ブラッドフォード・ロープスの小説をロイド・ベーコンが1933年に映像化したワーナー・ブラザーズ社製作の『四十二番街(42nd Street)』は、ブロードウェイのバック・ステージを描いた、ミュージカル映画の歴史と共に語り継がれる作品ではないかと考えます。


経済恐慌がブロードウェイに深い翳を落とす1932年、女優ビーブ・ダニエルズ(役名: ドロシー・ブロック)に惚れ込んでいる金満家のガイ・キビー(役名:アブナー・ディロン)は、女優ビーブ・ダ ニエルズを主役とするミュージカル・ショウに出資しています。
実のところ、ビーブ・ダニエルズはヴォードヴィル時代のパートナーのジョージ・ブレント(役名: バット・デニング)との恋愛関係が続いています。
演出監督にはワーナー・バクスター (役名:ジュリアン・マーシュ)が雇われますが、彼の主治医はプレッシャーのかかる仕事を続けると命を危険に晒してしまうことを警告します。
1929年の株式市場の暴落により失ったブロードウェイと自身のキャリアの失地回復の為に、今回のショーに賭けるワーナー・バクスターの思いは強いものがあります。

ベテランのコーラス・ガールであるウナ・マーケル(役名:ロレイン・フレミング)とジンジャー・ロジャース(役名:アン・"エニータイム・アニー”・ローウェル)は、自分達のことよりもペンシルベニア州アレンタウンからやって来た新人コーラス・ガールのルビー・キーラー(役名:ペギー・ソーヤ)に目を掛けています。

若きディック・パウエル(役名: ビリー・ローラー)もルビー・キーラーを気に掛けており、彼女も彼に密かな想いを寄せております。

ある晩、ルビー・キーラーはジョージ・ブレントに家まで送って貰いますが、その途上、ジョージ・プレントは舞台監督ワーナー・バクスターの手下に殴られてしまいます。
それは、ジョージ・ブレンドとビーブ・ダニエルズの仲が出資者ガイ・キビーに知られることを畏れた、ワーナー・バクスターが据えたお灸でした。
ルビー・キーラーは傷ついたジョージ・ブレントを自分の下宿へ連れ帰って介抱しようとしますが、女将の誤解により男子禁制の下宿から追い出されてしまいます。
所持金の乏しい2人は仕方なく、ジョージ・ブレントのホテルで床を分けて一夜を過ごします。

杮落し前日、ジョージ・ブレントとルビー・キーラーが路で出会って親しげに話しているところを目撃したビーブ・ダニエルズは、激しい嫉妬に襲われます。
逆上気味のビーブ・ダニエルズが、酒の席で執拗に絡むガイ・キビーを罵倒したことから、ガイ・キビーはビーブ・ダニエルズを主役に据えた舞台に出資はしないと言い出します。
ワーナー・バクスターの真摯な説得が功を奏し、ビーブ・ダニエルズの謝罪をもってガイ・キビーの拳を収めることで事なきを得ます。

原因を知らないワーナー・バクスターはビーブ・ダニエルズにジョージ・ブレントと別れる様に言い渡しますが、それを聞いたルビー・キーラーはジョージ・フレンドがまた殴られると早合点してビーブ・ダニエルズに警告に来ます。
ルビー・キーラーの姿を見たビーブ・ダニエルズは、怒った弾みに転んでしまったことで足を骨折してしまいます。

絶望的な状況の中、諦めきれないワーナー・バクスターは急遽代役を立てることを決めます。
ガイ・キビーに近付いて主役の座を得ようとするジャー・ロジャースの画策を退けた後、ワーナー・バクスターはルビー・キーラーを主役にすることを決意し、残された僅かな時間で彼女にマンツーマンの指導をします。


主役のルビー・キーラーを始めとして、後にミュージカル映画 『陽気な街』 (監督:ロイ・デル・ルース  1937)の主演や戦争映画の傑作『眼下の敵』(1957) を監督したディック・パウエル、そして言わずと知れた戦前のフレッド・アステア作品の名パートナーであるジンジャー・ロジャースの初期の映像が観られるこの映画は、バスビー・バークレーの振付による革新的レビュー・シーンが話題となったミュージカルとして、様々な文献に登場する作品だと思います。

就中、ダンサーの群舞を俯瞰して撮影することによる万華鏡的な幾何学模様を捕えた映像は、後に「バークレー・ショット」として舞台では体験することが出来ない映画的な効果として後の作品に影響を与えたとのことです。

この映画で個人的に興味を抱いたこととしては、1933年時点のブロードウェイ・ダンスと音楽が記録されていることです。
フレッド・アステアが 『ダンシング・レディ』(監督:ロバート・Z・レナード) にゲスト・ダンサーとして銀幕デビューした年が1933年であることからも、ミュージカルが映像芸術として開花する揺籃期の名品ではないかと考えます。

小説に基づいている作品であることから、ブロードウェイ・ミュージカルの再起に命を賭して取り組む演出家のワーナー・バクスターと登場人物の人間模様が緻密に描かれていることにより、終盤の舞台映像以外は後のロマンティック・コメディ・ミュージカルとは異なる肌触りを感じる映画ではないかと考えます。
本作は、1980年にブロードウェイ・ミュージカルとして舞台化され、トニー賞の作品賞と振付賞を受賞するロングラン舞台となったことでもミュージカル・ファンに愛されている作品だと思い ます。

ワーナー・ブラザース社作品であることから、MGM社の『ザッツ・エンターテインメント』 (監督:ジャック・ヘイリー・Jr.  1974)には登場しませんが、ミュージカル映画史を語るうえで外せないストーリー性の強い重要作としてこれからも観続けて行きたい作品です。 

 

PS:ミュージカル映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(監督:ラース・フォン・トリアー 2000)の中で、ビョークとカトリーヌ・ドヌーヴがこの作品を映画館で観るオマージュ映像があります。

 

§『四十二番街』

ルビー・キーラー、ディック・パウエル↑

 

ガイ・キビー、ビーブ・ダニエルズ↑

ルビー・キーラー、ジョージ・プレント↑

ディック・パウエル、ルビー・キーラー↑

ジョージ・プレント、ビーブ・ダニエルズ↑

ワーナー・バクスター (中央)、ディック・パウエル(右)↑

ウナ・マーケル、ジンジャー・ロジャース↑

ウナ・マーケル、ジンジャー・ロジャース↑

ディック・パウエル(左)↑

バークレー・ショット↑