『ケイン号の叛乱』(1954)を撮ったエドワード・ドミトリクが1959年に製作・監督した『ワーロック (Warlock)』は、架空の町ワーロックを舞台にしたオークリー・ホールの同名小説を映像化した西部劇です。

1880年代初頭のユタ州の小さな鉱山ワーロックの町では、トム・ドレイク(役名:エイブ・マックウォン)の牧場で働くカウボーイ達が町にやって来ては髭剃りを失敗した床屋を殺したり、彼らに立ち向かおうとする郡の副保安官に屈辱を与えて追い出したりの狼藉を働いています。
しかし、彼等の一員であるリチャード・ウィドマーク (役名:ジョニー・キャノン)は、非道な行いをすることに嫌悪感を抱いております。

町の人々は自衛の為に、古参のウォーレス・フォード (役名:ホロウェイ判事)等の反論にも拘わらず、腕利きのヘンリー・フォンダ (役名:クレイ・ブレイズデル)を私設保安官として雇うことを決めます。
しかし、ドロレス・マイケルズ (役名ジェシー・マーロウ)は、ヘンリー・フォンダがギャンブラーのアンソニー・クイン(役名:トム・モーガン)と常に行動を共にしていることが新たな騒動になりうるとの懸念を表します。

やがてヘンリー・フォンダがアンソニー・クインと共に町にやって来ると、アンソニー・クインは早速酒場を開業します。
暫くして町に現れたトム・ドレイクに、ヘンリー・フォンダは早撃ちの素振りを見せて威嚇します。
静かに町を後にしたトム・ドレイクでしたが、それ以後も変わらず家畜の盗難と駅馬車の襲撃が繰り返されます。
そんな或る日、ドロシー・マローン (役名:リリー・ドラー)が夫を殺したヘンリー・フォンダへの復讐にやって来ます。
駅馬車を岩陰で待伏せていたアンソニー・クインは、ドロシー・マローンと彼女の義弟が乗る駅馬車を襲い、トム・ドレイク一味が義弟を射殺したかの様に見せかけます。

アンソニー・クインは恋人だったドロシー・マローンを今でも愛していますが、既に彼から離れている彼女の心を引き寄せようとしたことから仕掛けた詭謀でした。
暫くして、ヘンリー・フォンダは裁判で、リチャード・ウィドマークの弟フランク・ゴーシン (役名: ビリー・キャノン)達を町から追放します。
トム・ドレイクの許を離れ町で働いているリチャード・ウィドマークは、ドロシー・マローンに惹かれますが、ドロシー・マローンはリチャード・ウィドマークを利用してヘンリー・フォンダへの意趣返しを目論みます。
一方、ヘンリー・フォンダとドロレス・マイケルズは互いに惹かれ合い、町の為に立ち上がることを決意したリチャード・ウィドマークは、町の副保安官になることを決意します。

追放されたリチャード・ウィドマークの弟・フランク・ゴーシンは、ヘンリー・フォンダに決闘を挑みます。

しかし、フランク・ゴーシンの知らぬうちに、フランク・ゴーシンの仲間がヘンリー・フォンダを後方から狙おうとしていたことにアンソニー・クインが気付きます。
アンソニー・クインが物陰の男を仕留めると同時に、ヘンリー・フォンダはフランク・ゴーシンを撃ち倒します。

リチャード・ウィドマークはトム・ドレイクに町から去るように告げますが、襲われた彼は右手に怪我を負ってしまいます。 

その様なリチャード・ウィドマークの姿に、町の人々は彼に信頼を置く様になります。
ドロシー・マローンへの想いから嫉妬に狂ったアンソニー・クインは、ヘンリー・フォンダにリチャード・ウィドマークの殺害を誘いかけますが、ヘンリー・フォンダは耳を貸しません。

アンソニー・クインの妨害により、加勢しようとしたヘンリー・フォンダが足止めされていたにも拘らず、トム・ドレイクとの対決を制したリチャード・ウィドマークを酩酊状態のアンソニー・クインが殺害しようとします。
ヘンリー・フォンダはアンソニー・クインを捕え、彼に町からの退去を命じます。

しかし、命に背いて銃を抜いたアンソニー・クインをヘンリー・フォンダは射殺します。
彼の酒場と共にアンソニー・クインを火葬しようとしたヘンリー・フォンダは、皆の制止の言葉を聞かずに酒場に火を点けます。
町を出なければ逮捕するとリチャード・ウィドマークから告げられたヘンリー・フォンダは、町を去ることを決意します。

この映画は西部劇ファンの小説家・逢坂剛と文筆家・川本三郎の共著 「大いなる西部劇」(新書館、2001年)の中で、両氏が愛好する作品として高頻度の引用がなされております。
逢坂剛は別書で、『愛を読むひと』(監督スティーブン・ダルトリー  
2008)として映像化されたベルンハルト・シュリンクの「朗読者」中、主人公・ミヒャエル・ベルクと21歳年上のハンナ・シュミットが『ワーロック』の科白を引用したことに言及しております(※)。

主演がヘンリー・フォンダではなく、悪役としても存在感を示してきたリチャード・ウィドマークであるところがこの映画の特色ではないかと考えます。 

この作品の、悪役の一員として登場するリチャード・ウィドマークが、更生後にかつての親玉を倒してヘンリー・フォンダを追放するという展開は、他の西部劇とは一線を画すこの映画の特性ではないかと思います。

他所から来たヘンリー・フォンダは自分解釈の正義や主義を貫く為には殺人を辞さないタイプであり、ドロシー・マローンに心を奪われているギャンブラーのアンソニー・クインの存在と共に、毒をもって毒を制すことを止む無しとするワーロックという町の選択が前半に描かれます。

そこへ、悪の構成員だったリチャード・ウィドマークが、覚醒した正義の存在として地元・ワーロックを自浄する流れが後半の展開になります。
本作のヘンリー・フォンダは、『ウエスタン』(監督:セルジオ・レオーネ  1968)で悪役を演じた彼の姿に繋がるものを感じますが、ある意味、平和が戻った時には異端者となってしまう、黒澤明の時代劇が描く侍に通じる戦士の哀しさが描かれているのかも知れません。

鉱山の町ワーロックの住民と外来者(ストレンジャー)達の人間模様と恋愛が織りなす様々なドラマに魅せられる、西部劇であるから描けた西部劇を超えた作品ではないかと考える好きな映画です。

(※)「今、何がお望みなの? たった一晩で人生の全てを? (What do you want? Your whole life in one night?)」 (逢坂剛・川本三郎 「わが恋せし女優たち」 七つ森書館、2
014年、pp185 ~186)。

『ワーロック』では、ヘンリー・フォンダとの決闘を前にしたリチャード・ウィドマークがドロシー・マローンを訪ねた時、ドロシー・マローンがこの科白を言います。
ベルンハルト・シュリンクの「朗読者」では、ハンナ・シュミットに逢いに来たミヒャエル・ベルクに対し、彼女がこの言葉を口にします。

 

PS:この映画でトム・ドレイクの子分でありながら、リチャード・ウィドマークに理解を示すカウボーイのカーリー・バーン役を、「宇宙大作戦」でドクター(レナード)・マッコイを演じたデフォレスト・ケリーが演じております。

 

§『ワーロック』

ヘンリー・フォンダ、アンソニー・クイン↑

ドロレス・マイケルズ、トム・ドレイク↑

リチャード・ウィドマーク↑

ドロシー・マローン、リチャード・ウィドマーク↑

ドロシー・マローン、リチャード・ウィドマーク↑

ドロシー・マローン↑

ドロレス・マイケルズ、ヘンリー・フォンダ↑

デフォレスト・ケリー、ヘンリー・フォンダ、ドロレス・マイケルズ↑

トム・ドレイク(左)、リチャード・ウィドマーク(右から2人目)、デフォレスト・ケリー(右)↑

リチャード・ウィドマーク、ドロシー・マローン↑

アンソニー・クイン(ドロシー・マローンの肖像画の前で)↑

ヘンリー・フォンダ↑

リチャード・ウィドマーク↑