アンドレイ・タルコフスキー監督が撮った『アンドレイ・ルブリョフ』は、ロシアのイコン・フレスコ画家であるアンドレイ・ルブリョフ(1360~ca.1430) の創造の姿を描いた作品になります。 

1966年製作の映画でありながら、ソ連による検閲を経て1971年に一般公開されましたが、国家検閲通過前に出品した1969年のカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞しております。 

自分は原版とされる186分からなる2部構成のバージョンを鑑賞しておりますが、205分の完全版も存在するとのことです。 

 

プロローグ:ニコライ・グラズコフ(役名:イエフィム)が教会の屋上から乗りこんだ気球が舞い上がリ、沼の辺(ほと)りに墜落します。

アナトリー・ソロニーツィン演じるアンドレイ・ルブリョフは、 イワン・ラピコ (役名:キリール)を含む2人の修道僧と共に、新天地モスクワのアンドロニコフ修道院を目指して旅を続けます。 

イワン・ラピコは訪問した著名なイコン画家ニコライ・セルゲーエ (役名:フェオファン・グレク)の工房で弟子としての誘いを受けますが、後日修道院に来たニコライ・セルゲーエの使いは、彼ではなくアナトリー ・ソロニーツィンを弟子に雇用したいとの申し出を伝えます。 

アナトリー・ソロニーツィンが快諾する様子に激しい嫉妬を覚えたイワン・ラピコは、修道士の衣を棄てて出て行ってしまいます。

ロシアの民が神への畏怖無き事を嘆く師のニコライ・セルゲーエとの会話の中で、アナトリー・ソロニーツィンはイコンを描くことが希望を覚醒させることに繋がるとの自説を述べたますが、その時、雪積もる遠くの丘で行われているキリストの磔刑が映し出されます。 

船で移動中のアナトリー・ソロニーツィン達は異教徒達の儀式に遭遇し、彼等に捕まったアナトリー・ソロニーツィンは磔台に縛られます。

何とか船で脱出することに成功した翌朝、後方に目を向けると異教徒達がロシア兵達の襲撃に遭っている姿が目に入ります。 

大公の命によりアナトリー・ソロニーツィンは聖堂の壁画制作に取り掛かりますが、筆が思う様に走りません。 

彫刻を請け負っていた職人達は、 待遇の不満から大公に反目する弟の許で働くことを決意しますが、 移動中に追いかけて来た大公の騎馬隊に襲われて失明させられてしまいます。 

その時、工事中の聖堂にふらりと入ってきた女性イルマ・ラウシュが純朴な心で彷徨する姿に、アナトリー・ソロニーツィンは閃きを感じます。

大公の留守を狙ってタタール軍と共謀した大公の弟がアナトリー ソロニーツィンが住む都市を襲撃し、教会に逃げ込んだ多くの市民の命が奪われます。 

その際、イルマ・ラウシュを襲おうとしたロシア兵を殺害したアナトリー・ソロニーツィンは、贖罪の為に無言の行を誓います。

アナトリー ソロニーツィンが沈黙の行を続けていた或る日、修道院に戻っていたイワン ・ラピコは、彼にイコン絵画の天分を埋もらせずに民衆の為に再起することを促します。

一方、大公の命を受け教会の鐘の製作を依頼された鋳物師の息子ニコライ・ブルリャーエフ (役名:ボリースカ)は、父の仕事を傍らで見て覚えた勘と情熱を注ぎ込み、巨大な鐘の鋳造を成し遂げます。

大公臨席のもと、大観衆の見守る中行われた鐘の初打ちが成功裏に終わったと同時に倒れ込んだニコライ・ブルリャーエフを抱いたアナトリー・ソロ ニーツィンは無言の戒を破り、「君は鐘を創り給え、私はイコンを描こう」と語りかけます。

 

この作品を観て個人的に思うことは、 多くの場面で感じる現代美術館あるいは写真美術館の展示作品とまごうほどの映像の美しさです。

異教徒とタタール軍が跋扈する14世紀のロシアを描いたこの映画では、時代に翻弄されるアナトリー・ソロニーツィンとニコライ・ブルリャーエフの信仰と創造の姿が描かれます。 

あたかもそれは、権力闘争や異教徒の侵略等による世の中の移ろいに流されること無く、信仰としての創作活動を拠り所とする芸術家達の姿を描いた作品の様に感じました。 

本作が2013年にイギリス映画協会が実施した世界の映像作家によるオールタイム・ベストで13位にランキングされたことも首肯ける様な、アンドレイ・タルコフスキー監督による映像芸術としてこれからも観続けて行きたい映画です。

 

§『アンドレイ・ルブリョフ』

気球に乗るニコライ・グラズコフ(役名:イエフィム)↑

 モスクワヘ向かう3人↑

アナトリー ソロニーツィン(左)↑

 十字架のキリストにすがる女性↑

遠景で描かれる磔刑↑

イルマ・ラウシュ↑

イルマ・ラウシュ(後方は聖堂の彫刻家達)↑

 タタール兵による教会の襲撃↑

 タタール兵襲撃の俯瞰映像↑

アナトリー ソロニーツィン↑

ニコライ・ブルリャーエフ

 鐘に集う人々↑

ニコライ・ブルリャーエフとアナトリー ソロニーツィン↑