『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(Killers of the Flower Moon)』は、マーティン・スコセッシ監督が2023年に撮った、3時間26分に及ぶネイティブ・アメリカンのオーセージ族の悲劇を描いた大作です。

 

子孫がアメリカ社会に同化していくことを悼む、オーセージ族の長老達による厳粛に儀式用のパイプを埋める映像がプロローグに流れます。

オクラホマ州の保護区の荒地を移動せざるを得ないオーセージ族の人々は、或る日地面から油が湧き出ているのを発見します。

オーセージ族は、石油開発により裕福になりましたが、居留法によりオーセージ以外の出身者による「保護者」が彼等の資産を管理することが義務付けられています。

 1918年にレオナルド・ディカプリオ(役名:アーネスト・バークハート )は第1次世界大戦の従軍を終えたことから、居留地でレオナルド・ディカプリオの弟スコット・シェパード(役名:バイロン・バークハート )と暮らす牧場主の叔父ロバート・デ・ニーロ(役名:ウィリアム・”キング”・ヘイル)の許に戻ります。

ロバート・デ・ニーロはオーセージ族の友好的な後援者を装い、彼等の言語を話し贈り物を与えますが、密かに彼等を殺害し富を盗もうとしています。

計画を推進する為に、彼はタクシー運転手として働くレオナルド・ディカプリオに、家族が石油権益の多くを所有しているオーセージ族のリリー・グラッドストーン(役名:モーリー・バークハート )に特別な注意を払うように言いました。

やがて2人の間にはロマンスが芽生え、カトリックとオーセージ族の宗教が混交した式典で結婚します。

ロバート・デ・ニーロはレオナルド・ディカプリオに、リリー・グラッドストーンの家族が亡くなれば亡くなるほど、より多くの権利を相続することになることを示唆します。

彼は既にオーセージの幾人かの殺害を命令しており、続けてリリー・グラッドストーンの妹ジリアン・ディオン(役名:ミニー )を徐々に軀が蝕まれていく毒物で殺害し、もう一人の妹カーラ・ジェイド・メイヤーズ(役名:アンナ・ブラウン )も銃で殺害します。

リリー・グラッドストーンの母親タントゥー・カーディナル(役名:リジー・Q )は居留地の新興住民を非難し、オーセージ評議会も彼等への反撃を促しています。

母親のタントゥー・カーディナルは、先祖達が彼女を来世に迎えてくれる映像と共にあの世へと旅立ちます。

ロバート・デ・ニーロは、リリー・グラッドストーンの糖尿病治療薬であるインシュリンに毒物を混入させた薬をレオナルド・ディカプリオに与えることで、彼女を毒殺しようとします。

リリー・グラッドストーンの軀に、妹ジリアン・ディオンと同じ消耗性疾患の兆候が顕われ始めます。

ロバート・デ・ニーロは、リリー・グラッドストーンの最初の夫であるヘンリー・ローンの殺害を命じ、リリー・グラッドストーンの最後に残った妹であるジャネー・コリンズを夫と共に家を爆破して殺害します。

それらの殺害行為により、リリー・グラッドストーンは家族の相続権を全て所有することになり、若し彼女に何かがあった場合には夫であるレオナルド・ディカプリオが相続することを意味します。

連続する不審死を一切捜査しないオクラホマ州警察に業を煮やしたオーセージ族の代表はワシントンD.C.で殺害され、リリー・グラッドストーンに雇われた私立探偵ゲイリー・バサラバ(役名:ウィリアム・J・バーンズ )も暴漢の一団に殴打され追い出されます。

リリー・グラッドストーン は、病を押して自らワシントンに行き、大統領に助けを求めることを決意します。

捜査局が元テキサス・レンジャーの特別捜査官ジェシー・プレモンス(役名:トム・ホワイト )と助手を捜査のために派遣すると、捜査官達は即座に陰謀の背後に存在する人物を特定します。

ロバート・デ・ニーロは雇った殺し屋達を詭計により殺害することで事件を隠蔽しようとしますが、捜査官ジェシー・プレモンスは真実に辿り着き、ロバート・デ・ニーロとレオナルド・ディカプリオを逮捕します。

瀕死の状態のリリー・グラッドストーンを発見した捜査官達は、危機一髪のところで彼女の命を救います。

捜査官ジェシー・プレモンス は、保護と引き換えにロバート・デ・ニーロの行為を証言をする司法取引にレオナルド・ディカプリオを誘導します。

ロバート・デ・ニーロの弁護士ブレンダン・フレイザー(役名:W・S・ハミルトン )はレオナルド・ディカプリオに、彼の自白は拷問の結果であると誓うように指示しますが、レオナルド・ディカプリオとリリー・グラッドストーンの3人の子供のうちの1人が百日咳で死去したことにより、レオナルド・ディカプリオは真実を証言することを決意します。

リリー・グラッドストーンはレオナルド・ディカプリオとの最後の面会の席で、彼がインシュリンに混入されていた毒の存在を知っていたかを尋ねます。

エピローグでは、FBI提供の卑俗な犯罪再現ラジオ・ドラマの公開放送が映し出され、彼等のその後の人生がマーティン・スコセッシのナレーションにより語られます。

 

集中力と軀の関係で3時間を超える作品を映画館で観ることを避けて来ましたが(※1)、マーチン・スコセッシ監督の久々のロードショー作品であることから、TOHOシネマズ上野(Screen9~通常上映形式)で本作を鑑賞しました。

本作ではオーセージ族の殲滅を企むロバート・デ・ニーロの指示による凄惨な悪行の数々が、あたかもギャングの抗争を思わせるタッチで描かれます。

特に、ロバート・デ・ニーロが保身の為に悪事に加担した人物を次々に抹殺する後半の展開を観ていると、『グッド・フェローズ』(1990)で彼が演じたジミー・コンウェイを連想します。

法廷劇を含む終盤では、それまで映し出されていた事件が真犯人の姿と共に再登場しますが、時系列の異なる回想シーンによって解き明かされるミステリー・タッチも『グッド・フェローズ』や『カジノ』(1995)でマーチン・スコセッシ監督が用いた演出を想起します。

この映画では、ネイティブ・アメリカンの居留区に経済的に自立したアフロ・アメリカンも多く住んでいた、20世紀初頭のオクラホマ準州を舞台としております。

しかしながら、石油景気に沸くオクラホマに第1次世界大戦に従軍していた人々が失業者として殺到したことにより、従来居住していた人々と、肌の色の異なる新興住民達との間に生じた軋轢が描かれます。

オーセージ族への迫害と共に、この映画ではオクラホマのタルサで発生したKKK(クー・クラックス・クラン)等によるアフロ・アメリカンに対する蛮行もスクリーンに映し出されます。

金(Money)の持つ善悪両面性が本作では描かれており、人間が蜜(Money)に群がる様とその害毒に蝕まれる様には、マーティン・スコセッシ監督作品に共通する愚かな人間の業と残忍さが顕されているのではないかと考えます。

マーティン・スコセッシ監督は、アルコール依存症や糖尿病や薬物の濫用に侵された軀に苦しむオーセージ族の人々が、金銭的充足よりも平和だった頃への生活回帰を求める魂の叫びを映し出します。

この映画では、約半世紀前の『タクシードライバー』(1976)からタッグを組むロバート・デ・ニーロの凄演によりアメリカの悲劇が描かれますが、リリー・グラッドストーンの情報量の多い表情が醸し出す抑制の効いた演技と、ネイティブ・アメリカンの血を受け継ぐロビー・ロバートソン(※2)による重みを感じるブルージーな音楽(遺作)も、この映画に奥行きを与えているのではないかと考えます。

『ジャイアンツ』(監督:ジョン・スティーブンス 1956)でジェームズ・ディーンが演じたジェット・リンクの人生を変えた油田発見を契機とする、稀代の悪人と差別主義者達の標的と化したオーセージ族の危機を描いた、マーティン・スコセッシ監督の後期キャリアを代表する作品として好きな映画です。

 

(※1)舞台作品は往々にして3時間を超えるものが多いですが、休憩を挟んでくれるので助かります。

 

(※2)ロビー・ロバートソンの自伝に基づく『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(監督:マーチン・スコセッシ 2020)では、ウッドストック時代から解散までのロビー・ロバートソン夫妻とザ・バンドのメンバーの出来事が、夫妻や音楽関係者達によって語られる見応えのある音楽ドキュメンタリーとなっております。

 

§『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』