多くのミュージカル映画を世に送り出したジョージ・シドニー監督(※)がビヴァリー・クロスのロンドン・ミュージカルを映画化した『心を繋ぐ6ペンス (Half A Sixpence)』 (1967)は、MGM社を中心とした往年のハリウッド・ミュージカル映画を愛する映画ファンには嬉しい作品ではないかと思います。 

本作はH・G・ウェルズの自伝的小説 「キップス」を下地にした舞台ミュージカルの映像化作品とのことですが、ビヴァリー・クロスが脚本を担当していることから、自分の様なオリジナル舞台を知らない観客は、この映画を観ることで当時のロンドン・ミュージカルの一端を垣間見ることが出来るのかも知れません。

 

20世紀前半、孤児として育ったイギリスの仕立職人トミー・スティール (役名:アーサー・キップス)は、子供の頃に幼馴染のジュリア・フォスター (役名:アン)と一緒に拾った6ペンス硬貨を半分に割って持ち続けることで、生涯の伴侶になることを約束します。

或る時、莫大な財産の相続人になったことから仕立て屋を辞めたトミー・スティールは上流階級との交際を始め、メイドとして働くジュリア・フォスターとの仲が疎遠になってしまいます。 

トミー・スティールは彼の財産目当てに近づいてきた名家のペネロープ・ホーナー (役名: ヘレン・ウォルシンガム)に夢中になり、熱に浮かされたまま結婚することになったトミー・スティールは婚約披露パーティを執り行いますが、パーティー会場で働いていたジュリア・フォスターは、主賓であるトミー・スティールの信じられない姿に動転して持っていたトレーを落としてしまいます。

ジュリア・フォスターの失態を罵倒する上流階級の人々の姿に我に返ったトミー・スティールは、即座にペネロープ・ホーナーとの婚約を解消し、ジュリア・フォスターの許へ走り出します。

やがて二人は結ばれ、使用人が居る屋敷での新婚生活を始めますが、家事を使用人に任せ切ることを良しとしないジュリア・フォスターとトミー・スティールの異なる家庭感による諍いが生じつつも、友人達の祝福に見守られた倖せな日々を過ごします。 

すると、トミー・スティールの許に、元許嫁のペネローブ・ホーナーの兄に運用委託していた財産が、事業の失敗により全て失なわれたとの連絡が入ります。

二人の豪奢な生活に終わりの時が訪れたことに呆然とするトミー・スティールに対し、これで愛に溢れた質素な生活が送れることを欣ぶジュリア・フォスターでしたが、そんな二人にトミー・スティールが援助していた劇団の成功により小さな家が買える程度の配当が生じているとの知らせが届きます。

 

イギリスを舞台にしたミュージカル映画であることから、 自分はこの作品の翌年に製作された『オリバー!』( 監督:キャロル・リード 1968)との共通点を感じると共に、 『マイ・フェア・レディ』( 監督:ジョージ・キューカー  1964)で描かれていたイギリスの階級社会と人間模様が、歌と踊りに彩られた映像として綴られている様に思います。

大いなる遺産に翻弄されるトミー・スティールに対し、生活信条や彼に対する愛が動じることのないジュリア・フォスターの姿に、自分は『マイ・フェア・レディ』でスタンリー・ホロウェイが演じたアルフレッド・ドゥー リトルが裕福になったことを嘆く姿が重なります。 

情報によると、6ペンス硬貨には結婚式で花嫁が靴に入れておくと倖せになれるという彼の地の言い伝えがあるとのことですが、互いに半欠けの硬貨を持ち続けることで繋がり続ける二人の心により、真の倖せの収束となる好きなミュージカル映画です。

 

(※)「世紀の女王」(1944)、『錨を上げて』(1945)、『アニーよ銃をとれ』 (1950)、『ショウ・ボート』(1951)、『キス・ミー・ケイト』(1953)、『ラスベガス万歳』(1964)等。

 

§『心を繋ぐ6ペンス』

6ペンスを見つけた2人↑

トミー・スティール(中央)↑

ジュリア・フォスターとトミー・スティール↑

ジュリア・フォスターと2つに割った6ペンス↑

トミー・スティール(中央)↑

ペネロープ・ホーナーとトミー・スティール↑

トミー・スティール(中央)↑

トミー・スティール(中央)↑

驚いてトレイを落とすジュリア・フォスター↑

ペネロープ・ホーナー(左)とトミー・スティール(中央)↑

トミー・スティールとジュリア・フォスター↑

結婚式のトミー・スティール(中央)とジュリア・フォスター(中央左)のダンス↑