1941年に『四十二番街』(1933) を撮ったバスビー・バークレーが監督した『ブロードウェイ (Babes On Broadway)』は、ヴィンセント・ミネリがジュディ・ガーランド のミュージカル・シーンを演出したMGMミュージカルになります。


ミッキー・ルーニー(役名:トミー・ウィリアムズ)、レイ・マクドナルド (役名:レイ・ランバート)、リチャード・クワイン (役名:モートン・ハモンド”ハミー")の3人 は、いつかはブロードウェイの舞台に立つことを夢見る芸人の卵です。
ジュディ・ガーランド(役名:ペニー・モリス)も、同じ夢を抱いており、志を同じくする彼女とミッキー・ルーニーは意気投合します。

ミッキー・ルーニー達は劇場主のジェイムス・グリーソン(役名:ソーントン・リード)の秘書フェイ・ベインター(役名:ミス・ジョーンズ"ジョンジー")に認められ、ジェイムス・グリーソンのテストを受けられそうになります。

しかし、欣びの余りそのことを云いふらしてしまったことから、大勢の志願者が押しかけることになり、ジェイムス・グリーソンを怒らせたことで機会を逸してしま います。
彼等は世間に認められる為には、自分達が興行主になることを思いつき、ジュディ・ガーランドの勤めるセツルメント(隣保館)の子供達の疎開費用を集めるという目的で野外演芸会を開催します。

英国から空爆を逃れてニューヨークへ避難してきた20人の少年少女がこの演芸会のメイン・ゲストになり、英国向けの短波放送が行われることになったことで、演芸会は大成功に終わります。

その成功を受けて、フェイ・ベインターは劇場主のジェイムス・グリーソンから依頼されたタレント候補として、彼等を上演中のフィラデルフィアの劇場に出演させることを手配します。

しかし、フィラデルフィアに行くとセツルメントの子供達を郊外に連れて行く約束が叶わなくなることから、ジュディ・ガーランドは乗り気で浮き立つミッキー・ルーニーと意見が衝突してしまいます。

意気消沈するミッキー・ルーニーでしたが、子供達から感謝の贈り物を受け取ると、ジュディ・ガーランドと共にフェイ・ベインターを訪ね、フィラデルフィア行きを辞退します。

事情を察したフェイ・ベインターは残念がりますが、彼等の為に今は使われていないダッチェス劇場の使用を許可します。

そこで演じるショウの売上で劇場を借り自分たちのショーを上演しようと彼らは計画しますが、初日の幕が開いて暫くすると、防火設備の不備を理由に警察の中止命令が下されます。

一計を案じたミッキー・ルーニーとジュディ・ガーランドは、駆けつたジェけイムス・グリーソン一人の為に起死回生を願ってレビューを演じて見せます。


バスビー・バークレー監督による『青春一座』(1939)と『ストライク・アップ・ザ・バンド』(1940)に続き、 ジュディ・ガーランドがミッキー・ルーニーと組んだこのミュージカルは、劇中劇でショーが行われる一連の「バックヤード(裏庭)・ミュージカル」と称される範疇に属する作品です。 

『ザッツ・エンターテインメント』(監督:ジャック・ヘイリー・ジュニア 1974)の中で、ミッキー・ルーニーとジュディ・ガーランド・コンビによる青春ミュージカルの代表作として取り上げられている作品ですが、この作品は2人の抜きん出た才能が堪能出来る出色の映画ではないかと思います。

時間の隔たりを感じさせる、古き良きアムステルダム劇場の舞台を再現した、アメリカ南部を舞台にしたミンストレル・ショウ・シークエンスは、ジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーによるはちきれんばかりの歌と踊りの連続により、ミュージカル史に刻まれるパフォーマンスになったと言えるのではないかと考えます。

ミッキー・ルーニーは『ザッツ・エンターテインメント』の中で、ジュディ・ガーランドと共演した一連の作品は、出演者の名前が変わっただけのどれも似た様な作品だと自嘲しておりますが、本作で繰り広げられるショーと歌曲のクオリティは、既にして芸歴の長い彼等のパフォーマンスが成熟の域に達していることから(※1)、数あるミュージカル作品系列の中でも一際光彩を放っているものと思います。

数多くの楽曲が彩を添える本作の中でも、個人的に気に入っているのが躍動的なウエスタン・ミュージカル・ショウが繰り広げられる「Hoe Down」 です。

あと、ダッチェス劇場を訪れたミッキー・ルーニーとジュディ・ガーランドが放置された古い看板を見て、往年の輝かしい舞台の人物を次々と演じる展開は(※2)、興趣が尽きないシークエンスとして本作を際立たせている演出ではないかと考えます。

この映画は青春ミュージカルを謳っておりますが、空爆から逃れてきた英国の子供達が祖国に思いを寄せるシーンがあることで、1941年という戦火の時代を反映した作品にもなっております。

綿々たるジュデイ・ガーランドのバラードや印象に残るメロディアスな「How About You」、そしてジュディ・ガーランドの天性のリズム感による強烈にスイングするダンスと、溌剌でありながらも円熟を感じさせる2人のパフォーマンスに魅せられるMGMミュージカルとして好きな映画です。

 

(※1)撮影時ミッキー・ルーニー21才(映画デビュー:4才)、ジュディ・ガーランド19才(歌手デビュー:7才)

 

(※2)サラ・ベルナール(アルフォンス・ミュシャのポスターで有名なフランスの舞台俳優)、ジョージ・M・コーハン(『ヤンキー・ドゥ―ドゥル・ダンディ』(監督:マイケル・カーティス 1942)で描かれたブロードウェイの父と称されるエンターティナー)、リチャード・マンスフィールド(19世紀末に「シラノ・ド・ベルジュラック」を演じた俳優)、フェイ・テンプルトン(サイレント時代の映画スター)、サー・ハリー・ローダー(スコティッシュ・コメディアン)、ブランチ・リング(ブロードウェイのミュージカル俳優)

 

PS:ジュデイ・ガーランドのミュージカル作品を愉しんでおりますが、同時代の欧米の映画ファンは天才少女歌手時代から彼女の活躍を長年リアル・タイムで見守っていたのだと考えます。

日本では彼等のバックヤード・ミュージカルの製作が戦時下と重なることから、これらの青春ミュージカル作品を体験出来なかった空白期(日本未公開)が存在したものと考えます。

あと、本作では秘書・フェイ・ベインターの事務員役で、『ベニイ・グッドマン物語』(監督:ヴァレンタイン・デイヴィス  1956)や『地上より永遠へ』(監督:フレッド・ジンネマン  1953)のドナ・リードが出演しております。 

この文章は2018年9月に掲載の文章を大幅加筆・変更した差替えになります。

 

§『ブロードウェイ』

レイ・マクドナルド(役名:レイ・ランバート)、ミッキー・ルーニー、リチャード・クワイン(役名:モートン・ハモンド)、フェイ・ベインター↑

ドナ・リード↑

ジュデイ・ガーランド、ミッキー・ルーニー↑

ジュデイ・ガーランド↑

ミッキー・ルーニー、ジュデイ・ガーランド↑

フェイ・テンプルトンに扮したジュデイ・ガーランド↑

ブランチ・リングに扮したジュデイ・ガーランド↑

サラ・ベルナールに扮したジュデイ・ガーランド↑

ミッキー・ルーニー、ジュデイ・ガーランド↑

ジュデイ・ガーランド↑

ブラジルの歌手兼ダンサーのカルメン・ミランダに扮したミッキー・ルーニー↑

(右から)ヴァージニア・ウェイドラー(役名:バーバラ・ジョセフィン・コンウェイ’ジョー’)、レイ・マクドナルド、ジュデイ・ガーランド、ミッキー・ルーニー↑