ミュージカル映画の巨匠スタンリー・ドーネンが1957年に監督した『パリの恋人 (Funny Face)』は、オードリー・ヘプバーンとフレッド・アステアのダンスが堪能出来るミュージカル映画ですが、ファッション業界を描いたモダンな映像作品としても、記憶される作品ではないかと考えます(※)。


ファッション誌Qualityの編輯者であるケイ・トンプソン (役名:マギー・プレスコット)とファッション写真家のフレッド・アステア (役名:ディック・エイブリー)は、外観と知性が調和した次のファッション・トレンドとなる人材を探しています。
ブレイン・ストーミングの結果、彼等はグリニッジ・ヴィレッジの書店内でモデル撮影を行うことを思いつきます。
奥ゆかしい佇まいのオードリー・ヘプバーン (役名:ジョー・ストックトン)が店番をしているエンプリオ・コンセプト書店で、彼等は探し求めていた人材に出逢います。

オードリー・ヘプバーンは、フランスの哲学者・ミシェル・オークレール(役名:エミール・フロストル教授)が主宰する共感主義哲学の信奉者で、ファッション・モデルに関心はありません。

しかし、パリに行けばミシェル・オークレールの講義に出席することが叶うと考えたオードリー・ヘプバーンは、モデル撮影の申し出を承諾します。
ケイ・トンプソンとオードリー・ヘプバーンの一行がパリに着くと、オードリー・ヘプバーンは共感主義者や芸術家が集まるカフェへと向かいます。

オードリー・ヘプバーン、ケイ・トンプソン、フレッド・アステアの3人はイベントの準備や有名なランドマークで写真を撮り続けます。

すると、モデルとカメラマンとして接しているうちにオードリー・ヘプバーンとフレッド・アステアは恋に落ちます。
Quality誌が主催したオードリー・ヘプバーン紹介のパーティの夜、ミシェル・オークレールがカフェで講演をすることを知ったオードリー・ヘプバーンは、パーティ中に頃合いを見計らってカフェに出かけます。

オードリー・ヘプバーンの後を追って来たフレッド・アステアはオードリー・ヘプバーンに、パーティ会場となったロバート・フレミング (役名:ボール・デュバル)のサロンへ戻る様に促します。

サロンに向かうタクシーで、若き教授のミシェル・オークレールにオードリー・ヘプバーンが心酔する姿が面白くないフレッド・アステアと、教授に無礼を働いたことに憤ったオードリー・ヘプバーンは衝突します。

諍いを続けるを2人の所為で、お披露目パーティは思惑通りの成果を挙げることは出来ずにお開きとなります。

オードリー・ヘプバーンが翌日ミシェル・オークルール教授の部屋に居るのを見つけたフレッド・アステアは、彼に下心があることを説いて、オードリー・ヘプバーンを連れ帰ろうとします。
しかし、オードリー・ヘプバーンはフレッド・アステアの不躾さを咎め、 喧嘩別れしてしまいます。

フレッド・アステアが帰ると、ミシェル・オークレールはフレッド・アステアの予想通りオードリー・ヘバーンに言い寄ります。


この映画を観ると、タイトルからファッション出版社のオフィスのセットが映し出される冒頭シーンの斬新さと、全編パリでのロケ映像に、この映画に対する関係者のただならぬ意気込みを感じます。

特に圧巻なのは、ルーブル美術館のサモトラケのニケ像前やオペラ座内、そしてアンナ・カレーニナをイメージした蒸気を使った駅構内のグラビア撮影シーン等に感じられる、あたかも現地にいるかの様なロケ映像の美しさです。

あと、この作品はバレエ・ダンサーを目指していたオードリー・ヘプバーンのダンスと彼女の歌声を堪能出来ることから、オードリー・ヘプバーンのファンとミュージカル映画ファンには嬉しい作品ではないかと考えます。
ファッション・カメラマン役のフレッド・アステアが撮るオードリー・ヘプバーンのグラビア撮影シーンを観ていると、通常のミュージカル映画とは違う、次元の異なる作品を観ているような感覚に襲われます。

フレッド・アステア演じるディック・エイブリーは名カメラマンであるリチャード・アヴェドンがモデルとのことですが、リチャード・アヴェドンが監修に参加したことで、彼自身が撮影した写真や懇意にしていたモデルが映画に登場しているとのことです。

この映画の興味深い点は、哲学好きの書店勤務女性がパリに行きたいが為にモデルになるという知とファッションの結合を、ベルギー生まれのオードリー・ヘプバーンが演じているところで、『巴里のアメリカ人』 (監督:ヴィンセント・ミネリ 1951)同様、バリを舞台にジョージ・ガーシュインの楽曲が使われている欧州の香り漂うスタイリッシュな作品だと思います。
オードリー・ヘプバーンとフレッド・アステアがデュエットで繰り広げる池の畔のダンスや、ジョージ・ガーシュインの「ス・ワンダフル」の歌唱の夢見るような映像を観る度に、自分の様なミュージカル映画好きはある種の感謝の気持ちが沸き起こります。

ミュージカルとしてこの映画で観られるダンスは、オードリー・ヘプバーンの酒場のコンテンポラリー・ダンス、フレッド・アステアの傘を巧みに使ったダンス、暗室の二人による回転椅子を使ったデュエット・ダンス、牛の登場をきっかけに始まるフレッド・アステアのスペイン風ダンス、ウエディング・ドレスに身を包んだオードリー・ヘプバーンとのデュエット・ダンス中に艀で川を渡るエレガントな振付け等、創意に溢れた演出にファンは魅了されるのではないかと考えます。
『足ながおじさん』 (監督:ウォルター・ヤング  1955)、『絹の靴下』 (監督:ルーベン・マムーリアン  1957)と共に、 フレッド・アステア後期のキャリアを彩る’パリ3部作’として、これからも観続けて行きたいミュージカル映画です。 

 

(※)この映画のオープニング・タイトルやセットのデザインは現代美術館の作品に伍するのではないかと考えます。

PS :有名ファッション誌「Quality」の主筆を演じるケイ・トムスンが歌と踊りと芝居に見事なバイ・プレーヤー振りを演じており、彼女がオードリー・ヘブバーンやフレッド・アステアと歌い踊るシーンは本作がバラマウント社ではなくMGM社の作品であれば 『ザッツ・エンターテイメント』(監督:ジャック・ヘンリー・Jr  1974)の名場面として登場したのではないかと想像します。

この文章は2018年4月に記載した文章に粗筋を加え、大幅加筆・修正を加えた差替えです。 

 

§『パリの恋人 』

 

ケイ・トンプソン 、オードリー・ヘプバーン、フレッド・アステア↑

オードリー・ヘプバーン↑

ケイ・トンプソン 、フレッド・アステア、オードリー・ヘプバーン↑

オードリー・ヘプバーン↑

オードリー・ヘプバーン↑

「アンナ・カレーニナ」の設定で行われた駅の撮影シーン(オードリー・ヘプバーンの恋愛感情が、蒸気の中から浮かび上がる瞳と共に顕わになる)↑

オードリー・ヘプバーン↑

オードリー・ヘプバーン、フレッド・アステア↑

オードリー・ヘプバーン、ケイ・トンプソン ↑

階段上で踊るケイ・トンプソン 、フレッド・アステア↑

オードリー・ヘプバーン↑