セルジオ・レオーネが1966年に監督した西部開拓時代を舞台にした 『ウエスタン (Once Upon A Time In The West)』は、2013年にイギリス映画協会が実施した世界の映像作家によるオールタイム・ベスト投票で44位にランキングされております。 

この作品には、ベルナルド・ベルトルッチが原案に参画しております。

 

年配の駅長とネイティブ・アメリカンの女性だけが駐在する西部アリゾナ州の駅のホームで、3人の男が列車に乗ってやって来る人物を待っています。

そこにハーモニカを吹きながら現れたチャールズ・ブロンソン(役名:ハーモニカ)は、一瞬で3人を倒します。

人里離れた荒地をスィート・ウォーターと名付けて暮らすフランク・ウルフ演じるブレット・マクベインは、ニューオリンズのフレンチ・クオーターで働いていたクラウディア・カルディナーレ (役名:ジル・マクベイン)と婚姻手続きを交わし、子供達と共に彼女を後妻として迎え入れる準備をしています。

しかし、突如現れたヘンリー・フォンダ (役名:フランク)とその一味によって、マクベイン一家は殺害されてしまいます。

更にヘンリー・フォンダは、偽の証拠を現場に残すことにより事件を賞金稼ぎのお尋ね者ジェイソン・ロバーズ(役名:シャイアン)一味の仕業に見せかけようとします。 

新妻となるはずだったクラウディア・カルディナーレは、夫を殺した一味に対し強い復讐心を抱きます。 

実のところ、ヘンリー・フォンダが一家を殺害した理由は、一家の土地を奪い取ろうとする鉄道王ガブリエル・フェルゼッティ (役名:モートン)の差し金でした。 

ガブリエル・フェルゼッティはヘンリー・フォンダを送ってフランク・ウルフを脅迫していましたが、フランク・ウルフー家の殺害の後、彼等は相続人となったクラウディア・カルティナーレの遺産を狙いに行きます。

遺産を競売で売ってニューオリンズに戻ろうとしたクラウディア・カルディナーレは、ヘンリー・フォンダを追う謎のガンマンのチャールズ・ブロンソンと一家殺害の濡れ衣を着せられたジェイソン・ロバーズの二人によって亡夫の遺志を知り得たことで、スィート・ウォーターに留まる決意をします。 

実は、殺害されたフランク・ウルフは、機関車用の井戸水が湧き出るスウィート・ウォーターを鉄道が通過することを確信していたことから、駅舎と給水所の建設の為に資材を購入していました。 

ジェイソン・ロバーズとチャールズ・ブロンソンは、寡黙な了解の下、クラウディア・カルディナーレの側に立ってガブリエル・フェルゼッティと共闘してヘンリー・フォンダに立ち向かいます。

鉄道王ガブリエル・フェルゼッティからクラウディア・カルディナーレ殺害の命令を受けたヘンリー・フォンダでしたが、彼女の資産を自分のものにしようとしたことから、ガブリエル・フェルゼッティに刺客を送られます。

チャールズ・ブロンソンは、ヘンリー・フォンダに襲い掛かる刺客達を次々と撃ち負かしますが、クラウディア・カルディナーレはヘンリー・フォンダを助けたチャールズ・ブロンソンを非難します。

そんなクラウディア・カルディナーレにチャールズ・ブロンソンは、自分の手で殺す為にヘンリー・フォンダを助けたと言い放ちます。

クラウディア・カルディナーレの前に現れた男達は、繰り返された戦いの後、鉄道の開通で発展する新しい街の姿をクラウディア・カルディナーレと共に見ることが叶わないまま消え去ります。

 

イタリア製西部劇の傑作『荒野の用心棒』 (1964)、『夕陽のガンマン』(1965)、『続・夕陽のガンマン/地獄の決闘』(1966)を撮ったセルジオ・レオーネ監督は、次回作として後に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)で描いた、禁酒法時代のニューヨークを舞台とするユダヤ教徒ギャングを描いた作品を撮る予定だったとのことです。

しかしながら、アメリカの映画会社が当時セルジオ・レオーネ監督に求めたのは、あくまで興行的な成功を収めた西部劇であったことから、ヘンリー・フォンダを主演とする西部劇が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に先んじて創られることになりました。

本作では、『続・夕陽のガンマン/地獄の決闘』(1966)の冒頭やクライマックスに観られた長尺無言映像が、本作の冒頭でも観ることが出来ると共に、表情のクローズアップと遠景の対比やフラッシュ・バックと言った、緩急を織り交ぜたセルジオ・レオーネ監督によるテンションを感じる映像表現に魅了されます。 

この作品を観ていると、ジョン・フォード監督の西部劇に影響を受けた黒澤明監督が時代劇に齎(もたら)したドラマチックなリアリズム演出をこの西部劇に感じますが、『大砂塵』(監督:ニコラス・レイ  1954)に観られる様な傾(かぶ)いた様式美にも惹き込まれます。

それは、ヒロインの意志堅固さ、謎のガンマンであるチャールズ・ブロンソン登場時のハーモニカのフレーズや、舞台伴奏や歌舞伎の黒御簾音楽の様に絡むエンニオ・モリコーネの音楽等が醸し出す異質な気配です。 

悪役の様なシチュエーションと風体で登場するチャールズ・ブロンソンとジェイソン・ロバーズが、クラウディア・カルディナーレを助ける善玉 (ベイビー・フェイス)であるのに対し、それまで悪役イメージの無かったヘンリー・フォンダが非道な悪玉 (ヒール)であるというキャスティングの意外性も、ある意味アルフレッド・ヒッチコック監督の 『サイコ』(1960) 同様、白紙でこの作品を観た観客へのサプライズではなかったかと想像します。

科白の寡黙さに対して映像の情報量に饒舌さを感じる、セルジオ・レオーネ監督がハリウッド資本で撮った西部劇映画としてこれからも観続けて行きたい映像芸術作品です。

 

§『ウエスタン (Once Upon a Time in the West)』

チャールズ・ブロンソン(右)を待ち受ける3人↑

チャールズ・ブロンソン↑

クラウディア・カルディナーレ↑

クラウディア・カルディナーレ↑

ガブリエル・フェルゼッティ、ヘンリー・フォンダ↑

ジェイソン・ロバーズ、チャールズ・ブロンソン↑

クラウディア・カルディナーレ、チャールズ・ブロンソン↑

ヘンリー・フォンダ↑

ジェイソン・ロバーズ、クラウディア・カルディナーレ↑

ヘンリー・フォンダ↑

クラウディア・カルディナーレ↑