レオ・マッケリー監督が1939年に撮った『邂逅 ーめぐりあいー (Love Affair) 』 は、 同監督による1957年のセルフ・リメイク『めぐり逢い (An Affair To Remember)』 と共に、後にトリビュート作品である『めぐり逢えたら (Sleepless In Seattle)』 (監督:ノーラ・エフロン  1993) や、 1994年に再々映画化された『めぐり逢い (Love Affair)』 (監督: ・グレン・ゴードン・キャロン)へと続く作品系列の端緒となる恋愛映画の名作ではないかと考えます。

 

稀代のプレイボーイとして世界中に名を馳せるフランス人画家シャルル・ボワイエ (役名: ミシェル・マルネー)は、 アメリカの令嬢との婚約が決まり、9日間のニューヨークへと向かう大西洋航路の船客になります。 

ふとしたことからアメリカで婚約者の待つニューヨークの歌手アイリーン・ダン (役名:テリー・マッケイ)と知り合ったシャルル・ボワイエと彼女は、 一人旅の無聊を慰めるために食事を共にする様になりますが、 シャルル・ボワイエの船上のアバンチュールとして衆目を集めることになってしまいます。

ピアニストだったシャルル・ボワイエの祖母マリア・オースペンスカヤ (役名: ジャノウ)が余生を過ごすマディラ島に停泊することになった時、 シャルル・ボワイエはアイリーン・ダンを誘ってマリア・オースペンスカヤの終の棲家を訪ねます。 

マリア・オースペンスカヤとアイリーン・ダンは初対面ながら魅かれ合うものを感じ、これまで浮名を流していたシャルル・ボワイエがアイリーン・ダンの出現により身を固めるであろうことを仄めかし、 アイリーン・ダンとシャルル・ボワイエが礼拝堂で祈りを捧げた後、マリア・オースペンスカヤのピアノ伴奏でアイリーン・ダンが 「愛の喜び」を歌います。 

運命的な祖母との抱擁の別れを終えたアイリーン・ダンは、船上でシャルル・ボワイエと互いの気持ちを確認し合い、 二人の航路に待ち受ける荒波を乗り越える決意と共にキスを交わします。

二人は、夫々の婚約解消や生活の基盤を安定させることを前提に、半年後の7月1日にエンパイア・ステート・ビルの展望室で再会することを約束して別れます。 

看板描きをしながらも油絵が売れ始めたシャルル・ボワイエとフィラデルフィアのホテルで専属歌手となったアイリーン ・ダンが待ち焦がれた約束の7月1日、 タクシーでエンパイア・ステート・ビルに駆け付けた彼女はシャルル・ボワイエの待つ展望台を見上げます。 

再会を約した日から月日が流れたクリスマス・イヴのコンサートホール。

演奏が終わり婚約者だったパートナーとホールを出ようとしたシャルル・ボワイエは、アイリーン・ダンが男性と並んで座っている姿を見つけ、複雑な想いが交錯しながらも再会の挨拶を交わします。

失意の中アメリカを離れる決意をしたシャルル・ボワイエは、出航の日にアイリーン・ダンにあの日の船上の約束が実現しなかった成り行きを確認すべく、祖母から彼女に手渡すことを言付かっていた遺品のレースの肩掛けを携えて、探し当てたアイリーン・ダンの暮らす部屋に向かいます。

 

この作品でテリーを演じるアイリーン・ダンは、同役を『めぐり逢い』で演じたデボラ・カーに比べると、冒頭の彼女の描かれ方が豪奢な衣装を身に着けていることもあり、伊達男シャルル・ボワイエを柳に風と受け流す鯔背 (いなせ)さを感じます。 

その意味で、 シャルル・ボアイエの祖母に出逢ってから彼に対する気持ちと共に変化するアイリーン ・ダンは、振れ幅という意味でデボラ・カー自身のイメージに寄せていると思われる『めぐり逢い』との違いを自分は感じます。

あと、個人的な印象になりますがシャルル・ボワイエの祖母マリア・オースペンスカヤの方が、『めぐり逢い』で祖母を演じたキャスリーン・ネスビットよりも、愛する孫のシャルル・ボアイエの倖せの為にアイリーン・ダンの背中を哀願と共に押す感じを受けます。 

キャスリーン・ネスビットが演じた『めぐり逢い』では、ケイリー グラントに心が傾き始めたデボラ・カーに対し、自立した魂を持った彼女こそケイリー・グラントが探し求めていた女性であるとし、船上の出逢いと自分への来訪が運命であることを告げます。

ラストのクリスマス・イブの再会では、『邂逅』のアイリーン・ダンとの比較という意味では、デボラ・カーの表情と科白がより細かく演出されている印象を受けます。

本作のアイリーン・ダンによる情報量の多い瞳による刮目すべき演技は、終始ソファー上で繰り広げられるシーンにおいて揺れ動く二人の心が彼女の目に映し出されている様に感じます。

アイリーン・ダンとシャルル・ボワイエの演技に惹き込まれる、後の作品に影響を与えた恋愛映画の金字塔としてこれからも観続けたい映画です。

 

PS :この作品は淀川長治が愛する恋愛映画として『街の灯』(監督:チャールズ・チャップリン 1931) や『散りゆく花』 (監督:D・W・グリフィス  1919)と共に氏の著書「淀川長治 究極の映画ベスト100」 (河出文庫、 2003年 p48~P49) の中で紹介されております。 

「ここは想い出を愉しむ処、貴女はまだこれから想い出を創る人」、 

「私達の航路は荒波に向かって舵を切り始めた」、 

「天国に一番近い場所に居た貴方を見上げていた」

等の印象に残るこの映画の科白は、『めぐり逢い』と共に映画ファンの心に刻まれ続けるのではないかと思います。

 

§『邂逅』

アイリーン・ダン↑

アイリーン・ダンとシャルル・ボワイエ↑

祖母の家のチャペルで祈りを捧げるアイリーン・ダンとシャルル・ボワイエ↑

アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ、マリア・オースペンスカヤ↑

アイリーン・ダンとマリア・オースペンスカヤの別れの抱擁↑

アイリーン・ダンとシャルル・ボワイエ(後方にエンパイア・ステート・ビル)↑

アイリーン・ダンと子供達↑

アイリーン・ダン↑

アイリーン・ダン↑

シャルル・ボワイエとアイリーン・ダン↑

アイリーン・ダンとシャルル・ボワイエ(中央に暖炉の炎)↑