フランク・ダラボンが1994年に撮った『ショーシャンクの空に(The Shawshank Redemption)』は、彼が1999年に監督した『グリーンマイル』同様、スティーヴン・キング文学の映像化作品になります。

 

或る銀行の副頭取ティム・ロビンス(役名:アンディ・デュフレーン)は、妻とゴルフ教師の密会現場で2人が殺害された現場に居合わせたことによる冤罪により、第2次世界大戦を終えて間もない頃のショーシャンク刑務所に服役します。

誰とも打ち解けず独りで過ごしていたティム・ロビンスでしたが、暫くすると物資を所内で不法に売り捌く“調達屋 ”モーガン・フリーマン(役名:’レッド’エリス・ボイド)に、小型ハンマーを注文します。

ティム・ロビンスは、彼に目を付けた一味達から暴行を受け続けながらも、モーガン・フリーマンの計らいで屋根の修理作業係として野外作業の一員に加わります。

作業休憩中、監視役クランシー・ブラウン(役名:ハドレー)が遺産相続税の不満を同僚に言っているのを聞きつけたティム・ロビンスは、節税策をアドバイスします。

囚人が話しかけてきたことに憤りを感じたクランシー・ブラウンでしたが、野外作業仲間へのビールを条件に、ティム・ロビンスはクランシー・ブラウンの節税手続きを手伝います。

一目置かれる存在になったティム・ロビンスは、映画鑑賞会で観た『ギルダ』(監督:チャールズ・ウィダー 1946)で見初めたリタ・ヘイワースのポスターをモーガン・フリーマンに依頼します。

ティム・ロビンスの有能振りを聞き付けた所長のボブ・ガントン(役名:ウォーデン・サミュエル・ノートン)は、彼をジェームズ・ホイットモア(役名:ブルックス・ヘイトレン)が専任していた図書係に任命し、自身や看守達の税金対策や資産管理の書類作成を請け負わせます。

そのような中、ティム・ロビンスは州宛てに図書予算請求の手紙を毎週投函します。

諦めずに6年間投函し続けた彼の努力が実を結び、中古図書とレコード共に200ドルの予算が与えられます。

贈られて来た書籍の中にオペラのレコードが混ざっているのを見付けたティム・ロビンスは、懲罰房行きを覚悟のうえで「フィガロの結婚」のアリアを刑務所内に流します(※1)。

囚人の野外奉仕活動による社会貢献プランを打ち出したことで、世間の賞賛を浴びた所長のボブ・ガントンでしたが、地元の業者達との収賄に手を染め始めます。

ボブ・ガントンの命を受けたティム・ロビンスは、架空の人物を作り出すことで資金洗浄した賄賂を彼の為に蓄財し続けます。

入所から20年近く経った頃、入所して来たギル・ベロウズ(役名:トミー)が、以前収容されていた刑務所に居た男がティム・ロビンスの妻と浮気相手を殺害したとの情報を得ます。

ティム・ロビンスは、所長のボブ・ガントンに再審請求の道が拓けたことを告げますが、ティム・ロビンスの釈放により不正情報が明るみに出ることを畏れたボブ・ガントンは、ティム・ロビンスを懲罰房に閉じ込め、監視役クランシー・ブラウンにギル・ベロウズの殺害を命じます。

暫く経った或る抜打ち検査の朝。

独房から出て来ないティム・ロビンスの部屋を見ると、看守達は彼がラクウェル・ウェルチの大判ポスターの裏に穴が掘られていたことに愕然とします。

脱獄したティム・ロビンスは、架空口座の人物と同じ筆跡であることから、難なく口座から大金を引き出すことに成功します。

やがてモーガン・フリーマンに出所の日が訪れますが、仮出所プログラムに耐えられないことを悟った彼は、先に出所した図書係のジェームズ・ホイットモアが縊死した際に借上げアパートの壁に書いた文の横にメッセージを書き加え、出所したら掘り返す様に言われていたティム・ロビンスが埋めた箱の在る場所に向かいます。

 

スティーヴン・キングの映像化作品であることから、印象に残る映像の多い作品ですが、個人的に惹き込まれたシーンは、手紙の2重唱として知られる「フィガロの結婚」の'優しいそよ風が'( 'Sull'aia Che soave zeffiretto')をティム・ロビンスが所内に流す展開です。

アリアが所内に流れる際にモーガン・フリーマンがナレーションで語る、「歌声は遥か高く、天の彼方に舞い上がって行った。美しい鳥が舞い込み、塀を消し去ったようで、束の間、全ての囚人が自由を味わった。(※2)」は、この映画の鍵となる印象的な科白ではないかと考えます。

それは、レコード演奏により放り込まれた懲罰房から解放されたティム・ロビンスが、所内でハーモニカは吹かないと言うモーガン・フリーマンに対して言う、「音楽は常に頭と心の中にある必要なもの。それは、灰色ではない誰にも奪われない自分の内面に存在する希望。」と共に、この映画の主題が語られている様に思います。

この映画では、『終身犯』(監督:ジョン・フランケンハイマー 1962)のバート・ランカスターの様に、獄中で鳥を飼育する図書係のジェームズ・ホイットモアが登場します。

しかし、本作のジェームズ・ホイットモアは、籠の生活に慣れ過ぎてしまい、自然環境では生きていけなくなった鳥の様に、仮出所の生活に対応出来ない存在として描かれています。

あと、自分はスティーブン・キングはこの作品で、世の中の汚濁と清澄を、ショーシャンクの塀の内と外との対比を用いて表現している様な気がします。

塀の外ではクリーンだったティム・ロビンスが、仲間達の生活向上の為にショーシャンクではボブ・ガントンの命で資金洗浄行為(マネー・ロンダリング)に手を染めます。

その意味で、汚物まみれの長い下水管を潜り抜けて脱走したティム・ロビンスの軀が、大粒の雨で洗い浄められるシーンには、元のクリーンな彼へのリセットを現わすかの様な象徴性を感じます。

音楽の調べが塀を消し去る自由と希望の存在として描かれるシーンと、エピローグの太平洋の碧さが心の襞に滲み込む、末永く観続けて行きたい映画です。

 

(※1)そよ風に寄せる 甘い西風が 西風が 今宵吹く 今宵吹く 林の松の木の下で 松の木の 林の松の木の下で 松の木の下で それで分るでしょ よく分かります

(日本語訳:田辺寿宏)

 

(※2)深沢三子の翻訳字幕に依る。

 

§『ショーシャンクの空に』

モーガン・フリーマン、ティム・ロビンス↑

ティム・ロビンス、クランシー・ブラウン↑

リタ・ヘイワース(『ギルダ』上映開始から19分経過して初めてスクリーンに登場するシーン)↑

リタ・ヘイワースのポスターとボブ・ガントン↑

ジェームズ・ホイットモア、ティム・ロビンス↑

W・A・モーツァルト作曲の「フィガロの結婚」のアリアを刑務所内に流すティム・ロビンス↑

 

ギル・ベロウズ↑

ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン↑

ティム・ロビンス↑

モーガン・フリーマン↑