『狩人の夜(The Night Of The Hunter)』(1955)は、ビリー・ワイルダー監督の『情婦』(1958)で正義感に燃える粋な老弁護士を演じたチャールズ・ロートンが監督した唯一の作品です。

本作はスタンリー・コルテスのカメラによる卓越した映像表現により、2013年にイギリス映画協会が実施した世界の映像作家によるオールタイム・ベストで26位、そして2008年実施のカイエ・デュ・シネマの「史上最高の映画100本」で2位にランキングされている、映画史に残ると思われるサスペンス映像芸術作品になります。

 

強盗殺人を犯したピーター・グレイブス(役名:ベン・ハーパー)は、奪った1万ドルを息子のビリー・チャビン(役名:ジョン・ハーパー)と娘のサリー・ジェーン・ブルース(役名:パール・ハーパー)に渡した後、逮捕され刑務所で死刑になります。

刑務所でピーター・グレイブスは、未解決連続殺人犯の本性を持つ偽伝道師である車両泥棒ロバート・ミッチャム(役名:ハリー・パウエル)と同室になりますが、寝言で口走った聖書の一説から彼の子供達が1万ドルの隠し場所を知っているのではないかと渡りを付けます。

寡婦となったシェリー・ウィンタース(役名:ヴィラ・ハーパー)に敬虔な伝道師として近づき、住民の尊敬を得たロバート・ミッチャムは、シェリー・ウィンタースと再婚することに成功しますが、疑念を持った息子のビリー・チャビンは、妹のサリー・ジェーン・ブルースにぬいぐるみの中に隠した大金のことを決して口外しない様に念を押します。

或る日、1万ドルの隠し場所を妹に厳しく問い詰める現場をシェリー・ウィンタースに見られたことから、ロバート・ミッチャムは彼女を殺害して川に沈めます。

厳しいロバート・ミッチャムの虐待に耐えかねた妹は大金の隠し場所を話しますが、自分達への殺意を察知したビリー・チャビンは間一髪で妹と逃げ出し、舟でオハイオ川を下ります。

奪った馬に乗って追って来るロバート・ミッチャムから何日も舟で逃がれようとする二人は疲れ果てて寝入ってしまいますが、流れ着いた川岸で二人は、身寄りの無い子供達を引き取って暮らす信仰心の厚いリリアン・ギッシュ(役名:レイチェル・クーパー)に保護されます。

しかし、街で兄妹が最近リリアン・ギッシュの許で暮らし始めたことを聞きつけたロバート・ミッチャムは、彼等の暮らす家に向かいます。

 

この映画を観て感銘を受けるのは、現代美術作品を感じさせる映像美と素朴でありながらも効果的な音楽ですが、それらが人間の善と悪を宗教(基督教)を絡めて描いたこのサスペンス作戦に深みを加えているのではないかと考えます。

「L-O-V-E 」と「H-A-T-E」の入墨を左右の指に施したロバート・ミッチャムの聖職者の姿と本性である悪の対比、そして悪に毅然と対峙するリリアン・ギッシュの精神が、効果的な光と翳(シルエット)を駆使した映像により浮かび上がるかの様な印象を受けます。

自分はこの映画を観ると、宗教的な部分が光の陰翳を用いて描かれていることから、イングマール・ベルイマン監督の諸作を連想してしまいます(※)。

スティーブン・キングに影響を与えたとされる軀の奥が震えるサスペンスと芸術性が共存した作品として、これからも見続けて行きたい映画です。

 

(※)偽善的な聖職者の義父に虐待を受ける兄妹の姿を描いた『ファニーとアレキサンデル』(1982)等。 

 

§『狩人の夜』

川底のシェリー・ウィンタース↑

ロバート・ミッチャムと炎の中で告解するシェリー・ウィンタース

ロバート・ミッチャム(幾何学的な寝室の映像)↑

納屋から見た馬上のロバート・ミッチャム↑

ビリー・チャビンとぬいぐるみ↑

ビリー・チャビン、シェリー・ウィンタース

ロバート・ミッチャム(右)↑

蜘蛛の巣越しのボート↑

野兎越しのボート↑

リリアン・ギッシュと子供達↑

リリアン・ギッシュと子供達↑