西部劇の傑作『真昼の決闘』(1952)やリチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタイン2世のミュージカル『オクラホマ』 (1955)を撮った、フレッド・ジンネマン監督によるジェームズ・ジョーンズのベストセラー小説の映像化作品『地上より永遠に(From Here To Eternity)』(1953)は、アカデミー 賞8部門に輝く 1941年12月8日(ハワイ時間12月7日)前後のハワイ真珠湾を舞台にした作品になります(※1)。

 

1941年、オアフ島の米軍基地に転属して来た元ボクサーのモンゴメリー・クリフト(役名:ロバート・E・リー・ブルーイット)は、中隊長のフィリップ・オーバー(投名:ダナ・ホルムズ大尉)から所属部隊のボクシング·チーム強化を目的とする勧誘を受けます。

しかし、試合相手を失明させた過去を持つモンゴメリー・クリフトは、人格優れたバート·ランカスター(役名:ミルトン・ウォーデン曹長)が間を取り持っても 耳を貸さなかったことから、中隊長の声の掛かった上官達から執拗な圧力をシゴキとして受け続けることになります。 

その様な中、中隊長のフィリップ・オーバーと長く疎遠な関係が続いている妻のデボラ・カー(役名:カレン・ホルムズ)は、夫の右腕である曹長バート・ランカスターと道ならぬ逢瀬を続け、モンゴメリー・クリフトは、心通じ合うイタリア系のフランク・シナトラ(役名:アンジェロ・マッジオ)と行った店で働いていたドナ・リード(役名:アルマ)と恋に落ちます。

フランク・シナトラは、外出許可を反故にされたことに反撥したことで軍事裁判にかけられてしまいますが、入所した刑務所で彼の担当になった軍曹が運悪く酒場で幾度も衝突したアーネスト・ボーグナインであることから、激しい虐待に晒されてしまいます。 

やがて、辛くも脱走することに成功したフランク・シナトラですが、虚待され続けた彼の軀は逃げる途中にトラックから落ちた衝撃に耐え切れずに命を落としてしまいます。

 バート・ランカスターと新しい人生を歩もうとするデボラ・カーは、 将校になれば本土の転属が可能となることを提案しバート·ランカスターと新生活を始めることを持ち掛けますが、彼が出世を望まないことから二人の恋は暗礁に乗り上げ、フランク・シナトラの仇計ちでアーネスト・ボーグナインを殺したモンゴメリー・クリフトがドナ・リードの許に身を隠している時に、ハワイ時間1941年12月7日(日本時間12月8日)の朝を迎えます。

 

この映画では、『愛と青春の旅立ち』(監督:テイラー・ハックフォード  1982)や『ブルースが聞こえる』(監督:マイク・ニコルズ  1988)で描かれた過酷な軍事訓練とは一線を画す、軍規上明らかに違法な中隊長のパワー・ハラスメントや曹長による虐待が描かれております。

そして、中隊長の妻デボラ・カーと夫の部下であるバート・ランカスターの逢瀬と、友人の意趣返しに殺人を犯したモンゴメリー・クリフトを匿うドナ·リード の2組のカップルの閉塞状態によるストレスが行き場を失った時に訪れる12月7日の大転換に 、堰を切ったようなダイナミックな奔流を感じる作品ではないかと思います。

個人的に印家に残るシーンは、 折に触れて奏でられるブルースとモンゴメリー・クリフトが吹く哀調を帯びたビューグル·ホーン(喇叭)の響きです。

中でも好きなシーンは、厳しい兵隊生活を送る兵隊達がギター伴奏で歌うブルースに、モンゴメリー・クリフトがビューグル・ホーンのマウスピースだけでアドリブで絡む瞬間ですが、彼等の鬱屈したやり場のない感情を映し出した名場面ではないかと思います(※2)。

この映画で描かれる2組のカップルの接点は、敵機襲撃時に臨機応変に指示を出すバート・ランカスターが部下のモンゴメリー·クリフトに同情を示す展開ですが、それはエピローグで初対面のデボラ・カーにドナ・リードがモンゴメリー·クリフトについて語る船上のシーンと共に、記憶の襞に刻まれる美しい接点ではないかと考えます。 

モンゴメリー・クリフトが天に召したフランク・シナトラに捧げたビューグル・ホーンの音色が心に滲み込む、歴史の奔流に巻き込まれることになる 個々の人間模様を揃いた映像作品として好きな映画です。

 

(※1)作品賞、監督賞(フレッド・ジンネマン)、助演男優賞(フランク·シナトラ)、助演女優賞(ドナ・リード)、脚本賞(脚色部門:ダニエル・タラダッシュ)、撮影賞 (バーネット・ガフィ)、録音賞(コロンビア映画サウンド部門)、編集賞(ウィリアム・ライアン)の8部門獲得。

この1953年の主演女優賞は『ローマの休日』 (監督:ウィリアム・ワイラー)のオードリー・ヘプバーン、主演男優賞は『第十七捕康収容所』(監督:ビリー・ワイルダー)のウイリアム・ホールデンが受賞。

 

(※2)マウスピースで演奏される曲は「チャタヌガ・チュー・チュー」、「退役兵のブルース」とのことです。 和田誠 山田宏一「たかが映画じゃないか」文藝春秋社、1978年、p237

 

§『地上より永遠に(From Here to Eternity)』

 モンゴメリー・クリフトとドナ・リード↑

 デボラ・カーとバート・ランカスター↑

 デボラ・カー↑

バート・ランカスターとデボラ・カーによる波打ち際のシーン↑

 デボラ・カーとバート・ランカスター↑

 モンゴメリー・クリフトとフランク・シナトラ↑