ジョン・フォード監督が1956年に撮った『捜索者(The Searchers)』は、2013年にイギリス映画協会が実施した世界の映像作家によるオールタイム・ベストで48位、そして2008年にカイエ・デュ・シネマが行った「史上最高の映画100本」で9位にランキングされた高評価作品になります(※)。
マーチン・スコセッシやデビッド・リーン、そしてサム・ペキンパーやスティーブン・スピルバーグ等の監督達に影響を与えたとされるジョン・フォードの映像芸術としても知られる西部劇です。
ジョン・ウェインが演じる南北戦争帰りの元南軍兵イーサン・エドワーズは、愛する弟ウォルター・コイ(役名:アーロン・エドワーズ)の家族を久し振りに訪問します。
そこには、以前ジョン・ウェインが助けた先住民族の血を引く青年ジェフリー・ハンター(役名:マーティン・ポーリー)も弟の家族として暮らしていますが、先住民への偏見によりジョン・ウェインは、不快な態度を表してしまいます。
ある時、コマンチ族が近隣の牛を強奪したことから、奪還部隊に加わる様にリーダーの牧師が現れ、ジョン・ウェインとジェフリー・ハンターが追跡に同行します。
しかし、それが民家襲撃の罠であることに気付いて弟家族の許に急遽引き返しますが、さらわれた姉妹のうち幼いラナ・ウッド(役名:デビー・エドワーズ<成長したデビー・エドワーズ役⇒ラナ・ウッドの実姉ナタリー・ウッド>)以外全員コマンチ族に殺害されてしまいます。
ジョン・ウェインとジェフリー・ハンターは、連れ去られたラナ・ウッド(→ナタリー・ウッド)の救出の為に捜索の旅に出ますが、襲撃から6年経った或る日、奪った娘を何人も妻にしているコマンチ族の酋長の装身具の中に、ナタリー・ウッドの所持品があることに気付きます。
二人は酋長のテントでナタリー・ウッドと接触出来たものの、彼女は長く助けに来てくれなかったことでコマンチ族としての生活に染まっている自分をそのままにして欲しいと言ったことから、激昂したジョン・ウェインは銃に手が伸びようとしますが、ジェフリー・ハンターが押し留め帰路に着きます。
久し振りに戻った故郷では、ジェフリー・ハンターの許婚だったヴェラ・マイルズ(役名:ローリー・ジョージェンセン)が音沙汰無きジェフリー・ハンターを諦め別の男と式を挙げようとしていた現場に逆上し、花婿と殴り合ったことで結婚が取り止めになります。
そこへ彼等の許にコマンチ族襲撃の命を受けた騎兵隊の伝令がやって来ますが、ナタリー・ウッドを助け出したいとのジェフリー・ハンターの請願は彼等には聞き入れられません。
自分がこの映画を観て思うことは、孤高とも言える正義感と偏見が入り混じったジョン・ウェイン演じる元南軍兵の姿が、マーチン・スコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』(1976)でロバート・デ・ニーロが演じたベトナム帰還兵トラヴィス・ビックルの姿に重なることです。
ロバート・デ・ニーロの説得に耳を貸さなかったジョディ・フォスターの紅灯街からの救出や大統領候補の狙撃と言った自分目線の正義感と、『捜索者』に描かれる肉親や愛する人を失ったジョン・ウェインとは、それぞれ戦いに身を呈する動機が異なると思いますが、自分しか信じられなくなってしまった人間の抱える偏狭さの入り混じった心の闇と世間とのズレが、二人に共通する哀しみとして感じられるからかも知れません。
自分にとってこの映画は、ジョン・フォード監督による陰翳美に彩られた映像の翳の部分に思いを巡らす映像芸術作品です。
PS 60年代リバプール・サウンドのサーチャーズ(The Serchers)のバンド名はこの映画の題名に由来し、バディ・ホリーの「That’ll Be the Day」はこの映画のジョン・ウェインの科白にインスパイアされて書かれた曲とのことです。
あと婚約者ローリー・ジョージェンセンを演じたヴェラ・マイルズは、同年撮影されたアルフレッド・ヒッチコック監督の『間違えられた男』と1960年の『サイコ』での演技が個人的に強い印象に残る俳優です。
(※)あと、本作はジョン・ウエイン(1907年5月26日 - 1979年6月11日)の追悼番組で淀川長治が解説した作品とのことです(1979年6月17日)。
§『捜索者』
ラナ・ウッド(右)↑
右からヴェラ・マイルズ、ジェフリー・ハンター↑
ジェフリー・ハンター(中央)↑
ナタリー・ウッド↑
独り去りゆくジョン・ウェイン↑