ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞、米国アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞等を受賞した『ノマドランド(Nomadland)』は、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」を原作にクロエ・ジャオが脚本を書き2021年に製作・監督したロード・ムービーです。

 

2011年のネバダ州エンパイア。

最近亡くなった夫と共に長い間働いていた石膏工場が閉鎖され、フランシス・マクドーマンド(役名:ファーン)は職を失います。

フランシス・マクドーマンドは家財を処分して購入したキャンパーを運転し、仕事を探しながら旅をする生活をしています。

冬の間、Amazon の梱包 センターで季節限定の仕事に就いている時、同僚のリンダ・メイ(役名:リンダ)は、フランシス・マクドーマンドに車内で移動生活をするノマド仲間をサポートする ボブ・ウェルズ(役名:ボブ)が主催するアリゾナ州のキャンプにフランシス・マクドーマンドを誘います。

最初は断ったフランシス・マクドーマンドでしたが、寒くなり仕事を見つけるのに苦労するにつれて考えを変えます。

フランシス・マクドーマンドはそこで仲間たちと出会ったことで、自給自足のスキルを会得します。

タイヤがパンクしたとき、フランシス・マクドーマンドはシャーリーン・スワンキー(役名:スワンキー)のキャンパーを訪ね、タイヤを買うために街まで乗せてくれるよう頼みます。

シャーリーン・スワンキーはフランシス・マクドーマンドを叱責し、移動車のサバイバル・スキルを学ぶように勧めます。

打ち解けたシャーリーン・スワンキーは、癌で余命が限られていることと、病院で過ごすよりも旅先で想い出を作ることにしたことをフランシス・マクドーマンドに話し、そして彼女に別れを告げます。

フランシス・マクドーマンドは、デヴィッド・ストラザーン(役名:ディブ)が働くサウスダコタ州のキャンプ場で、キャンプ・ホストの仕事に就きます。

フランシス・マクドーマンドとデヴィッド・ストラザーンは、サウスダコタ州でレストランの仕事に就きます。

或る夜、デヴィッド・ストラザーンを探している彼の息子がレストランを訪れ、彼の家族と会うことを懇願します。

デヴィッド・ストラザーンは躊躇しますが、フランシス・マクドーマンドは彼に行くよう勧めます。

新しい仕事に就いたフランシス・マクドーマンドでしたが、キャンパーが故障してしまったフランシス・マクドーマンドは修理する余裕が無いことから、カリフォルニアに住む妹を訪ね借金をします。

その後、フランシス・マクドーマンドはカリフォルニアに居るデヴィッド・ストラザーンと息子の家族を訪問し、彼がそこで暮らすことを決めたことを知ります。

デヴィッド・ストラザーンはフランシス・マクドーマンドへの想いを伝え、共に暮らすことを提案しますが、彼女はわずか数日で家を出て海に向かいます。

フランシス・マクドーマンド はAmazon の梱包 センターの仕事に戻り、その後アリゾナでのキャンプを再訪します。

そこで彼女はシャーリーン・スワンキーが亡くなったことを知り、彼女とノマド達はキャンプファイヤーに石を投げて彼女を弔います。

フランシス・マクドーマンドは亡夫への想いをボブ・ウェルズに語り、ボブ・ウェルズは息子が自殺した話を打ち明けます。

ボブ・ウェルズは、ノマドのメンバーは常に「いつの日か」再会することを約束する為、別離は決して終わりであると信じていないことを告げます。

フランシス・マクドーマンドは、倉庫に保管していた家財を処分する為に、無人状態に変貌したエンパイアに戻ります。

 

この映画で語られるノマド生活はハウスレスであってホームレスではないという科白は、クロエ・ジャオ監督のメッセージが表わされた言葉ではないかと考えます。

それは、フランシス・マクドーマンドが定住により人や土地に縛られる生活を拒否する姿勢を表現していると共に、時空や地勢を超えた自由な魂を意味している様にも感じます。

しかしながら、文筆家の川本三郎は本作に登場するノマドの人々の多くが、公的年金だけでは生活が出来無くなった高齢者が直面する現実を指摘しており、その意味でやがて肉体労働が困難になるであろうフランシス・マクドーマンドの将来に懸念を抱いております(※)。

映画では、家族と定住することになったデヴィッド・ストラザーンが、フランシス・マクドーマンドに同居を申し込みます。

ネバダ州エンパイアから巣立ったフランシス・マクドーマンドの自由な魂は、敢えて安寧の道を断り、ノマドの魂達と「いつの日か」再会する人生を自分の意志で選択します。

その意味で、余命幾許も無いシャーリーン・スワンキーがフランシス・マクドーマンドに嬉々として「病院で過ごすよりも旅先で想い出を作る」と言い残し、旅先で夢を叶えたことをフランシス・マクドーマンドに画像報告する展開は強く心に刻まれます。

観終わった後に多くのシーンと科白が反芻される、クロエ・ジャオ監督とフランシス・マクドーマンドによるメッセージが胸に滲み込む、柔らかな光(陽)が美しい映像作品としてこれからも観続けて行きたい映画です。

 

(※)川本三郎「映画の木洩れ日」、キネマ旬報社、2023年、pp395~400

 

§『ノマドランド』

フランシス・マクドーマンド↑

 

 

フランシス・マクドーマンド↑

 

フランシス・マクドーマンド、シャーリーン・スワンキー↑

 

フランシス・マクドーマンド↑

 

フランシス・マクドーマンド↑

 

デヴィッド・ストラザーン、フランシス・マクドーマンド↑

 

フランシス・マクドーマンド↑

 

シャーリーン・スワンキーの魂を送るフランシス・マクドーマンド↑

 

定住していた頃の自分が見ていた窓からの景色とフランシス・マクドーマンド↑