メアリー・オアの短編小説をジョセフ・マンキーウィッツ監督が1950年に映画化した『イヴの総て (All About Eve)』は、作品賞と監督賞を含むアカデミー賞6部門(※)を受賞した作品になります。

 

四十路の人気ブロードウェイ俳優ベティ・デイビス (役名:マーゴ・チャニング)は、最新作の公演後の楽屋に居ます。 

親友のセレステ・ホルム(役名:カレン・リチャーズ)と劇作家のヒュー・マーロウ (役名:ロイド・リチャーズ)は、ベティ・デイビスの熱狂的なファンであるアン・バクスター(役名:イヴ・ハリントン)を連れてベティ・デイビスの楽屋を訪れます。

第二次世界大戦で夫を失ったと語るアン・バクスターは、サンフランシスコ公演を観劇した後、ニューヨークでの最終公演を観たことを皆に告げます。 

熱心なファンであることを認めたベティ・デイビスは、その日以来彼女と親交を深めアシスタントとして雇われたことから、メイドのセルマ・リッター (役名:バーディー・クーナン)は不満を抱くようになります。

アン・バクスターは、誕生日を失念したベティ・デイビスの為に、彼女のボーイフレンドであるゲイリー・メリル(役名:ビル・サンプソン) に長距離電話を掛ける様になります。 

或る日、観客の居ない劇場で自分の衣装を着て頭を下げているアン・バクスターの姿を見たベティ・デイビスは、彼女に疑念を抱き始めます。

ベティ・デイビスはプロデューサーのグレゴリー・ラトフ(役名:マックス・ファビアン)に彼の事務所でアン・バクスターを雇うように頼みますが、アン・バクスターはベティ・デイビスの知らないうちに彼女の代役になる約束を得ています。 

アン・バクスターに対する苛立ちが増してきたベティ・デイビスの姿に、親友のセレステ・ホルムは心を痛めます。 

ベティ・デイビスが謙虚になることを願うセレステ・ホルムは、 アン・バクスターが代役として舞台に立てるように計らいます。 

ジョージ・サンダース (役名:アディソン・ドゥイット)等の演劇評論家を招待したアン・バクスターの公演は、成功裏に終ります。 

その晩、アン・バクスターはベティ・デイビスのボーイフレンドであるゲイリー・メリルを誘惑しようとしますが、ベティ・デイビスを愛するゲイリー・メリルに彼女は拒絶されてしまいます。 

一方、ジョージ・サンダースは若い才能の芽を摘むベティ・デイビスを批判する記事を書くために、舞台袖でアン・バクスターにインタビューします。 

劇作家ヒュー・マーロウの次作の主役を狙うアン・バクスターは、セレステ・ホルムに自分を推薦するように画策します。

アン・バクスターの策謀が功を奏する前に、主役の年齢設定が高いことを理由にベティ・デイビスはセレステ・ホルムの戯曲出演を断ったことで、アン・バクスターが主役の座を射止めます。 

劇作家のヒュー・マーロウが自分に気があると気付いたアン・バクスターは、ヒュー・マーロウと結婚することで、スターの座を得られるのではないかと考え始めます。 

その様なアン・バクスターに対し、評論家のジョージ・サンダースは、これまで語って来た彼女自身の情報が名前も含め偽りであることを突きつけ、彼女に言い寄ります。

ブロードウェイのスターとなったアン・バクスターは授賞式の席上、彼女のことを苦々しく思う人達に感謝の言葉を述べた後、受賞パーティへに出席することなく家路に着きます。

 家に着いたアン・バクスターは、アパートに滑り込んで眠っていた彼女の熱狂的な10代のファンであるバーバラ・ベイツ (役名:フィービー)に出会います。

バーバラ・ベイツはアン・バクスターが目を離した隙に、アン・バクスターが授賞式に着ていた衣装を身に纏い、鏡の前でお辞儀をします。

 

『裸足の伯爵夫人』(1954)や 『野郎どもと女たち (Guys and Dolls)』を撮った脚本家出身のジョセフ・L・マンキーウィッツが、自身のシナリオを用いて監督した作品です。

本作では、ベティ・デイビスが君臨するスターの座を出自や名前を偽るアン・バクスターが奪い取る過程を描くと共に、ラストのバーバラ・ベイツの登場により、アン・バクスターの座もバーバラ・ベイツによって脅(おびや)かされるであろうことが仄(ほの)めかされております。 

この映画を観て思うことは、ベティ・デイビス、アン・バクスター、バーバラ・ベイツへと続く世代交代が、あたかも細胞が新陳代謝するかの如く描かれていることです。

それは、スターという偶像化された存在が、常に「誰か」によって繰り返し演じられている様を象徴的に描いた作品なのかもしれません。

ベティ・デイビスはアン・バクスターが自分と入れ替わる存在であることに気付き、抗い、諦念に至りますが、 ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督は、彼女が宿命の流れに浮沈する姿を銀幕に映し出しているのではないかと思います。

この作品では、キャリア最初期のマリリン・モンローがチャンスを窺う新人女優役(役名:カズウェル)を演じております。

ベティ・デイビスとアン・バクスターが演じる新旧のスターの中で、後年大スターとなるマリリン・モンローが野心に満ちた俳優の卵役で出演していることは、興味深いキャスティングではないかと考えます。 

役を得ることに腐心するマリリン・モンローは、アン・バクスターの行動原理が'純粋な俳優としての向上心の為せる業'ではないかと思わせる、対比的な存在の様に感じます。 

しかし、アン・バクスターは直截的な手段で役を得ようとするマリリン・モンローとは異なり、自作自演の脚本を巧妙に演じる策略家であることが判明します。 

『八月の鯨』(監督:リンゼイ・アンダーソン  1987)の妹のリビー役や『ポケット一杯の幸せ』(監督:フランク・キャプラ 1961)の母親役が印象に残るベティ・デイビス。

そして、アルフレッド・ヒッチコック監督の『私は告白する』(1953) でモンゴメリー・クリフトの無実を証明する元恋人を演じたアン・バクスター。

個性際立つ俳優達がスターの座を巡り火花を散らす、芸能世界の普遍性を描いたと思われる観応えのある作品として好きな映画です。

 

(※)作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞、衣装デザイン賞、録音賞。

 

§『イヴの総て 』

アン・バクスター、セレステ・ホルム↑

ベティ・デイビス、セルマ・リッター ↑

アン・バクスター、ベティ・デイビス、マリリン・モンロー、ジョージ・サンダース ↑

アン・バクスター↑

ジョージ・サンダース、マリリン・モンロー ↑

ゲイリー・メリル、アン・バクスター↑

ゲイリー・メリル、ベティ・デイビス↑

セレステ・ホルム、ヒュー・マーロウ ↑

ジョージ・サンダース、 アン・バクスター↑

アン・バクスター(前)↑

ベティ・デイビス ↑

バーバラ・ベイツ 、ジョージ・サンダース↑