『過去のない男 』(2002)のアキ・カウリスマキ監督が2017年に撮り、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した『希望のかなた(Toivon tuolla puolen)』は、シリアからフィンランドに避難してきた兄妹の愛情とフィンランドの人々の交流を描いた作品です。

 

シリアの都市アレッポで行われた政府軍と反体制派の戦闘により、家族をミサイル攻撃で失ったシェルワン・ハジ(役名:カーリド・アリ)は、生き残った妹ミリアムと脱出先で生き別れになってしまいます。

シェルワン・ハジは、トルコからギリシャ経由で到着したポーランドのグダニスクでネオナチに襲われますが、その際からくも逃げ込んだ貨物船に乗ってヘルシンキにやって来ます。

妹・ニロズ・ハジ(役名:ミリアム)と逢える予感を感じたシェルワン・ハジは、ヘルシンキで難民申請をすることを決意します。

その頃、セールス業と酒浸りのカイヤ・パカリネン(役名:ヴィクストロムの妻)に嫌気がさしていたサカリ・クオスマネン(役名:ヴァルデマル・ヴィクストロム)は、家を出て商売道具を売却して手にした資金をカジノのスタッド・ポーカーにつぎ込みます。

最終勝負で6万ユーロを賭けたサカリ・クオスマネンは、ストレート・フラッシュの手で大金を手にします。

サカリ・クオスマネンは大金を元手に、不動産屋に紹介された小さなレストランを3万ユーロで購入します。

ランチにオイル・サーディンを缶詰のまま提供する様なレストランと共に付いてきた3人の従業員、イルッカ・コイヴラ(役名:支配人カラムニウス)、ヤンネ・ヒューティアイネン(役名:厨房係ニュルヒネン)、ヌップ・コイブ(役名:ホール係ミルヤ)は、咥え煙草で仕事をするようないい加減さでしたが、彼等は捨て犬・コイスティネンをこっそり育てるという人間味を覗かせる一面もあります。

難民申請中のシェルワン・ハジは、入国管理局がアレッポは戦闘状態には無いとの判断を下したことから、トルコのアンカラに強制送還されそうになります。

隙を見て逃走したシェルワン・ハジは、潜入したライブ・ハウスでフィンランド解放軍と書かれた革ジャンを来た3人組右翼の襲撃を受け、危うく殺されそうになります。

間一髪でライブハウスの客に助けられた彼がサカリ・クオスマネンの店のごみ置き場で佇んでいる時、サカリ・クオスマネンと出会います。

レストランの従業員に雇われたシェルワン・ハジは、カーリド・フセインと称する偽造身分証をサカリ・クオスマネンにより与えられます。

売上の芳しくないレストランを寿司レストランに変えたサカリ・クオスマネンでしたが、大挙して押し寄せた日本人観光客に対応出来なかったこともあり(※)、ほどなくしてレストランを音楽主体の酒場に変更します。

或る日、シェルワン・ハジは難民仲間から妹のニロズ・ハジがリトアニアの難民センターに居ることを知ります。

サカリ・クオスマネンらの協力が実り、ヘルシンキの港で兄妹は念願の再会を果たします。

改装した店が軌道に乗り始めたサカリ・クオスマネンは、禁酒に成功した妻のカイヤ・パカリネン営むテイクアウト・スナックの店を見付け、互いの近況を報告します。

しかし、妹の難民申請の前日、シェルワン・ハジは以前ライブ・ハウスで会ったフィンランド解放軍の一人に見つかってしまいます。

 

初老の男性が人生をリセットする本作は、アキ・カウリスマキ監督の『過去のない男』(2002)でマルック・ベルトラが演じた記憶を失った男を連想します。

特にそれまでの自分を変えることなく淡々と新しい人生を歩もうとするサカリ・クオスマネンの自然体が、どうにも冴えないレストラン従業員達や激動の祖国から辿り着いた兄妹との絡むこの作品は、不思議と五感に心地よいアンサンブルを醸し出している様に感じます。

この映画の縦糸に絡むテーマは決して軽いものではありませんが、全編に漂う飄逸さと独自のテンポが生み出すユーモアは、この作品に親和性を与えているのではないかと考えます。

『過去のない男』と共に、饒舌とは無縁のアキ・カウリスマキ監督固有の映像表現が観客をスクリーンに引き込んでくれる、奥行を感じる作品としてこれからも観続けたい映画です。

 

(※)寿司ネタ不足に対応する為に、厨房にあった缶詰の鰊にシャリ大のワサビを載せた握りを提供します。

 

§『希望のかなた』

シェルワン・ハジ↑

サカリ・クオスマネン、カティ・オウティネン↑

シェルワン・ハジ(後方で正面を向いている)↑

シェルワン・ハジ、ヤンネ・ヒューティアイネン、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コイヴラ↑

シェルワン・ハジ↑

シェルワン・ハジ、イルッカ・コイヴラ、ヌップ・コイブ、ヤンネ・ヒューティアイネン、サカリ・クオスマネン↑

シャリ大のワサビが乗った握り寿司↑

ヤンネ・ヒューティアイネン、シェルワン・ハジ↑

ヌップ・コイブ、イルッカ・コイヴラ、シェルワン・ハジ↑