キネマ旬報ベストテン第7位に選出された『トキワ荘の青春』(監督:市川準 1996)の2021年リマスター版を観ました。
東京における執筆拠点として、「漫画少年」の出版元である学童社の紹介により北村想(役名:手塚治虫)が椎名町トキワ荘の2階に住んだことを契機に、少年野球漫画を得意とする本木雅弘(役名:寺田ヒロオ)も学童社の斡旋で向かいの部屋に住むようになります。
或る日、北村想演じる手塚治虫を慕う鈴木卓爾(役名:安孫子素雄<藤子 不二雄Ⓐ>)と阿部サダヲ(役名:藤本弘<藤子・F・不二雄>)が富山からトキワ荘を訪れますが(※1)、生憎不在だったことから、本木雅弘の4畳半に3人が枕を並べる中、本木雅弘が彼等に東京での漫画家生活についてアドバイスします。
やがて北村想が居なくなった本木雅弘の向い部屋に、鈴木卓爾と阿部サダヲの漫画コンビ藤子不二雄が両国の2畳1間のアパートから引っ越してき来た頃から、「漫画少年」の読者投稿仲間だったさとうこうじ(役名:石森章太郎)、大森嘉之(役名:赤塚不二夫)、松梨智子(役名:水野英子)、古田新太(役名:森安直哉)、生瀬勝久(役名:鈴木伸一)がトキワ荘の2階に次々と住むようになります。
彼等はやがて、実家の理容院からスクーターでトキワ荘に通い詰める翁華栄(役名:つのだじろう)を加えて、本木雅弘発起人とする新漫画党を結成し、本木雅弘の部屋で焼酎のサイダー割(チューダー)を飲みながら映画や音楽などの四方山話を語り合うようになります。
原稿料の現金書留が送られてくる迄、本木雅弘に借金をしながらも助け合いながら漫画を描き続けてきたトキワ荘の住人達でしたが、少年漫画の大きな転機の訪れを象徴するかの様に、本木雅弘が主たる活動の場としてきた学童社が倒産します。
さとうこうじ演じる石森章太郎と、鈴木卓爾と阿部サダヲ演じる藤子不二雄が売れっ子になる一方で、古田新太と生瀬勝久は漫画一本で生活することが難しくなります。
本木雅弘は、さとうこうじのアシスタントで糊口をしのいでいる大森嘉之演じる赤塚不二夫の面倒を見ますが、自身が理想とする少年漫画の世界に変化が生じていることを察知し始めます。
そんな或る時、本木雅弘とさとうこうじのアドバイスが功を奏してギャグ漫画の才能が開花した大森嘉之は、時代の寵児への道を歩み始めます。
文筆家の川本三郎は著書(※2)の中で、1992年に世を去った寺田ヒロオについて茅ヶ崎に住む彼の妻(※3)の訪問記を交えた追悼文を書いております。
映画では、本木雅弘が独りトキワ荘を去るシーンと時代の変化をオーバーラップさせて描いておりましたが、1957年にトキワ荘を出た後、寺田ヒロオは1960年に講談社児童漫画賞を受賞した「スポーツマン金太郎」や「背番号0」のヒットで得た資金を元手に、茅ケ崎でアパート経営をしていたとのことです。
しかしながら、5年間連載していた「スポーツマン金太郎」を時流に合わせる様に編集者から言われることに嫌気がさして漫画界から身を引いていたことが、彼の才能を惜しむ新漫画党の仲間達の声と共に記述されております。
先般この映画を観て思ったことは、小津安二郎作品を連想させるかの様に廊下の端からローアングルで撮られたトキワ荘の2階で繰り広げられる人生模様です。
そのことにより、長兄の様な存在として慕われていた本木雅弘が、廊下を行き交う人や時の移ろいの中で、自身の信じるまんが道をストイックに歩もうとしていた姿が浮かび上がる様な気がします。
私見ですが、気が付けば好きな作品の多くにジェームズ・スチュアートが出演していることと、芯を感じさせる寡黙な本木雅弘のキャラクターが他の愛好作品同様この映画でも奥深さを醸し出していることとの共通項を感じます。
少年週刊誌に連載されていた安孫子素雄の「まんが道」で「新宝島」で漫画に革命を起こした手塚治虫の偉大さを知り、石森章太郎の「龍神沼」で「新宝島」の流れを感じさせる、クロスカッティングやカットバックをイメージさせる秒単位の絵コンテの様な映像表現効果の凄さを知った自分には、トキワ荘という存在にある種特別な想いを感じずにはおれません(先日、念願叶って「トキワ荘マンガミュージアム」を訪問することが出来ました。跡地近くの中華店でトキワ荘の住人に愛されたラーメンも食しました。)。
漫画と映像の接点を定点で捉えた戦後漫画史を描いた作品として、これからも観続けて行きたい映画です。
(※1)実際は安孫子素雄が単独で訪問。
(※2)「時には漫画の話を」(小学館クリエイティブ、2012、pp62~pp74)
(※3)ピアニスト・作曲家の中村八大の妹。
PS:1981年に放映されたTVドキュメンタリー「わが青春のトキワ荘~現代マンガ家立志伝」では、解体直前のトキワ荘の映像と共に、手塚治虫、安孫子素雄、藤本弘、石ノ森章太郎、水野英子、赤塚不二夫、森安直哉がトキワ荘に集まって当時の思い出を語る模様が映されておりました。
寺田ヒロオがトキワ荘に集まらずにインタビューに応じる姿と、森安直哉が出版社に原稿を持参するシーンが印象に残るドキュメンタリーでした。
☆4月7日に逝去された安孫子素雄(藤子 不二雄Ⓐ‐トキワ荘居住期間:1954~1961)と4月8日に逝去されたよこたとくお(トキワ荘居住期間:1958~1961)が安らかな眠りにつかれますことをお祈り申し上げます。
§『トキワ荘の青春』
本木雅弘↑
阿部サダヲ、鈴木卓爾、本木雅弘↑
古田新太、本木雅弘、大森嘉之↑
トキワ荘2階廊下↑
松梨智子↑
さとうこうじ、大森嘉之↑
さとうこうじ、翁華栄、本木雅弘、生瀬勝久、鈴木卓爾↑
本木雅弘↑
§「漫画関連書籍」
右上の「海街diary」は台湾で購入したもの。
左下の「マンガ家入門」に「龍神沼」収録↑
§「トキワ荘マンガミュージアム」
「トキワ荘マンガミュージアム」外観↑
共同炊事場↑
水野英子の部屋↑
トキワ荘跡地近くの中華料理店↑
トキワ荘の住人達が愛したラーメン↑














