『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事 (The Age of Innocence)』は、ビューリッツァー賞を受賞したイーディス・ウォートンの同名小説をマーチン・スコセッシ監督が1993年に映像化した作品で、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞しております。

1870年代のニューヨーク。

弁護士の ダニエル・デイ=ルイス(役名:ニューランド・アーチャー)は、良家の子女ウィノナ・ライダー(役名:メイ・ウェランド)と婚約しています。

ウィノナ・ライダーの従姉である伯爵夫人ミシェル・ファイファー (役名:エレフ・オレンスカ)は、浮気癖のあるポーランド人伯爵との不本意な結婚生活に嫌気が差したことから、パリからニューヨークに戻って来ています。
社交界に悪質な噂が広まるミシェル・ファイファーを、ウィノナ・ライダーの家族が果敢に支持するにつれ、ウィノナ・ライダーは徐々にニューヨークの最も格式の高い旧家の重鎮に受け入れられるようになります。
ミシェル・ファイファーは家族が企画した社交パーティーには参加しませんでしたが、ダニエル・デイ=ルイスの助けで裕福なファン・デル・ルイデン家が主催するイベントでカムバックが 叶います。

そこで彼女は、常軌を逸した習慣で有名な、ニューヨークの著名な金融家の一人であるスチュアート・ウィルソン (役名:ジュリアス・ボーフォート)と知り合います。
スチュアート・ウィルソンは、衆目の視線をものともせず、ミシェル・ファイファーと公然と交際を始めます。
ダニエル・デイ=ルイスはウィノナ・ライダーとの婚約を世間に発表しますが、ミシェル・ファイファーのことを知るにつけ、ニューヨーク社交界に対する彼女の自由な考え方を理解し始め、婚約者ウィノナ・ライダーの、無垢なイノセントさと正義感との間に精神的な距離が生じ始めます。
ミシェル・ファイファーが夫との離婚を発表した後、ダニエル・デイ=ルイスは彼女の自由を求める気持ちを支持しますが、家族を代表してミシェル・ファイファーに結婚生活を続けるよう説得しなければならないことを自覚します。

ダニエル・デイ=ルイスは、知らず知らずのうちにミシェル・ファイファーに惹かれ初めていることに気付きます。
そして、彼は思い立ってフロリダ州セントオーガスティンに居るウィノナ・ライダーと彼女の両親と逢う為に家を出ます。

ダニエル・デイ=ルイスはウィノナ・ライダーに婚約期間を縮めるよう依頼しますが、不審に思ったウィノナ・ライダーは結婚を急ぐのは、結婚に懸念があるのではないかと問い質します。
それに対して、ダニエル・デイ=ルイスはウィノナ・ライダーへの変わらぬ想いを伝え、彼女を安心させます。
ニューヨークに戻ったダニエル・デイ=ルイスは、ミシェル・ファイファーに自分の想いを告白しますが、ウィノナ・ライダーから両親が結婚式の日程を早めたとの報が届きます。

結婚式と新婚旅行を終え、ダニエル・デイ=ルイスとウィノナ・ライダーはニューヨークでの結婚生活に入ります。
時が経つにつれ、ダニエル・デイ=ルイスのミシェル・ファイファーの記憶は薄れていきます。
ミシェル・ファイファーが祖母の世話の為にニューヨークに戻ると、彼女とダニエル・デイ=ルイスの交流が再開し、互いの変わらぬ想いを確認します。
ダニエル・デイ=ルイスは関係成就の為に逢瀬を手配しますが、ミシェル・ファイファーは突如としてヨーロッパに戻る意向を告げます。
2週間後 ウィノナ・ライダーはミシェル・ファイファーの送別パーティーを開きます。

ウィノナ・ライダーは招待客達が去った後、ダニエル・デイ=ルイスに自分が懐妊していることを告げ、まだ妊娠の事実が不確かだったはずの2週間前に、このことをミシェル・ファイファーに伝えていたことも話します。

時が経ち、ダニエル・デイ=ルイスは57歳になり、感染性肺炎で亡くなったウィノナ・ライダーを、ダニエル・デイ=ルイスは心から悼み、忠実で愛情深い4人の子供の父親としての生活を過ごしています。
建築家となったダニエル・デイ=ルイスの息子ロバート・ショーン・レナード(役名:テッド・アーチャー)は、ダニエル・デイ=ルイスにパリ出張に同行するよう説得します。 

父のミシェル・ファイファーへの想いを知るロバート・ショーン・レナードは、彼がミシェル・ファイファーを25年振りに逢えるように手配します。

そして、ロバート・ショーン・レナードは、ウィノナ・ライダーが臨終の床で彼に告げた言葉を父親に打ち明けます。


『存在の耐えられない軽さ』(監督:フィリップ・カウフマン  1988)のダニエル・デイ=ルイス、『17歳のカルテ』(監督:ジェームズ・マンゴールド  1999)のウィノナ・ライダー、『恋のゆくえ/ファ ビュラス・ベイカー・ボーイズ』(監督:スティーブ・クローブル  1989)のミシェル・ファイファーが主要な役を演じるこの作品は、マーチン・スコセッシ監督による19世紀末を舞台にした恋愛映画になります(※1)。

ウィノナ・ライダーと婚約中のダニエル・デイ=ルイスとヨーロッパ社交界を体現するかの様な伯爵夫人ミシェル・ファイファーが、突如訪れた人生の恋愛に葛藤するこの作品では、当時の保守的なニューヨーク社交界と自由な気風のヨーロッパ社交界との対比も描かれている様な気がします。
この映画では、ウィノナ・ライダーが、実はダニエル・デイ=ルイスや息子ロバート・ショーン・レナードに対して、決して一義的な意味でのイノセントな存在では無かったことが描かれます(※2)。

ウィノナ・ライダーは、ダニエル・デイ=ルイスとミシェル・ファイファーの直情的恋愛に対して、一定の距離と高さの目線を艱難辛苦の精神状態の中で保ち続けていたものと推察しますが、ラストで息子から聞いた鉛の楔の様なウィノナ・ライダーの言葉に、ダニエル・デイ=ルイスが覚醒する流れには強く心が揺さぶられます。

原作では、ダニエル・デイ=ルイス演じるニューランド・アーチャーは、光り輝くティツィア―ノの絵の前で「しかし、おれはまだ五十七歳だ」と呟く姿が書かれ(※3)、父親となった老境のダニエル・デイ=ルイスに人生の恋愛が現実として再び彼の目の前に立ちはだかります。

家族愛が描かれた本作のラストで、マーチン・スコセッシ監督が本作を亡き父親(※4)に捧げるテロップが心に滲みる恋愛映画として、これからも観続けて行きたい作品です。


(※1)19世紀後半の社交界を舞台にしたこの映画では、恋愛の身体表現は2度のキスシーンに抑えられております。

従いまして、『アリスの恋』(1974)と共に、物理的に過激な映像表現が抑えられたマーチン・スコセッシ作品になっております。

 

(※2)原作のinnocenceは「想像力にたいして心を閉じ、経験に対して感情を閉じてしまう無垢」であるとイーディス・ウォートンが説明していることが、文庫の解説中に記載されております。イーディス・ウォートン「エイジ・オブ・イノセンス-汚れなき情事-」(新潮文庫、平成5年、大社淑子訳、pp469)

 

(※3)イーディス・ウォートン「エイジ・オブ・イノセンス-汚れなき情事-」(新潮文庫、平成5年、大社淑子訳、pp456~457) 


(※4)本作のペンシルバニア駅のシーンでカメオ出演しているチャールズ・スコセッシは、1993年10月1日の公開初日前の8月23日に逝去しております。 

 

§『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事 』

ウィノナ・ライダー(左から2番目)↑

ダニエル・デイ=ルイス、ウィノナ・ライダー↑

ダニエル・デイ=ルイス、ミシェル・ファイファー↑

ダニエル・デイ=ルイス、ミシェル・ファイファー↑

ミシェル・ファイファー、ダニエル・デイ=ルイス↑

ミシェル・ファイファー、スチュアート・ウィルソン 、ダニエル・デイ=ルイス↑

ウィノナ・ライダー、ダニエル・デイ=ルイス↑

ウィノナ・ライダー↑

ダニエル・デイ=ルイス、ウィノナ・ライダー↑

ロバート・ショーン・レナード、ダニエル・デイ=ルイス↑