ミヒャエル・ハネケ監督が脚本も書いてカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『愛 、アムール』(2012)は、『男と女』(監督:クロード・ルルーシュ 1966)のジャン=ルイ・トランティニャンと『二十四時間の情事』(監督:アラン・レネ  1959)のエマニュエル・リヴァの二人を主演に人生の黄昏時の愛を描いた作品になります。

 

80歳で音楽活動から身を引いたエマニュエル・リヴァ (役名:アンヌ・ローラン)は、弟子のアレクサンドル・タロー(本人)のピアノ演奏会を夫のジャン=ルイ・トランティニャン(役名:ジョルジュ・ローラン)と鑑賞の後アパートに戻りますが、何者かが彼等のアパートに押し入ろうとした跡がドアノブに残されているのを見付けます。

次の日の朝、エマニュエル・リヴァに軽い卒中の症状が出たことから、頸動脈の手術をすることになりますが、不幸にも成功率95%の手術が失敗に終わってしまったことにより彼女の右半身が麻痺してしまいます。 

療養施設に入ることを拒むエマニュエル・リヴァのリハビリをアパートで続ける日々の中、アレクサンドル・タローの訪問と彼のピアノ演奏に元気を取り戻したのも東の間、 二度目の卒中によりエマニュエル・リヴァは重い障碍に苦しむようになります。

粗暴な振舞いをする看護師を首にしたジャン=ルイ・トランティニャンの負担が増える中、 娘のイザベル・ユべール(役名:エヴァ・ローラン)は、母を介護施設に入所させることを父に提案しますが、彼はエマニュエル・リヴァとの約束である在宅介護を続けることを娘に言い渡します。

 

この映画では、プロローグの消防士と警察官がアパートに入る映像とエピローグのイザベル・ユべールが二人の居なくなったアパートに一人来て佇む映像に挟まれた老夫婦の姿が描かれます。

この作品のカメラは冒頭のコンサート映像以外はほぼアパートから外に出ませんが、外界との接点に関わる映像は其々(それぞれ)とても印象に残ります。

それは、二人に襲いかかる病魔が入り込んで来たかのようなドアノブの異変、自死未遂で床に倒れているエマニュエル・リヴァの上で開け放たれている窓の映像、窓から2度入り込んで来た鳩、気配を感じたジャン=ルイ・トランティニャンが部屋の外に出ると何者かに口を塞がれ襲われる悪夢のイメージです。

とりわけ、2度目に入り込んだ鳩を捕まえて窓から逃がしたエピソードは、聖霊の鳩と二人の魂の旅立ちを連想することから、二人が外出の装いをして出かけようとするイメージ映像と繋がる気がします。

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』 (監督:ウォン・カーウァイ 2007)で人生の機微を繊細かつ緻密なカットで撮ったダリウス・コンジが操るレンズを通して、愛の最終章を描いたこれからも観続けて行きたい映画です。

 

PS 本作ではフランツ・シューベルトの「即興曲第1番(Op.90 No.1)」と「即興曲第3番(Op.90 No.3)」、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベンの「6つバガデル(Op.126 No.2)」が演奏されます。

 

§『愛 、アムール』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§『二十四時間の情事』