マーク・サンドリッチ監督の『艦隊を追って(Follow The Fleet)』(1936)は、ジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアのコンビによる5作目のミュージカル映画で、アーヴィング・バーリンが全楽曲を提供しております。

この作品では、西部劇で活躍したランドルフ・スコット、そして第2次世界大戦下の代表的ピンナップ・ガールとして知られるベティ・グレイブルがコーラス・ガールの一員として僅かながら登場します。

本作はこの時期のミュージカル映画に見受けられる戦時色の反映により、主役のフレッド・アステアとランドルフ・スコットが海軍の兵隊を演じております。

 

元ダンスパートナーのフレッド・アステア (役名:ベイク・ベイカー)とジンジャー・ロジャース (役名:シェリー・マーティン)は、フレッド・アステアの求婚が実らなかったこともあり、今では夫々(それぞれ)の道を歩んでいます。
フレッド・アステアは海軍に所属し、ジンジャー・ロジャースはサンフランシスコのボール・ルーム 「パラダイス」で働いています。

 休養日に、フレッド・アステアは僚友・ランドルフ・スコット(役名: ビルジ・スミス)とボール・ルームを訪問し、ジンジャー・ロジャースとの再会を欣びます。
そこで出逢ったランドルフ・スコットと、ジンジャー・ロジャースの姉・ハリエット・ヒリヤード (役名:コニー・マーティン)は、互いに惹かれ合います。

しかし、それまで異性と触れ合う機会の無かった真面目な音楽教師のハリエット・ヒリヤードが、初対面にも拘らず結婚を口にしたことから、ランドルフ・スコットは、 ジンジャー・ロ ジャースの友人である社交界の名士アストリッド・オールウィン(役名:アイリス ・マニング夫人)に注意をそらします。
船員たちが海に戻る一方、ハリエット・ヒリヤードは亡くなった元船長が乗船していた帆船を引き揚げるための資金を集めようとします。

サンフランシスコに戻った時、フレッド・アステアはジンジャー・ロジャースにブロードウェイのショーの仕事を紹介しようとしますが、 ラッセル・ヒックス(役名:ノーラン)に人違いや誤解が相次ぎ失敗に終わります。
ブレッド・アステアは、船の改修に必要な700ドルを集める慈善ショーを開催することで名誉挽回を試みます。

ただし、その為には船を飛び降りなければなりません。
首席兵曹に昇進したランドルフ・スコットは、フレッド・アステアの捜索と逮捕を命じられますが、敢えてフレッド・アステアのショーを許可します。

パフォーマンスの後、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースにブロードウェイ出演のオファーが舞い込みます。

フレッド・アステアは、ジンジャー・ロジャースが彼の結婚受け入れることを条件にオファーを受け入れます。

しかし、ブロードウェイに出演する為には、まず営倉送りの懲罰を受けなければなりません。 

 

ジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアのミュージカル映画では、2人はダンスのみならず歌でも活躍しますが、リズム感の良さとジャズ的なセンスを感じる彼等の歌(※1)を聴くと自分はいつも愉しい気分になります。

この作品で繰り広げられるジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアの踊りは、優雅さとワイルドさの両面を兼ね備えており、ジンジャー・ロジャースの提案で彼女が床に放り投げられたり(※2)、空中高くリフトされたりと、当時の2人のダンサーとしての身体能力の高さを感じます。

2人で踊るアップ・テンポのダンスを観る度に思うことですが、卓越したリズム感を持つジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアがシンメトリーに踊る場面を交えつつ、2人の動きが交わる瞬間に生じるダイナミックなビートには息を呑みます。

あと、この映画ではジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアの個人技が堪能出来る作品で、ジンジャー・ロジャースはタップ・ダンスと歌を、フレッド・アステアはタップ・ダンスの他に歌とストライド・ジャズ・ピアノ演奏を、夫々ソロで披露します。

大階段から始まる宝塚レヴューのトップ・コンビのデュエット・ダンスを思わせる、指先まで優雅なドレスとタキシードの2人の踊り、恋愛の機微が描かれたランドルフ・スコットとハリエット・ヒリヤードの絡み、アーヴィング・バーリンの楽曲の妙なる旋律の美しさ等が愉しめるミュージカル映画の逸品ではないかと考えます。

アーヴィング・バーリンの楽曲が全編を彩っている本作から 「Let Yourself Go」、 「I'm Putting all My Eggs in One Basket」、 「Let's Face the Music and Dance(※3)」の楽曲が全米ヒット・ チャートを賑わせたとのことです。

海兵隊員が繰り出す行進のリズムに合わせてフレッド・アステアがタップで踊るシーンも愉しい、ジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアのダンス・コンビを代表する作品の一つとして好きな映画です。

 

(※1)男性ジャズ・ボーカリストを代表するメル・トーメは、影響を受けたボーカリストとしてフレッド・アステアの名前を挙げております。

 

(※2)「・・・私はまた提案したーフレッドが私をスピンをかけて放り上げ、戻ってきたら手を離すっていうのはどうかしら?・・・」(ジンジャー・ロジャース「ジンジャー・ロジャース自伝」キネマ旬報社、1994年、渡瀬ひとみ訳、pp156)。

この「I'm Putting all My Eggs in One Basket」で繰り広げられるダンスでは、コミカルな動きが止まらないジンジャー・ロジャースにフレッド・アステアが悩まされ続けるという振付になっております。

 

(※3)多くのミュージシャンによって演奏され続けている「Let's Face the Music and Dance」はこの映画から世に出てスタンダード曲になりましたが、ハリエット・ヒリヤードが恋心を切々と唄う「But Where Are You」も名曲だと思います。

 

PS:この文章は2019年7月掲載の文章に粗筋を加え、大幅変更・追記した差替えです。

 

§『艦隊を追って(Follow the Fleet)』

ジンジャー・ロジャース、フレッド・アステア↑

ジンジャー・ロジャース、フレッド・アステア↑

ジンジャー・ロジャース、フレッド・アステア↑

ランドルフ・スコット、フレッド・アステア↑

ジンジャー・ロジャース、フレッド・アステア↑

ジンジャー・ロジャース、フレッド・アステア↑

ジンジャー・ロジャースがフレッド・アステアによって床に放り投げられる↑

ジンジャー・ロジャース(左端)、コーラス3人組の中央がベティ・グレイブル↑

ランドルフ・スコット、ハリエット・ヒリヤード ↑

海兵達のステップでタップ・ダンスを踊るフレッド・アステア↑