海軍行進曲を題名にした『錨を上げて (Anchors Aweigh)』は、数多くの有名ミュージカル映画を撮ったジョージ・シドニー(※1)が1945年に監督したMGMミュージカル作品です。

水兵のジーン・ケリー(役名:ジョゼフ・ブラディ)とフランク・シナトラ (役名:クラレンス・ドゥーリッツル)は、4日間の特別休暇をハリウッドで過ごす為に上陸します。
ジーン・ケリーは、ガールフレンドのローラと一緒に過ごすことに心血を注ぎ電話をかけ続けます。

コーラス隊出身でシャイな同僚のフランク・シナトラは、ジーン・ケリーにガール・フレンドと知り合う方法について指南を仰ぎます。
海軍に入りたがっている少年ディーン・ストックウェル (役名:ドナルド・マーティン)は、大通りを彷徨っている姿を警官に発見され、警察署に連れて行かれます。

ひょんなことからフランク・シナトラとジーン・ケリーは、ディーン・ストックウェルに家に帰るように説得させられたことから、彼を家まで送り届けることになってしまいます。

すると、少年の家には彼の唯一の身寄りである叔母のキャスリン・グレイソン (役名:スーザン・アボット)がおり、フランク・シナトラはキャスリン・グレイソンに一目惚れしてしまいます。

彼等は彼女が声楽家志望で、映画のエキストラをしながら、高名な指揮者・ピアニストのホセ・イトゥルビとの共演を夢見ていることを知ります。

身なりの良い男性が、キャスリン・グレイソンとのディナーの約束の為に彼女を迎えに来た時、フランク・シナトラとジーン・ケリーはその男性にキャスリン・グレイソンの根も葉もない風評を吹き込んで追い返します。
しかし、苦労して漕ぎ着けた音楽界に顔が利く男性とのデートを邪魔されたキャスリン・グレイソンは、哀しみに襲われます。

ジーン・ケリーはフランク・シナトラの為に彼がホセ・イトゥルビの友人であり、キャスリン・グレイソンにオーディションを受けさせるとに一肌脱げる人物であるとの出まかせを彼女に言います。

次第にキャスリン・グレイソンに惹かれ始めたジーン・ケリーでしたが、彼女の方もジーン・ケリーに好意を抱きます。
その夜カフェに出かけたフランク・シナトラは、自分と同じブルックリン出身のパメラ・リットンと意気投合します。

翌日、ジーン・ケリーはディーン・ストックウェルの学校を訪れ、子供達に彼がどのようにして勲章を獲得したか、そしてどのようにして孤独な若い王様に幸せをもたらし(アニメではネズミのジェリーが演じる)、森の動物たちに敢びを与えたかを伝えます。
その間、フランク・シナトラはMGMスタジオに侵入したりと、幾度もホセ・イトゥルビとの接触を試みますが成功しません。
途方に暮れたフランク・シナトラとジーン・ケリーでしたが、休暇最終日にキャスリン・グレイソンはオーディションのことを知らないスタジオの売店でホセ・イトゥルビに出くわします。

全てはジーン・ケリーの敷いた大風呂敷だったことを知ったキャスリン・グレイソンは、ジーン・ケリーを電話で責めますが、失望に襲われた彼女は激しく落ち込みます。
その様子を同情の目で観ていたホセ・イトゥルビは、彼女にスクリーン・テストを受けることを提案します。


本作はシャイで晩熟(おくて)なクラレンスを演じるシンガー・フランク・シナトラと押しの強いジョゼフ役のダンサー・ジーン・ケリーが、4日間の上陸期間に躍動するラブ・コメディ・ミュージカルです。

フランク・シナトラとジーン・ケリーが、それぞれの得意分野である歌(2声のデュエット)と躍動的なダンスのデュエットを、共に高難度で演じている作品ではないかと考えます。
この映画は、名曲「I Fall In Love Too Easily
」 を歌う人気シンガー・フランク・シナトラに加え、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの「弦楽セレナード」を歌唱するMGMの歌姫・キャスリ ン・グレイソン、そしてフランツ・リストの「ハンガリー狂詩曲第2番」を19台のピアノ連弾で披露するピアニスト・ホセ・イトゥルビが音楽面を支えており、これらの楽曲以外にも華麗な旋律に彩られたミュージカル作品として愉しめます。

この度、本作を観て感じたことですが、メキシカン・レストランが重要な舞台になることもあり、この映画に登場する音楽のバリエーションはとても豊富で、軍楽マーチ 、マリアッチ、アメリカン・ポップス (ジャズ)、クラシック(器楽・声楽)がダンスの伴奏ではなく、単独の鑑賞作品として登場するので、音楽ファンには愉しい作品ではないかと思います。

あと、先般購入したブルーレイを鑑賞して思ったことは、映像の美しさもさることながら音がとても良いことで、 製作年が1945年であるとすると、まだテープ録音によるLPレコード以前の光学式録音であるにも拘わらず(※2)、リマスターされたピアノの音は現代録音に慣れた耳で聴いても可成りの水準の様に感じます。
この作品はジーン・ケリーとジェリー・マウスが 「The Worry Song」で踊るシーンでも有名なミュージカル映画ですが、ここでジェリー・マウス の声を担当しているサラ・ベルナーは、アルフレッド・ヒッチコック監督の 『 裏窓』(1954)で 犬を飼っている婦人役を演じております。

歌と踊りの巨星・フランク・シナトラとジーン・ケリーの本気度の高い競演が堪能出来る、MGMミュージカル映画として好きな作品です。


(※1)『世紀の女王』(1944) 、『ハーヴェイ・ガールズ』(1946)  、『アニーよ銃をとれ』(1950)、『ショウ・ボート』(1951) 、『キス・ミー・ケイト』 (1953)、『バイ・バイ・パーティ』(1963) 、『 心を繋ぐ6ペンス』(1967)


(※2)連合軍がドイツのテープレコーダーをルクセンブルグで押収したのが1944年9月、 ハイ・ファイ録音の始まりを告げる米コロンビアのビニール盤発売開始が1948年とのことです。
 

PS:現在発売中のブルー・レイの特典映像に「トムとジェリー」の生みの親(そして「スーパー・スリー」、「大魔王シャザーン」の生みの親)、ハンナ&バーベラの2名が『錨を上げて』製作時を回想する映像が含まれております。

本作は2018年3月に掲載の文章に粗筋を加え、大幅加筆・変更を加えて差替えたものです。 

 

 §『錨を上げて (Anchors Aweigh)』

ジーン・ケリー、フランク・シナトラ↑

キャスリン・グレイソン、ディーン・ストックウェル 、フランク・シナトラ、ジーン・ケリー↑

ジーン・ケリー、フランク・シナトラ↑

キャスリン・グレイソン(中央)↑

キャスリン・グレイソン↑

フランク・シナトラ、パメラ・リットン↑

キャスリン・グレイソン、ジーン・ケリー↑

ジェリー・マウス、ジーン・ケリー↑

ジーン・ケリー(右)↑

ホセ・イトゥルビ↑

キャスリン・グレイソン、ジーン・ケリー、フランク・シナトラ、パメラ・リットン↑