ヴェルナー・ヘルツォーク監督が脚本も書いた『アギーレ/神の怒り(Aguirre, der Zorn Gottes)』(1972)は、2013年にイギリス映画協会が実施した世界の映像作家によるオールタイム・ペストで59位にランキングされている、映画史の中で独自の光彩を放つ西ドイツ映画ではないかと考えます。 

この作品の10年後にヴェルナー ・ヘルツォーク監督か撮った『フィツカラルド』(1982)では、アマゾン川を上りオペラ・ハウスを建設する夢に取り憑かれた人物が描かれておりましたが、この映画では黄金郷エル・ドラドを発見しコンキスタドール(征服者)となることに執念を燃やし激流を下る、スペイン人の口ペデ・アギーレを描いております。

 

16世紀大航海時代ルイ・ゲーハ演じる隊長 (役名:ベドロ・デ・ウルスア〈※1〉) が率い、クラウス・キンスキー演じる副隊長ロペ・デ・アギーレが支えるスペイン探検隊が、エル・ドラドの発見の為にアンデスの奥地に入り込みます。

しかし、筏で川を下ろうとする中、余りの激流に筏が被壊され流されてしまったことから、隊長ルイ・ゲーハは危険な陸路を引き返すことを決意します。

撤退が腑に落ちない野心家のクラウス・キンスキーは、反逆を煽動し貴族のペーター・ベルリング(役名:フェルナンド・デ・グスマン)をエル・ドラド皇帝に仕立てて、宣教師デル・ネグロ(役名:ガスバール·デ・カルバハル)や娘のセシリア・リヴェーラ(役名:フローレス)共々エル・ドラドを目指し川下りを続けます。

途中、現地人に幾度も襲われたり、彼等を神の出現と信じて平和的に近づいて来た現地人を聖書への無理解から殺害したり、集落の略奪を行ったり、我儘な振舞いを続けた傀儡皇帝のペーター・ベルリングが殺害されたりする中、現地人の放った失で壊滅的な人的被害を受けた筏はクラウス・キンスキーと共に、尚も中南米制覇の足掛かりにと目論むエル・ドラドを目指そうとします。

しかし、森から筏に乗り込んで来た大量の栗鼠猿( リスザル)を追い払うことが出来ないまま、クラウス・キンスキーを乗せた筏は川を漂います〈※2〉。 

 

この映画を観ると、自分にはこの映画製作そのものがエル・ドラドを目指す冒険であり、スクリーンに映し出される映像はその過程を記したドキュメンタリー作品なのではないかと思えてしまいます。

ヴェルナー・ヘルツォーク 監督に関しては『フィツカラルド』でも、そのスケールと執念に舌を巻きましたが、この映画で観られる切り立った山を登る大行軍の俯瞰シーンや、激流に翻弄される筏、そしで密林に聳(そび)え立つ木の上にぶらさがった船の映像にも言葉を失ってしまいます。

VFX(視覚効果)を用いないで撮影されていることから、過酷な撮影状況下にカメラが激しく揺れたり焦点が合わなくなるシーンがありますが、却ってそれらによって醸し出されるリアルな質感・臨場感を自分はこの作品の映像に感じます。 

基督教布教の御旗を掲げ黄金郷の金(Gold)の略奪に取り憑かれたコンキスタドールの姿を、天からの視線と現地人を中心とした地上からの双方の視線で描く為に、膨大な労力を投じたドキュメンタリー効果による迫真さを加えたことが奏功したと思われる好きな映画です。

 

〈※1〉ルイ・ゲーハ演じる隊長ベドロ・デ・ウルスアは、フィリップ2世統治時代にバナマで反乱軍を鎮圧した実在したスペイン出身のコンキスタドールの名前に因んでいる模様です(この度観たDVDの翻訳では、女性名であるウルズラと訳されております)。

 

〈※2〉このシーン撮影の為に350匹の栗鼠猿(リスザル)が集められたとのことです。

 

§『アギーレ/神の怒り』

 

 

 

 

激流に翻弄される筏↑