『地上より永遠に』(1953)を撮ったフレッド・ジンネマンが1952年に監督した『真昼の決闘 (High Noon)』は、ゲイリー・クーパーとグレース・ケリーが出演した、ディミトリ・ティオムキン作曲による有名主題曲が全編に流れる西部劇史に刻まれる作品ではないかと考えます。


1870年の西部の町ハドリーヴィル。
或る日曜日に保安官ゲイリー・クーパー (役名:ウィル・ケイン)は、事務所でグレイス・ケリー(役名:エミイ・ケイン)と結婚式を挙げています。

彼は結婚を契機に保安官の職を辞して、他の町へ向かうことになっています。

しかし、そこへ届いた電報が彼に急を告げます。
それは、5年前に彼が逮捕した悪漢イアン・マクドナルド (役名:フランク・ミラー)が保釈され、正午着の列車でハドリーヴィルに到着するという知らせです。
イアン・マクドナルドは彼の仲間と共に、ゲイリー・クーパーへの復讐を果たす積りです。

停車場にはイアン・マクドナルドの弟シェブ・ウーリー (役名:ベン・ミラー)、リー・ヴァン・クリーフ (役名:ジャック・コルビー)とロバート・ウィルク(役名:ジム・ピアース)の3人が、イアン・マクドナルドの到着を待っています。

ゲイリー・クーパーは、一度外した保安官のバッジを再び胸に付けます。
グレイス・ケリーはゲイリー・クーパーにはもう関係は無いと言って、町を去ることを促しますが、彼は聞く耳を持ちません。

父兄を殺されたことでクエーカー教徒になったグレイス・ケリーは、正義よりも命の方が大事だと説得しますが、彼の戦おうとする決意は揺らぎません。

正午の汽車で発つ決意をしたグレース・ケリーは、ホテルで汽車を待つ間、ゲイリー・クーパーの元恋人で今は保安官補ロイド・ブリッジス(役名:ハーヴェイ・ベル)と同棲しているメキシコ女性・ケティ・フラドー (役名:ヘレン・ラミレス)と会います。

ゲイリー・クーパーとケティ・フラドーが恋であったことに気付いたグレース・ケリーは、二人の関係を一旦は訝(いぶか)しみますが、ケティ・フラドー から直截事情を聞いたことで、彼女と同じ汽車で町を去ることを決めます。

ゲイリー・クーパーは仲間集めに奔走しますが、彼に同調するものはおらず、判事は町から逃げ出してしまいます。
腕の立つ保安官補のロイド・ブリッジスは、ゲイリー・クーパーの後任に選ばれなかったことと、かつてはゲイリー・クーパーやイアン・マクドナルドの恋人だったケティフラドーとのことが心に引っ掛かっていることから、ゲイリー・クーパーへの協力を断わります。
酒場の常連達は、ゲイリー・クーパーよりもイアン・マクドナルド一味を応援している有様です。
午前11時30分。
教会を訪ねたゲイリー・クーパーは、皆に応援を要請します。 

クエーカー教徒 (※)のグレース・ケリーとの結婚もあり、町の教会から足が遠のいているゲイリー・クーパーや争い事への関与であることから、牧師は消極的な態度を示します。
町人の意見は割れますが、トーマス・ミッチェル (役名:ヘンダーソン町長)の一声で、ゲイリー・クーパーが町を去ることが皆の為だという結論に至ります。
その他の町の人達も居留守や怪我を口実に辞退し、やっと現れた男も加勢するのが自分だけと知った途端に立ち去ってしまいます。

1人で立ち向かう決心をしたゲイリー・クーパーは、 遺言状を書き綴ります。

正午。

遠くから汽笛が聞こえてきます。
汽車から降りたイアン・マクドナルドと入れ替わる様に、グレイス・ケリーとケティ・フラーが汽車に乗り込みます。

しかし、銃声を聞いていたたれまなくなったグレイス・ケリーは、汽車から飛び降ります。


マッカーシズム (赤狩り)の被害者となった本作の脚本家カール・フォアマンは、非米活動委員会での証言を拒否した後、英国に出国します。
製作陣は、この映画の内容とマッカーシズムの直截の関連性を否定しておりますが、現在の目でこの作品を観ると、マッカーシズムの標的にされた人々の忸怩(じくじ)たる思いが滲み込んでいる様な気がします。

1時間半弱のこの映画は、ゲイリー・クーパーが電報を受け取った10時40分の直前から真昼の決闘までの、ほぼ上映時間と同じ時の流れが時系列で描かれております。

TV放送される度に繰り返し観てきた映画ですが、今回久し振りに観て強く印象に残ったのは、ゲイリー・クーパーの身を案じるグレース・ケリーに対し、西部の不文律を貫き通そうとする 「自分はこれまで、誰にも背を向けたことが無い。」という彼の信条を言い表した科白です。
あと、ケティ・フラドーが保安官バッジを外したロイド・ブリッジスに対して言う、「あなたは男前で肩幅も広いけれど、それだけでは漢(おとこ)にはなれないわ」には、彼の行動が信条の支えの無い私怨と保身に因るものであることを、舌鋒鋭く看破している様に思います。

イアン・マクドナルド一味に、ゲイリー・クーパーが誰も居ない通りに独り佇む静寂の俯瞰シーンは、恐怖と孤独に押し潰されそうになりながらも、己の信念により歩を進めざるを得ない彼の境遇を表した、映画史レベルで語られ得る映像ではないかと考えます。

只一人、命を賭して彼の援護を申し出た14歳の少年が用意した馬車に乗る前に、物議を醸した保安官バッジを棄てるシーンに製作者達の思いを感じる、これからも観続けて行きたい映画です。

 

(※)17世紀の英国で生まれた霊的体験を重んじる基督教プロテスタントの一派。

リチャード・ニクソン、ジェームズ・ディーン、ジョーン・バエズ、デヴィッド・バーン等が信者。


PS:1960年代にセルジオ・レオーネ監督の『続・夕日のガンマン』(1966)等で重要な役を演じるリー・ヴァン・クリーフが、同監督の『ウエスタン』(1968) でチャールズ・ブロンソンを駅で待ち構える3人組を思い起こさせる役を演じています。

『ウエスタン』では、チャールズ・ブロンソンがハーモニカを吹きながら現れますが、本作ではリー・ヴァン・クリーフがハーモニカを吹きながら汽車の到着を待ちます。
あと、『駅馬車』(監督:ジョン・フォード  1939)で酔いどれ医者を演じたトーマス・ミッチェルが演じる好々爺然とした町長の発言に、ゲイリー・クーパーの表情が変化する流れは、この映画を貫く厳しさが投影されている様に思えます。 

 

§『真昼の決闘』

ゲイリー・クーパー、グレース・ケリー↑

ゲイリー・クーパー、ロイド・ブリッジス↑

グレース・ケリー↑

ゲイリー・クーパー、ケティ・フラドー↑

ケティ・フラドー、ロイド・ブリッジス↑

ゲイリー・クーパー↑

ゲイリー・クーパー、トーマス・ミッチェル↑

リー・ヴァン・クリーフ 、ロバート・ウィルク、シェブ・ウーリー ↑

ゲイリー・クーパー↑

グレース・ケリー↑

イアン・マクドナルド 、グレース・ケリー↑

14歳の少年、ゲイリー・クーパー↑