『ダニー・ケイの牛乳屋(The Kid From Brooklyn)』(監督:ノーマン・Z・マクロード 1946)は、主演ダニー・ケイ(役名:ダバーリー・サリヴァン)が戦時中の銀幕デビュー作『ダニー・ケイの新兵さん(Up In Arms)』(監督:エリオット・ヌージェント 1944)から2年後に、ヴァージニア・メイヨ(役名:ポリー・マーチン)、ヴェラ=エレン(役名:スージー・サリヴァン)と共演したミュージカル作品になります(※1)。
ダニー・ケイの歌に関しては、個人的には『ダニー・ケイの新兵さん』でダイナ・ショアと繰り広げるデュエット曲「Tess’s Torch Song」や、『五つの銅貨』(監督:メルヴィル・シェイヴルソン 1959)でルイ・アームストロングと繰り広げる「聖者の行進」によるスリリングな掛け合いが好きですが、この作品で観られるダニー・ケイのスインギーな早口やヴァージニア・メイヨのコケティッシュなコメディエンヌ振り、ヴェラ=エレンのバレエ技術を駆使した躍動的なダンス(※2)等、ミュージカル好きの映画ファンには愉しめる作品ではないかと思います。
映画は、牛乳会社の販売員であるダニー・ケイが、ふとしたことで知り合った求職中の歌手ヴァージニア・メイヨをダンサーの妹ヴェラ=エレンのクラブに紹介するも断られます。
それではと、勤務先の牛乳会社の広告に起用することを画策しますが、その強引さから社長の機嫌を損ねてしまったことによりダニー・ケイ自身が会社をクビになってしまいます。
或る晩、ヴェラ=エレンに酔いに任せて声をかけたボクシング・チャンピオンのスティーヴ・コクラン(役名:スピード・マクファーレン)を偶然ノックアウトしたことが新聞で大きく取り上げられたことから、八百長試合のスター・ボクサーに仕立て上げられます。
人気者となったダニー・ケイを広告に使おうと、牛乳会社は以前ノックアウトしたチャンピオンとのタイトル戦のスポンサーとして興行を組みますが、今ではチャンピオンのスティーヴ・コクランと恋仲になっているヴェラ=エレンから、タイトル戦は八百長ではないことを知らされたダニー・ケイは全身の血の気が引いてしまいます。
この映画では、どこまでがセリフでアドリブなのかの区別が出来ないダニー・ケイの早口や、マイム、形態や声帯模写等の至芸を愉しむことが出来ますが、この度彼の芸を観ていてつくづく感じたのは、絶妙なタイミングやスピードで繰り広げられるリズミカルなパフォーマンスの見事さです。
ダニー・ケイのルイ・アームストロングやダイナ・ショアと言ったジャズ歌手と即興的な掛け合いが可能なヴォードヴィリアンとしての伎倆と、時折垣間見せる繊細な表情に俳優としての才能を感じさせてくれる好きな作品です。
(※1)ヴァージニア・メイヨとヴェラ=エレンは前作『ダニー・ケイの天国と地獄』(監督:H・ブルース ハンバーストーン 1945)に引き続いての共演になります。
(※2)ヴェラ=エレンは旋回するピルエットの場面まではトウシューズを履いておりますが、タップ・ダンスを踊る曲の後半では音が鳴る様に先端を加工したバレエシューズに履き替えて踊っております。
バレエダンスとタップダンスを踊ることが出来る卓越したダンサーの一人だと考えます。
§『ダニー・ケイの牛乳屋』
ダニーケイとヴァージニア・メイヨ↑
牛を大勢で囲む牛乳会社の広告映像のエンディング↑
ヴェラ=エレン(中央)↑
左からスティーブ・コクラン、ヴェラ=エレン、ダニー・ケイ、ヴァージニア・メイヨ↑
ヴェラ=エレンによるトウシューズによる旋回↑
ヴェラ=エレンのシューズが曲の途中でタップ仕様に変わる↑
§『ダニー・ケイの新兵さん』より(以下3枚)↓
ダニー・ケイとダイナ・ショア↑
ダニー・ケイとダイナ・ショア↑
ダイナ・ショア(左)↑