ジョージ・スティーヴンス監督が1951年に監督し、アカデミー賞6部門を受賞した『陽のあたる場所 (A Place In The Sun)』は、アメリカ自然主義文学の作家シオドア・ドライサーが、1906年に起こった殺人事件を基に書いたベストセラー小説「アメリカの悲劇 (An American Tragedy)」を再映画化した作品になります(※1)。

 

モンゴメリー・クリフト(役名:ジョージ・イーストマン)は、街頭伝道師の母と2人暮らしでシカゴでホテルのベルボーイとして働いていました。

或る日、裕福な実業家一族を率いる叔父のチャールズ・イーストマンと偶然出会ったことから、彼の経営する水着工場で働くことになったモンゴメリー・クリフトは、叔父の工場を訪れます。

手始めに配属された梱包部門で地道に働いていたモンゴメリー・クリフトでしたが、同じ梱包ラインで働いていた身寄りのないシェリー・ウィンタース(役名:アリス・トリップ)と映画館で隣り合わせになったことから、2人は親密になります。 

会社の規則に反して逢瀬を繰り返していた2人は、或る晩、デートの帰り道で雨に降られてしまったことで、モンゴメリー・クリフトの部屋で一夜を過ごすことになります。

真面目な仕事ぶりを認められたモンゴメリークリフトは、叔父のチャールズ・イーストマンの声が掛かっていることにより昇進していきます。 

そんな或る日、招待された叔父の邸宅パーティで所作無く独りビリヤードに興じていたモンゴメリー・クリフトを、社交界を賑わすエリザベス・テイラー(役名:アンジェラ・ヴィッカース)が見初めます。

エリザベス・テイラーに惹かれたモンゴメリー・クリフトは、自分の誕生日を祝う為に家で待つシェリー・ウィンタースの先約があるにも拘わらず、4時間遅れで彼女の前に現れます。

モンゴメリークリフトは、彼との結婚を望み始めたエリザベス・テイラーの誘いに応じ続け、上流階級の若者達との遊興にも欣びを感じ始めます。 

なかなかモンゴメリー・クリフトに逢えなくなったシェリー・ウィンタースは、彼に妊娠したことを告げますが、会社の規則に反する行為であることから、堕胎の為に医者を訪れます。 

しかし、医師に出産を勧められたことから、シェリー・ウィンタースは結婚して彼女の故郷で新しい生活を始めることを促しますが、モンゴメリー・クリフトは招待されていたエリザベス・テイラーの家族の別荘に行ってしまいます。 

モンゴメリー・クリフトがエリザベス・テイラーと一緒に居る写真が載った新聞を見たシェリー・ウィンタースは、別荘に電話して晩餐中のモンゴメリー・クリフトを呼び出します。

シェリー・ウィンタースは、結婚をしないのであれば、これまでの全てを公にするとモンゴメリー・クリフトを脅します。 

翌日2人は結婚手続きをする為に市庁舎を訪れますが、その日は労働者の休日で結婚手続きが叶いません。 

モンゴメリー・クリフトは、天気が良いことから湖にピクニックに行くことをシェリー・ウィンタースに提案し、久々に彼の優しさに触れたシェリー・ウィンタースは心から欣びます。

 

この映画では、シェリー・ウィンタースの溺死事故が故意か偶然かが議論される法廷劇が終盤に描かれます。 

法廷劇中、チャールズ・イーストマンがエリザベス・テイラーと名門一族を守る為に雇った敏腕弁護士と、冷徹にモンゴメリー・クリフトの心理をえぐる様に追い詰めるレイモンド・バー(役名:フランク・マーロウ検事)とのやり取りは見応えがります。 

個人的には、転覆事故に関する故意の有無は別にしても、泳げないと知っていた彼女をボートに乗せるまでのモンゴメリー・クリフトの動機や、湖から泳ぎ出た彼が直ぐに事故を通報しなかったことが問われるのは止むを得ないものと考えます(※2)。

映画史にその名を刻む 『狩人の夜』(監督:チャールズ・ロートン  1955)で、ロバート・ミッチャムによって川底に沈められる寡婦を演じたシェリー・ウィンタースは、本作では湖に沈む役を演じますが、この映画のシェリー・ウィンタースが演じるアリス・トリップには、途中から観るのが辛くなる程の同情の念が生じます。 

この作品は、人気演技派俳優だったモンゴメリー・クリフトに、俳優としての飛躍が期待されていたエリザベス・テイラーをキャスティングした作品ではないかと想像しますが(※3)、観客の多くがシェリー・ウィンタースに感情移入するであろうと思われる状況の中で、モンゴメリー・クリフトへの純愛を貫くエリザベス・テイラーが、共感を得る演技をすることは難しかったのではないかと考えます。

3人の男女には、夫々短い倖せの直後に悲劇が襲い掛かりますが、それはあたかも、モンゴメリー・クリフトが求めたアメリカン・ドリームに表裏一体の翳が頭をもたげて来たかの様な感じがします。

その意味で、この映画は物質的成功というアメリカン・ドリームと、成功による環境下で人間が欲望(本能)に振り回されて破綻に至る過程が描かれた作品と言えるのかも知れません。

『有頂天時代』(1936)、『踊る騎士』(1937)、『シェーン』(1953)、『ジャイアンツ』(1956)、『アンネの日記』(1959) を撮ったジョージ・スティーヴンス監督による、アメリカ自然主義文学をアレンジした映像化作品として好きな映画 です(※4)。

 

(※1)初映画化作品は『アメリカの悲劇』 (監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ  1931)。

『陽のあたる場所』はアカデミー賞の監督賞、撮影賞、脚色賞、 作曲賞、 衣装デザイン賞、 編集賞を受賞。

 

(※2)この映画の結論に繋がる判決に関しては、当時のアメリカの司法制度や陪審員の見解が反映しているものと考えます。

 

(※3)人気絶頂期のマリリン・モンローの映像作品に観られる様な、紗の掛かったエリザベス・テイラーの顔面アップ映像やドレス・水着姿をカメラは高頻度で捉えております。

 

(※4)フランス自然主義文学の映像化作品として個人的に思い浮かぶのは、エミール・ゾラ文学の映像化作品 『居酒屋』 (監督ルネ・クレマン  1956)です。

 

PS :粗筋部分には、映像化されていない情報が一部記載されております。

 

§『陽のあたる場所 (A Place in the Sun)』

着慣れていない背広姿のモンゴメリークリフト(右から2人目)↑

シェリー・ウィンタース、モンゴメリークリフト↑

シェリー・ウィンタース、モンゴメリークリフト↑

シェリー・ウィンタース、モンゴメリークリフト↑

エリザベス・テイラー、モンゴメリークリフト↑

エリザベス・テイラー↑

レイモンド・バー↑

モンゴメリークリフト、エリザベス・テイラー↑