『ラ・ポワント・クールト(La Pointe Courrte)』は、アニエス・ヴァルダ監督が1955年に撮った長篇劇映画監督デビュー作になります。

 

南仏の漁村ポワント・クールトで生まれたフィリップ・ノワレ(役名:彼)が、バカンスのため12年振りにパリから故郷へ戻る。

その数日後、フィリップ・ノワレの妻・シルヴィア・モンフォール(役名:彼女)がパリから列車に乗ってポワント・クールトに向います。

結婚して4年目を迎えた2人は倦怠期に陥っていて、シルヴィア・モンフォールは夫婦関係に終止符を打つため漁村へ訪れたのだった。

駅に出迎えに来たフィリップ・ノワレは到着したシルヴィア・モンフォールと落ち合います。

シルヴィア・モンフォールは結婚生活の継続迷っていることについて、話し合う為に来たことを告げます。

ポワント・クールトの人々が暮らす村を歩き廻りながら2人は、自分達の来し方や今後を話し合います。

漁村の女性達は家と子供たちの世話をしていますが、そのうちの1人が病気になり死亡します。

小船に乗った漁師達は、汚染による衛生局の禁漁命令下の監視に怯えながらも禁漁区で貝漁を続けていますが、逃げ遅れた若い漁師が逮捕されてしまいます。

しかし、彼は恒例のレガッタ上の船上槍試合の参加選手であることから一時的に釈放されます。

彼は試合に勝ったことで、それまで交際を認めていなかった恋人の父親に気に入られます。

通りで踊る幸せな群衆の間を抜けた、シルヴィア・モンフォールとフィリップ・ノワレはこれからも一緒に生きていくことを決意し、駅へと歩いていきます。

 

1955年製作のこの映画は、クロード・シャブロルの『美しきセルジュ』(1957)、フランソワ・トリュフォーの『あこがれ』(1957)や『大人は判ってくれない』(1959)、ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』(1958)、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1959)等のヌーヴェル・ヴァーグ作品に先んじた尖鋭的映像芸術として評価されている映画とのことです。

この作品を観て驚くことは、繊細かつ大胆な映像表現です。

『地下鉄のザジ』(監督:ルイ・マル 1960)や『ニュー・シネマ・パラダイス』(監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 1988)のフィリップ・ノワレの26歳当時の演技と、『双頭の鷲』(監督:ジャン・コクトー 1947)で侍女エディットを演じたパリジェンヌ役のシルヴィア・モンフォールが醸し出すアンニュイな科白が、南仏の漁村の人々の日常生活を背景とした舞台で語られます。

異なる角度やポーズや時間で撮影された映像が、連続する会話の場面として意図的に粗く編輯されているシーンを観ると、複眼で捉えたオブジェを平面立体化したキュビズム絵画を連想してしまいます。

尖鋭的な映像に加え本作で話される科白も、意味やプロットを安易に解釈へと導かない詩的かつ文学的な抽象性が感じられます。

しかしながら、本作やアニエス・ヴァルダ監督の『5時から7時までのクレオ』(1962)を観て思うことは、尖鋭的で大胆な映像表現を用いていながらも、アニエス・ヴァルダ監督の映画はクロード・ドビュッシー、イーゴリ・ストラビンスキー、ベラ・バルトーク等の作曲家やモダン・ジャズのエリック・ドルフィー(reeds)が調性の範囲内で彼等の芸術を表現していたことに共通する感覚です。

大胆な不協和音や時に越えてしまう無調(フリー・インプロヴィゼーション)との境界線が作品に前衛の香りを刺戟的に漂わせておりますが、この映画は、軸を無調やアヴァンギャルドに据えている作品範疇(※)には属していない様に思います。

2人の会話シーンの際に奏でられる音楽も、調性音楽でありながらも木管主体のアンサンブルが醸し出す無調感が、効果的にアニエス・ヴァルダ監督の映像表現を演出している様に感じます。

上映開始から13分後にカメラが初めて捉えるシルヴィア・モンフォールの顔から、2人の科白がフィリップ・ノワレの顔やポワント・クールトの人々や風景、空(無人)ショットの映像の流れに絡みそして反応する映像作品として、これからも観続けて行きたい映画です。

 

(※)音楽では、新ウィーン楽派(アルノルト・シェーンベルク、アルバン・ベルク、アントン・ヴェ―べルン)以降の無調・12音階音楽、オーネット・コールマン(as)、セシル・テイラー(p)、アルバート・アイラ―(ts)、デレク・ベイリー(g)、高柳昌行(g)、富樫雅彦(per.)、阿部薫(as)等のフリー・ジャズ(インプロビゼーション)

 

§『ラ・ポワント・クールト』

フィリップ・ノワレ↑

フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール↑

シルヴィア・モンフォール、フィリップ・ノワレ↑

フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール↑

フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール↑

シルヴィア・モンフォール↑

シルヴィア・モンフォール、フィリップ・ノワレ↑

 

フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール↑

シルヴィア・モンフォール、フィリップ・ノワレ↑

 

フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール↑

 

§『5時から7時までのクレオ(Cléo de 5 à 7)』(1961)

カメラに向かって歌うコリーヌ・マルシャン↑

ピアノを弾き語るミシェル・ルグランとデュエットで歌うコリーヌ・マルシャン↑

コリーヌ・マルシャンが観るサイレント映画に出演したジャン=リュック・ゴダール↑

サイレント映画のアンナ・カリーナ↑

ジャン=リュック・ゴダール、アンナ・カリーナ↑

 

§『歌う女・歌わない女(L'UNE CHANTE, L'AUTRE PAS)』(1977)

札幌で1978年に『家族の肖像』(監督:ルキノ・ヴィスコンティ 1974)と併映ロードショー公開された時のチケット半券。

 

§『アニエスの浜辺』(2008)

2009年10月公開時チケット半券↑