ゲイリー・マーシャル監督(※)が1990年に撮った『プリティ・ウーマン (Pretty Woman)』は、ロイ・オービソンの「オー・プリティ・ウーマン」を主題曲に用いた1990年度の全米興行収入No.1の恋愛映画で、本作でビビアン・ワードを演じたジュリア・ロバーツは、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞しております。

ファスナーが壊れた合成皮革のブーツを安全ピンで留め、ハリウッドの街角でジュリア・ロバーツ (役名: ヴィヴィアン・ワード)は客待ちをしています。

そこへ、ビバリー・ヒルズのパーティ会場から顧問弁護士・ ジェイソン・アレクサンダー(役名:フィリップ・スタッキー)の車を借りて抜け出してきたリチャード・ギア (役名:エドワード・ルイス)のロータスが路肩に停車します。
借りた車が慣れないマニュアル仕様だったことで道に迷っていたリチャード・ギアに、ジュリア・ロバーツが近付いて来たことを倖いと、リチャード・ギアは彼女にビバリーウィル シャー・ホテルまでの運転を20ドルで依頼します。
1時間100ドルの相場を主張するジュリア・ロバーツを20ドルに抑え込んだリチャード・ギアは、彼女の運転でLA滞在中のペントハウス・ホテルに辿り着きますが、帰りのバスを持っている彼女の姿に心が動いたことから、彼の部屋で休息することを提案します。
リチャード・ギアはシャンパンと苺を取り寄せてジュリア・ロバーツをもてなしますが、彼女は約束は1時間だけであることを強調します。
その様な彼女に、リチャード・ギアは300ドルの支払いを約束して時間を忘れさせます。
翌朝、事務所からの電話で買収相手の社長・ラルフ・べラミー (役名:ジェームズ・モース)との女性同伴の会食が取り決められたとの報告を受けたリチャード・ギアは、ジュリア・ロバーツに6日間で3,000ドルの契約をオファーします。

会食のドレスを購入する資金援助を受けたジュリア・ロバーツは、ビバリーヒルズのブティックに入店しますが、店員に相手にされなかった彼女は失意と怒りの混じった姿でペントハウス・ホテルに戻ります。

ジュリア・ロバーツは、事情を聞いたペントハウス・ホテルの支配人・ヘクター・エリゾンド (役名:バーニー・トンプソン)に紹介されたブティックでドレスを購入し、後に彼女を不愉快にさせた件のブティックを再訪して意趣返しの言葉を口にします。
ヘクター・エリゾント支配人からテーブル・マナーを学んだジュリア・ロバーツは、買収相手のラルフ・ベラミーと彼の息子・ アレックス・ハイド=ホワイト(役名:デヴィッド・モース)と会食しますが、会社を愛するラルフ・ベラミーに対し情が動いてしまったリチャード・ギアの買収交渉は暗礁に乗り上げます。

部屋に戻ったジュリア・ロバーツとリチャード・ギアは、金銭で割り切って考えることがビジネスには必要である点で共感し合いますが、ビジネスとは一線を画す情の存在を互いの心に意識します。

買収交渉が思惑通りに行かなかった原因が、ジュリア・ロバーツの背後関係にあるのではないかと疑う弁護士・ ジェイソン・アレクサンダーを安心させる為に、リチャード・ギアはジュリア・ロバーツの素性を明かしてしまいます。

ジェイソン・アレクサンダーのジュリア・ロバーツに対する態度が急変したことに傷付いた彼女は、3,000ドルの契約を打ち切りたいとリチャード・ギアに申し出ますが、彼は彼女を傷つけてしまったことを心から詫び、彼女を強く慰留します。
次の日、プライベート・ジェットに乗りサンフランシスコでジュゼッペ・ヴェルディのオペラ・椿姫を鑑賞した二人は、互いの心に存在感を持ち始めた相手を意識します。
6日間の契約終了日を迎えた時、リチャード・ギアはジュリア・ロバーツにコンドミニアムと経済的援助の提供を申し出ますが、ジュリア・ロバーツは子供の頃に白馬の騎士が塔に住む自分を迎えに来ることを夢見ていたことを告げ、彼の申し出を断ります。
リチャード・ギアはこれまでの離婚歴や別れたばかりの恋人とのことを彼女に話し、自分は金銭以外では女性を倖せには出来ない人間であることを話します。

支配人・ヘクター・エリゾンドに別れを告げたジュリア・ロバーツは、彼が手配してくれたR・ダレル・ハンター (役名:ダリル)の運転するリムジンに乗りホテルを後にします。

 

街角で商売をする女性・ジュリア・ロバーツと辣腕実業家のリチャード・ギアの恋愛を描いた本作は、淑女に変貌する女性と紳士の恋愛と言う点で『マイ・フェア・レディ』(監督:ジョージ・キューカー  1962)の影響を感じる作品ではないかと思います。
それと共に、2人の出逢いからリチャード・ギアの高級ペントハウス・ホテルにジュリア・ロバーツを招待する流れには、ガールフレンドと諍いを起した映画スターが街角で働く女性を部屋に連れて行く『カビリアの夜』(監督:フェデリコ・フェリーニ 1957)やそのミュージカル・リメイク『スイート・チャリティ』(監督:ボブ・フォッシー  1969)との重なりを感じます。

あと、リチャード・ギアが騎士の様に現れる姿には、航空士官となったリチャード・ギアが、工場勤務のデブラ・ウィンガーとの愛を貫き通す『愛と青春の旅だち』(監督:テイラー・ハックフォード  1982)も連想してしまいます。
『マイ・フェア・レディ』では、レックス・ハリソン演じるヒギンズ教授がオードリー・ヘプバーンに恋をしたことにより2人の立場が逆転しますが、本作でもリチャード・ギアがジュリア・ロバーツに経験したことの無い共感を覚えたことで、殻に覆われていたジュリア・ロバーツの内面に取り込まれたかの様な感覚を覚えます。
この映画でリチャード・ギアが演じる辣腕実業家は、現代の白馬・ロータス・エスプリやリムジンに乗って登場しますが、非情なイメージを伴いがちな企業買収家でありながらどこか翳のある佇まいに、彼のプライベートに何がしかの欠落部分があることを漂わしている様に思います。

それは、『ローマの休日』(監督:ウィリアム・ワイラー  1953)やそのアダプテーションと考える『ノッティングヒルの恋人』(監督:ロジャー・ミッシェル  1999)で、オードリー・ヘプバーンが演じた王女やジュリア・ロバーツが演じたハリウッド・スターが浴びるスポットライトが作り出す翳にどこか共通するものを感じます。

リチャード・ギアの翳と共振したことで自身に変化が生じたことに気付いたジュリア・ロバーツの心の中に、恋のステージが変化したかの様に椿姫のアリアの歌詞「自分は生まれ変わることが出来るのでは?」が鳴り響きます。

金銭で割り切ることがビジネスには必要であると共感した2人が、ビジネスを超えた情に傾いたことにより再生へと向かう本作の基調には感銘を覚えます。
ファンの多い作品であることから、夫々に好きなシーンが存在する作品だと思いますが、個人的には、支配人・ヘクター・エリゾンドが恋愛に自信を失っているリチャード・ギアの背中を押す為に、「美しいものほど手離すのは辛いものです。」、「そう言えば、昨日ダリルがビビアン様をお宅までお送りしました。」を口にする一連の粋な流れには、カタルシスと共に心のざわめきを感じます。
ラストで、紅灯館の名花・ヴィオレッタと青年アルフレードの恋愛を描いたオペラ・椿姫の旋律が、ジュリア・ロバーツとリチャード・ギアの二人の姿を彩る恋愛映画として好きな作品です。 

 

(※)監督のゲイリー・マーシャルは『25年目のキス』(監督:ラジャ・ゴズネル 1999)で、ドリュー・バリモアが勤務する新聞社のエキセントリックな社長を演じております。

 

§『プリティ・ウーマン 』

リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ↑

リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ↑

オペラ・椿姫↑

椿姫に心を動かされるジュリア・ロバーツ↑

ラルフ・べラミー 、リチャード・ギア↑

リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ↑

リチャード・ギア、ヘクター・エリゾンド↑

ジュリア・ロバーツ↑