ジョン・マッデン監督が2012年に撮った『マリーゴールド・ホテルで会いましょう(The Best Exotic Marigold Hotel)』は、デボラ・モガーの小説「These Foolish Things」を映像化した作品になります。
 

イギリスの定年退職者達が、エキゾチックな老人ホームとして宣伝されているマリーゴールド・ホテルに滞在するために、インドのジャイプルへと向かいます。

未亡人となった主婦のジュディ・デンチ(役名: イヴリン・グリーンスレイド)は、夫の借金を返済するために家を売ることを決意します。
幼少期にジャイプルに住んでいた高等裁判所判事のトム・ウィルキンソン(役名:グレアム・ダッシュウッド)は、突如退職してマリーゴールド・ホテルへの入居手続きをします。

ペネロープ・ウィルトン (役名:ジーン・エインズリー)とビル・ナイ(役名:ダグラス・エインズリー)は、娘のインターネット・ビジネスに投資した後、ジャイプルで静かな老後を送りたいと考えています。
元家政婦のマギー・スミス(役名:ミュリエル・ドネリー)は、インドで低廉な股関節手術を受けることを望んでいます。

セリア・イムリー(役名:マッジ・ハードキャッスル)は、数度の結婚生活の失敗を経て、海外での新しいロマンスを探そうとしています。

そして、年老いたロナルド・ピックアップ(役名:ノーマン・カズンズ)は、萌える青春を追体験しようと目論んでいます。
ジャイプル行きの飛行機が飛ばなくなったことから、一行は波瀾の旅の後にホテルに辿り着きます。

しかし、彼等はそのホテルが経験不足で情熱先行型の支配人、デーヴ・パテール(役名:ソニー・カプール)によって経営されている荒れ果てた建物であることを知り愕然とします。

デーヴ・パテールの母親リレット・デュベイ(役名:カプール夫人)は、息子に安定した仕事に投資するよう説得したいと考え、ホテルに引っ越して来ます。
ジュディ・デンチは地元のコール・センターに就職しますが、そこではデーヴ・パテールのガール・フレンドのティナ・デサイ(役名:スナイナ)と彼女の兄シド・ マッカー(役名:ジェイ)が働いています。
トム・ウィルキンソンは、散歩をしながら、以前ジャイプルに住んでいた時に暮らしていた建物を探し続けます。

ペネロープ・ウィルトンがカルチャー・ショックからホテルに引き籠っている間、夫のビル・ナイはジャイプルを探索します。
マギー・スミスは、当初はジャイプルの人々に対して拒否反応を示していましたが、やがて主治医でありメイドのアノーキに感謝する様になります。

セリア・イムリーは英国人の集いに参加しますが、そこにロナルド・ピックアップが居るのを見て驚きつつも、やがて彼とダイアナ・ハードキャッスル(役名:キャロル)の仲立ちをすることになります。
トム・ウィルキンソンは自分が同性愛者であることをジュディ・デンチに打ち明け、スキャンダルの所為で別れざるを得なくなったインド人の恋人マノージを探すためジャイプルに戻ったことを告げます。
トム・ウィルキンソン、ジュディ・デンチ、ビル・ナイの3人は苦労の末、マノージの居場所を見つけます。 

マノージは長年幸せな結婚生活を送っていましたが、トム・ウィルキンソンとの再会を欣びます。

懸案だったマノージとの再会を果たしたトム・ウィルキンソンは、暫くすると、かねてから余命宣言されていた心臓病によりこの世を去ります。

トム・ウィルキンソンの葬儀の後、ジュディ・デンチは彼の死を悲しみ、ビル・ナイの腕の中で泣き崩れます。
その現場を観たペネロープ・ウィルトンは嫉妬に駆られ、悲観癖が昂じたことも相俟ってビル・ナイの抱擁を非難します。

その後、投資した娘のビジネスが成功したことを知ったペネロープ・ウィルトンは、その資金でビル・ナイにイギリスに帰ることを提案します。
デーヴ・パテールと寝室を交換したセリア・イムリーが寝ている時、デーヴ・パテールの恋人ティナ・デサイがベッドに潜り込んだことが騒動となり、母親のリレット・デュベイはティナ・デサイと息子の交際に拒否反応を示します。
落胆したデーヴ・パテールは、ホテルを閉めることを決意しますが、ジュディ・デンチはデーヴ・パテールにティナ・デサイへの愛を貫くことを諭します。
彼らは一緒にホテルに急いで向かい、リレット・デュベイの承認に関係なく、結婚するつもりであることを彼女に告げます。

交際を認めようとしないリレット・デュベイに、それまで佇んでいた老練のホテル従業員は、かつてレット・デュベイと彼女の亡くなった夫が家族の反対に抗って結婚を望んだ際にも同じような状況にあったことを思い出させます。

経営計画の杜撰さから、リレット・デュベイがホテルの経営から撤退するとの知らせを聞いたマギー・スミスは、独自にホテルの財務情報を調査します。

『グランドホテル』(監督:エドマンド・グールディング  1932)を端緒とする、ホテルに集う人々の人間ドラマが描かれた「グランド・ホテル方式」が用いられたこの映画は、インドという異国の地で余生を過ごそうとする人々と、亡き父の夢を追う支配人デーヴ・パテール、そして彼の母と恋人の人生模様が紡がれた作品だと思います。
この映画を観て思い出すのは、俳優養老院を描いたジュリアン・デュビビエ監督の『旅路の果て』(1939)ですが、 元俳優達の多くが過去の延長線上で生きていることに比べると、この映画に登場する人物は様々な事情で集まっている点で、多色刷りの様なヴァラエティに富んだ作品になっているのではないかと考えます。

インドに来た彼等の背景や動機は、亡き夫の借金返済、娘による退職金投資の失敗、低廉な股関節手術目的、元恋人との再会、枯れること無きロマンスへの執着になりますが、その様な個性あふれる人々が、情熱先行型の夢追い支配人デーヴ・パテールと繰り広げる前半の絡みは愉しさに溢れていると思います。
その様なコメディ・タッチは、死期を悟ったトム・ウィルキンソンと元従業員との再会シーンと直後の彼の死により、流れを変えて彼等の人生が重なり合う地層に滲み込んで行きます。
国籍の違いに偏見を持つマギー・スミス、亡くなった夫に対する鬱屈した感情を持つジュディ・デンチ、悲観的な不満気質の妻との距離を感じているビル・ナイ、娘に押し付けられている孫の世話に翻弄される恋多きセリア・イムリー達の解き放たれた魂が、新たな地で再生へと向かう流れを観ると、この映画が多くのファンに支持されていることが理解出来る気がします。

世代を超えた若き日の夢や情熱、長年の偏見や改悛の氷塊が描かれた、エピローグに清々しい魂の開放を感じる作品として好きな映画です。 

 

§『マリーゴールド・ホテルで会いましょう 』

ジュディ・デンチ↑

ビル・ナイ、ペネロープ・ウィルトン ↑

マギー・スミス↑

ロナルド・ピックアップ ↑

セリア・イムリー ↑

マギー・スミス↑

トム・ウィルキンソン ↑

デーヴ・パテール、リレット・デュベイ ↑

ダイアナ・ハードキリ、セリア・イムリー↑

ティナ・デサイ↑

リレット・デュベイ 、老練のホテル従業員、デーヴ・パテール、ティナ・デサイ↑