ジャン・コクトーが1950年に脚本を書き監督した『オルフェ(Orphée)』は、ギリシア神話のオルペウス伝説を基にした映像作品になります。

 

有名な詩人ジャン・マレー(役名:オルフェ)が、カフェ・デ・ポエットを訪れます。

そこに、マリア・カザレス(役名:王女)と彼女が支援する詩人エドゥアール・デルミ(役名:セジェスト)が到着します。

酩酊したエドゥアール・デルミの乱闘を警察が拘留しようとした時、逃走したエドゥアール・デルミは、2台のバイクに轢かれてしまいます。

マリア・カザレスは病院に搬送する為に警察にエドゥアール・デルミを車に乗せるよう指示し、ジャン・マレーを証人として車に乗せるように言い付けます。

車に乗り込んだジャン・マレーは、エドゥアール・デルミが既に死亡し、マリア・カザレスが病院にバイエルン向かわないことを知ります。

ラジオからレジスタンスに向けて放送されたメッセージを思わせる抽象的な詩が流れる中、オートバイ乗り2人を伴って彼等は城へ向かいます。

 廃墟となった城で、マリア・カザレスはエドゥアール・デルミを蘇生させ、彼女とエドゥアール・デルミ、そして2人のバイク乗りはジャン・マレーを残して鏡の中に消えて行きます。

彼が荒涼とした風景の中で目覚めると、ジャン・マレーの到着を待っていたマリア・カザレスの運転手フランソワ・ペリエ(役名:運転手ウルトビーズ)がジャン・マレーをロールスロイスで家迄送り届けます。

ジャン・マレーの家では、妊娠中の妻マリー・デア(役名:ユリディス)、アンリ・クレミュー(役名:警部)、そして妻の友人ジュリエット・グレコ(役名:アグラニオス)がジャン・マレーの失踪について話し合っています。

帰宅したジャン・マレーは、遺体が見つからないエドゥアール・デルミの行方に疑問が残るにも拘わらず、昨夜の詳細を説明しようとしません。

ジャン・マレーは、フランソワ・ペリエを自分の家に住まわせます。

マリー・デアはジャン・マレーに懐妊を伝えようとしまが、拒否されてしまったことにより黙りこんでしまいます。
フランソワ・ペリエがマリー・デアと恋に落ちる一方、ジャン・マレーはロールスロイスのラジオから流れる抽象詩を聞くことに夢中になり、マリア・カザレスは死神(‘死’)であることが明らかになります。

マリー・デアが死の使い達に殺害されると、フランソワ・ペリエは彼女を取り戻すためにジャン・マレーと冥界へ行くことを提案します。

ジャン・マレーは、夢の中で訪れて来る死神マリア・カザレスに恋をしたのかもしれないと告白します。

フランソワ・ペリエはジャン・マレーに、マリア・カザレス(’死’)かマリー・デアのどちらの女性を裏切るのかを問います。

ジャン・マレーは、マリア・カザレスが残した手袋を着用して死後の世界に入ります。

冥界でジャン・マレーは、自分がマリー・デアの死を尋問する法廷の原告となっていることに気付かされます。

マリア・カザレスが不法にマリー・デアを奪い去ったことが判決文で言い渡され、ジャン・マレーがマリー・デアの姿を見ないことを条件とすることでマリー・デアは蘇生します。

フランソワ・ペリエに付き添われたジャン・マレーは、マリー・デアと共に家に帰ります。

マリー・デア が、未知の詩を求めてラジオを聴いているジャン・マレーの乗ったロールスロイスを訪れると、ジャン・マレーが後部座席に座っている鏡の中のマリー・デア を見てしまいます。

そこへ、ジュリエット・グレコに扇動されたカフェ・デ・ポエットの群衆が、エドゥアール・デルミ殺害に関するジャン・マレーの復讐にやって来ます。

ジャン・マレーは、フランソワ・ペリエから贈られたピストルで武装して彼らに立ち向かいます。

 

ジャン・コクトーは監督作品『双頭の鷲』(1948)で、ジャン・マレーを死の使いとして王妃エドウィジュ・フィエールとの恋愛を描きましたが、この映画では現世と黄泉を行き来する死神マリア・カザレスとの愛を描いております。

本作は竪琴の名手である吟遊詩人オルペウス(オルフェ)が、毒蛇に嚙まれて死んだ妻エウリュディケー(ユリディス)を取り戻すために冥府に行ったギリシャ神話が基になっております。

冥界でエウリュディケーを見ることを禁じられたオルぺウスが振り返ってしまったことで妻を失うプロットは、旧約聖書「創世記」で滅亡となるソドムから神に救われたロトの妻が、禁を破って振り返ったことにより塩柱になってしまったことや、黄泉からイザナミノミコトを連れ出す際のイザナギノミコト、そして、神の国からの脱出時に告げられる『千と千尋の神隠し』(監督:宮崎駿 2001)等の’振り返りの禁’を連想します。

ジャン・マレーに恋したマリア・カザレスが、マリー・デアからジャン・マレーを奪い黄泉へと誘おうとする一方、フランソワ・ペリエは、終始マリー・デアの倖福を第一に考え続けます。

その様なフランソワ・ペリエのマリー・デアへの愛が、鏡の様に自分の利己的な愛を映し出したことで、覚醒したマリア・カザレスのジャン・マレーへの愛は私欲を超えたパートナーの倖せを願うステージへと変化します。

冥界と現世を行き交うこの映画では、逆回しやストップ・トリック(止め写し)、そして水面を鏡面に置き換えた映像効果が効果的に用いられます。

それらは、VFXに慣れた現在の目にも十分に刺戟的で、優れた映像作家の作品とSFX/VFXについて考えさせられます。

「鏡に映る自分の人生を見ると死神が見えてくる」と語るジャン・マレーの科白が心に滲み込む、ジャン・コクトーの映像芸術としてこれからも観続けて行きたい映画です。

 

§『オルフェ(Orphée)』

マリア・カザレス、エドゥアール・デルミ↑

マリア・カザレス、ジャン・マレー↑

ジャン・マレー(鏡の中に入ろうとするが叶わない)↑

マリー・デア、ジュリエット・グレコ↑

ジャン・マレー、マリー・デア↑

マリア・カザレス、マリー・デア↑

フランソワ・ペリエ、ジャン・マレー↑

マリー・デア、ジャン・マレー、フランソワ・ペリエ↑

フランソワ・ペリエ、ジャン・マレー↑

マリー・デア↑

マリア・カザレス、ジャン・マレー↑