女性バックシンガーに焦点を当てた、モーガン・ネヴィル監督の音楽ドキュメンタリー作品『バックコーラスの歌姫たち(20 Feet From Stardom)』(2013)をネット配信で観ました。

後期エルヴィス・プレスリーをバック・コーラスで彩ったスイート・インスピレーションズ(※1)や、ピンク・フロイドの「Great Gig in the Sky 」で名唱を残したクレア・トーリー(※2)の歌声を愛聴してきたことから、たとえメイン・ボーカリストではなくとも音楽芸術に不滅のパフォーマンスを残したシンガー達の存在に焦点を当てたこの映画に関心がありました。

 

この映画でスポットライトが当たるディ―ヴァ(歌姫)で心に残ったのは以下の6人です;

 

◆ダーレン・ラヴ

【クリスタルズの全米No.1ヒット「ヒーズ・ア・レベル」でメイン・ボーカルを吹替レコーディング。エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラ、ビーチ・ボーイズ等の録音に参加し、2011年にロックの殿堂入】

 

◆リサ・フィッシャー

【ローリング・ストーンズ・ツアーのデュエット・パートナー。1992年の「ハウ・キャン・アイ・イーズ・ザ・ペイン」でグラミー賞受賞】

 

メリー・クレイトン

【レイ・チャールズのバック・コーラス「レイレッツ」メンバー。1969年にローリング・ストーンズの「ギミー・シェルター」に参加】

 

◆タタ・ヴェガ

【スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、マドンナ、チャカ・カーン、パティ・ラベル、レイ・チャールズのバック・コーラス。『カラー・パープル』(監督:S・スピルバーグ 1985)でマーガレット・エイヴリーの吹替担当】

 

◆クラウディア・リニア

アイク&ティナ・ターナーのバック・コーラス「ジ・アイケッツ」のメンバー。デラニー&ボニー、レオン・ラッセル、ジョー・コッカーのセッションやライブに参加。ジョージ・ハリスンの『バングラデシュ・コンサート』(監督:ソール・スイマー 1972)に参加】

 

◆ジュディス・ヒル

【マイケル・ジャクソン、プリンスのツアーに参加。『ジス・イズ・イット』(監督:ケニー・オルテガ 2009)にマイケル・ジャクソンのデュエット・パートナーとして出演】

 

不勉強故にこの映画を観る迄、彼女達の名前を知りませんでしたが、これまで聴いてきた音楽や映像で観ていたコーラスやダンスが彼女達のパフォーマンスであったことに強い感銘を覚えました。

コール・アンド・レスポンスで知られる米国プロテスタント教会のゴスペル・フィーリングを加えることにより、それまで譜面に忠実に歌われることが主流だったバック・コーラスの表現世界を拡げたアフリカ系アメリカ人歌姫達の功績が紹介されると共に、センターマイクで歌いそして歌い続けることが叶わなかったアーチスト達の生の姿が描かれております。

彼女達の幾人かは、その実力によりソロ・デビューの機会が与えられますが、運やプロデュ―サーの意向に翻弄されたことで、バック・コーラスに戻ったり歌の世界から離れたりする彼女等の人生模様も描かれます。

しかしながら、敢えてソロの道を選ばずにバック・シンガーに専念する歌手のコメントも、この映画で紹介されます。

レコーディングやツアー・コンサートのバック・コーラスにより得られる安定収入や、ソロ歌手デビューによるリスクを回避して愛する音楽に長く関わることを選択したシンガー達のコメントである「歌は私達を否定しない」には、この映画のテーマとして彼女達の声が反映されている気がします。

この作品では、ソロ歌手として独立することにより課せられるレコード売上達成というビジネスの渦中を、1人で進み続けなければならなかった辛苦が複数描かれます。

芸術作品の成果とビジネスの成功は、常に実力や個性(オリジナリティ)に比例して同時代的に達成されるものではないのかも知れませんが、この映画によりバック・シンガー達の実力と功績を本人登場作品として再認識・評価する機会が与えられたことに感銘を覚えました。

冒頭のブルース・スプリングティーンに始まり、スティーヴィー・ワンダー、スティング、ミック・ジャガーがディ―ヴァ達へ捧げる敬愛の言葉の数々が心に響き渡る、音楽ドキュメンタリーの名品として好きな映画です。

 

(※1)結成時のメンバーとしてディオンヌ・ワーウィックやホイットニー・ヒューストンの母シシー・ヒューストンが在籍し、スイート・インスピレーションズとしてのシングルやアルバムを発表する傍ら、アレサ・フランクリン、ウィルソン・ピケット、ヴァン・モリソン、ジミ・へンドリックスのレコーディングでバック・コーラスを務めております。

 

(※2)クレア・トーリーは本作では触れられません。

 

§『バックコーラスの歌姫たち(20 Feet from Stardom)』

 

右からリサ・フィッシャー、ジュディス・ヒル↑

ダーレン・ラヴ(左)↑

スティング、リサ・フィッシャー↑

メリー・クレイトン

左からタタ・ヴェガ、ジュディス・ヒル、メリー・クレイトン↑