1983年製作の『日曜日が待ち遠しい』はフランソワ・トリュフォー監督の遺作になりますが、前作『隣の女』(1981)でジェラール・ドパ ルデューの理性を制御不能に至らしめたファニー・アルダン(役名:バルバラ ベッケル)のコメディエンヌとしての魅力が愉しめ、『男と女』(監督:クロード・ルルーシュ 1966)、『愛、アムール』(監督:ミヒャエル・ハネケ 2012)のジャン=ルイ・トランティニャンの存在感ある演技が堪能出来る、粋なコメディ・ミステリー作品ではないかと考えます。 

 

ジャン=ルイ・トランティニャン(役名:ジュリアン・ヴェルセル)の経営する不動産会社の秘書でアマチュア演劇俳優でもあるファニー・アルダンは、ジャン=ルイ・トランティニャンの妻カロリーヌ・シホール(役名:マリー=クリスチーヌ・ヴェルセル)からの電話対応で一悶着起こしたところに、早朝の鴨狩りを終えて出勤して来た ジャン=ルイ·トランティニャンの不興を買ってしまったことにより首を言い渡されます。

そこへ警察官が現れ、その日の朝にジャン=ルイ・トランティニャンが居た狩猟場で起きた殺人事件について、ジャン=ルイ・トランティニャンは疑惑の視線に満ちた聴収を受けることになります。

殺された男は妻のカロリーヌ・シホールと恋愛関係にあった事実により、ジャン=ルイ・トランティニャンが嫉妬心で殺害に及んだとの脅迫電話が掛かって来たことから、嫌疑を晴らしたいジャン=ルイ・トランティニャンは、馘首したはずのファニー・アルダンに身の潔白を証明してくれる様に頼みます。

警察の出頭要請を受けたジャン=ルイ・トランティニャンは、拘留の危機に直面するものの、弁護士のフィリップ・ローデンバック(役名:クレマン)の尽力により帰宅を許されます。

しかし、家に着いた彼は妻のカロリーヌ・シホールが居間に変わり果てた姿で横たわっているのを発見します。

フィリップ・ローデンバックは、カロリーヌ・シホールが結婚前に関わっていた何物かが自分を陥れようとしているに違いないとの確信から、ファニー・アルダンにカロリーヌ・シホールが住んでいたニースに行って貰う様に頼みます。

そしてニースでファニー・アルダンはカロリーヌ・シホールが偽名を名乗っていたことや、脅迫電話の主が狩猟場で殺害された男の経営していた映画館のチケット販売係であることを突き止めます。  

 

この映画はフランソワ・トリュフォーが、 師と仰ぐアルフレッド・ヒッチコックに捧げる作品を白身の白鳥の歌としたのではないかと思える程、アルフレッド・ヒッチコックへのオマージュが至る所に感じられる作品だと考えます。

後半ファニー・アルダンのテンポの良い演技による情報量の多い展開に付いて行けずに観返す場面が自分には幾度かありましたが、それはまさに、 畳み掛けるサスペンスとユーモラスなセリフが凝縮されたこの作品の特色ではないかと思います。  

この映画でファニーアルダンが演じるクールでユーモラスなバルバラ・ベッケルの姿を観ると、自分はリュック·ベンソン監督が2010年に撮った『アデル/ファラオと復活の秘薬』で、妹の為に果敢に秘薬を求めようと奮闘したアデルをコミカルでありながらクールに演じたルイーズ・ブルゴワンを連想してしまいます。

アルフレッド・ヒッチコックが撮ったミステリー作品の旨味成分であるサスペンス、ユーモア、エロティシズムを、フランソワ・トリュフォーの匠の技で堪能出来るフレンチ作品として好きな映画です。

 

§『日曜日が待ち遠しい』