年、脚の不自由な老人や民間人(宿屋のメキシコ人夫婦、指名手配中の女性ギャンブラー)であるという設定に、自分は得も言えない興趣を感じます。

協力を申し出る人々を危険に晒すことを望まないジョン・ウェインは、器用さを感じない素振りで彼等の心意気を躱(かわ)そうとします。

ジョン・ウェインが演じるジョン・T・チャンスは、和田誠と山田宏一が指摘する様に、保安官としての立場を維持しつつも、全ての人物と対等に接する懐の深さがある様に思います。

『真昼の決闘』のグレース・ケリー同様闘うアンジー・ディッキンソンの姿と、現代的な粋とは一線を画すジョン・ウェインの恋愛が繊細な横糸で紡がれた、ハワード・ホークス監督の西部劇の逸品として好きな映画です。

 

(※1)「ライフルと愛馬」がウォルター・ブレナン、ディーン・マーチン、リッキー・ネルソンの3人で歌われ、「シンディ」がリッキー・ネルソンによって歌われます。

本作は人気ロカビリー歌手リッキー・ネルソンの映画初出演作としても知られておりますが、個人的にはリッキー・ネルソンのバンドで、エルヴィス・プレスリーの復活期以降のギタリストであるリチャード・バートンが演奏していたことが思い浮かびます。

 

(※2)和田誠・山田宏一「たかが映画じゃないか」文藝春秋、1978、表紙&pp40~44

 

§『リオ・ブラボー(Rio Bravo)』

アンジー・ディッキンソン↑

リッキー・ネルソン、ジョン・ウェイン↑

ディーン・マーチン(ビア・マグの異変に気付く)↑

ディーン・マーチン(上階の男を仕留める)↑

クロード・エイキンス、ジョン・ラッセル↑

「ライフルと愛馬」を歌うウォルター・ブレナン、ディーン・マーチン、リッキー・ネルソン達の姿を見守るジョン・ウェイン↑

ウォルター・ブレナン↑

ジョン・ウェイン、リッキー・ネルソン、ウォルター・ブレナン↑

逢坂剛・川本三郎「わが恋せし女優たち」(七つ森書館、2014年、pp180)で、シド・チャリシーと共に論じられているアンジー・ディッキンソンが踊り子であった過去の姿を告白・披露するシーン↑

 

§和田誠・山田宏一「たかが映画じゃないか」

『リオ・ブラボー』の賞賛文章が書かれている表紙↑