『モンパルナスの灯(Les amants de Montparnasse 〈Montparnasse 19〉)』(1958)は、38歳で亡くなったエコール・ド・パリの画家アメデオ・クレメンテ・モディリアーニ(以下:モディリアーニ)の晩年の日々を題材にした映画になります。

この作品は、『忘れじの面影』(1948)、『輪舞』(1950)を撮ったマックス・オフュルス監督が企画し脚本も執筆していたものを、彼の急死により『肉体の冠』(1952)、『穴』(1960) のジャック・ベッケル監督が引き継いで脚本を変更して完成させた作品になります。


1910年代のパリで自由な芸術家として生活するジェラール・フィリップ (役名:モディリアーニ)。

同じアパートに住む画商・ジェラール・セティ(役名:スボロウスキー)の尽力の甲斐なく作品が売れない彼は、酒場の似顔絵で糊口をしのぎながら、昔付き合っていたレア・パドヴァ-ニ(役名:ロザリー)の酒場で酒をあおり、文筆家・リリー・パルマ (役名:ベアトリス)と放埓な日々を過ごしています。

制御出来ない苛立ちから、ジェラール・フィリップは粗暴な振る舞いでリリー・バルマー(役名:ベアトリス)に接した後、彼の軀はパリの街を彷徨います。
画塾でジェラール・フィリップと純真な美術学生のアヌーク・エーメ(役名:ジャンヌ・エビュテルヌ)は、互いに惹かれ合うことで恋愛関係になります。
昂まる想いを抑えきれなくなったアヌーク・エーメは、家を出てジェラール・フィリップの許に来ることを約しますが、親の反対により2人は引き離されてしまいます。
アルコールに逃避した失意のジェラール・フィリップを見かねた画商・ジェラール・セティは、ジェラール・フィリップを陽光輝くニースに転居させることで彼の心身の再起を促します。

暫くして、ニースに来たアヌーク・エーメと二人は、束の間の幸せな日々を過ごし、生気を取り戻した彼の筆はキャンバスを走ります。

アントワーヌ・チュダル(役名: ベルト・ウェイル)の財力を得て画商・ジェラール・セティはジェラール・フィリップの個展を開きますが、店頭に飾った裸婦画を警察によって撤去させられるなど、成功には程遠い結果に終わります。

或る日、アメリカの富豪が彼の絵に興味を示しますが、商業目的に使われることを知ったジェラール・フィリップは、決まりかけた商談を破談にしてしまいます。

生活苦に陥ったジェラール・フィリップは、病に蝕まれた軀でデッサンを売りに酒場を廻りますが、一枚も売れない状況の後、遂に路上に倒れ込んでしまいます。

警察病院に担ぎ込まれたジェラール・フィリップに、以前から彼の才能を認めていた画商・リノ・ヴァンチュラ (役名:モレル)が発見者として付き添います。

ジェラール・フィリップの容態を見守るリノ・ヴァンチュラは、何も知らずにアヌーク・エーメがジェラール・フィリップの帰りを待っていることを知っています。

モディリアーニの晩年を描いた本作は、フィンセント・ファン・ゴッホや宮沢賢治を想起させる、没後にその才能が広く認められる早逝芸術家の苦悩と創作の日々が描かれております。

本作に登場するモディリアーニの絵画を観ていると、世界中の美術館やコレクターの垂涎の的であるモディリアーニの真筆達が、無造作に置かれ扱われる様に感慨を覚えてしまいます。
個人的にこの映画で印象に残るシーンは、ジェラール・フィリップとアヌーク・エーメが互いの想いを交感するギリシャ・ローマ彫刻のデッサン授業の場面です。

互いに離れてデッサンをしているジェラール・フィリップとアヌーク・エーメが、 石像彫刻に扮した2人のモデルではなく、申し合わせたかのように互いの姿を描いている様を、講師が叱ることなく2人の想いを仲立ちする流れには惹き込まれます。

あと、ジェラール・フィリップが呟く 「群衆の中では孤独を感じる」や、「傘をさすと空が見られなくなる」等の科白の幾つかも、モディリアーニという芸術家をイメージさせるフレーズとして心に残ります。

本作のジェラール・フィリップは、 異性とアルコールと病苦が彼の創作活動と共生する存在として描かれますが、 アヌーク・エーメとの出遭い以降は、2人の愛と芸術が立体的に浮かび上がるかのような感覚を覚えます。
それはあたかも、芸術に対し純粋 (pure)なジェラール・フィリップと、彼が愛する無垢の化身を思わせるアヌーク・エーメのイノセントさに対し、情人・リリー・パルマーや画商・リノ・ヴァンチュラの欲望や不純(impure)と言ったギルティさとの濃淡のコントラストが、この映画に空気遠近法の様な奥行きを与えているからかも知れません。

『肉体の冠』で魂の愛慕とも言うべき純白の恋愛を描いたジャック・ベッケル監督による、早逝の芸術家の恋愛模様を描いた作品としてこれからも観続けて行きたい映画です。

 

PS:自分は1970年代後半に札幌で開催されたモディリアーニの展覧会を観て彼のファンになりましたが、今秋、念願の「おさげ髪の少女」を名古屋市美術館で鑑賞することが出来たことは望外の欣びでした。

 

§『モンパルナスの灯』

ジェラール・フィリップ、リリー・バルマー↑

ジェラール・フィリップ↑

レア・パドヴァ-ニ 、ジェラール・フィリップ↑

アヌーク・エーメ↑

ジェラール・フィリップ、アヌーク・エーメ↑

アヌーク・エーメ、ジェラール・フィリップ、ジェラール・セティ↑

ジェラール・セティ、リノ・ヴァンチュラ↑

アヌーク・エーメ↑

ジェラール・フィリップ、ジェラール・セティ↑

ジェラール・フィリップ、アヌーク・エーメ↑