ブルースが聞こえる(Biloxi  Blues(1988)は、卒業(1967)のマイク・ニコルズ監督が、スイート・チャリティ(監督:ボブ・フォッシー 1969)の基となった戯曲や、おかしな二人(監督:ジーン・サックス 1968)とグッバイガール(監督:ハーバート・ロス 1977)の脚本を書いた劇作家ニール・サイモンの軍属時代を描いた半自伝的舞台を映画化した作品になります。

太平洋戦争終了間際のミシシッピー州ビロクシーの新兵訓練所の2ヵ月間の青春を描いた本作は、兵役訓練が登場する他の映画同様、通常の社会ではハラスメントと見做される理不尽で過酷な訓練模様が描かれます。

特に、クリストファー・ウォーケン演じるトゥーミー軍曹は愛と青春の旅だち(監督:テイラー・ハックフォード 1982)でルイス・ゴセット・ジュニアが演じたフォーリー軍曹を連想させる、鬼教官でありながらも人間味が滲み出る人物像と重なる部分がある様に思います。

映画では、ビロクシー訓練所に向かう列車内での主要人物の巧みな人物描写が光るシーンから、クリストファー・ウォーケンによる兵隊精神を頭を通り越して軀に叩き込む訓練の数々が、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」や「メモリーズ・オブ・ユー」等のスタンダード・ナンバーと新兵の愚痴や悪態をBGMとして描かれます。

映画は後に作家となるマシュー・ブロデリック(役名:ユージーン・モリス・ジェローム)と、義と筋を通す信条によりクリストファー・ウォーケンに敵対する反逆児コリー・パーカー(役名:アーノルド・エプステイン)との魂の交流や、マシュー・ブロデリックとペネロープ・アン・ミラー(役名:デイジー・ハニガン)の微笑ましいプラトニックな初恋、粗暴ながらもどこか憎めない仲間達との激しい衝突や事件がマイク・ニコルズ監督によって活き活きと表現されていると思います。

この映画で感銘を受けるのは、アメリカン・グラフィティ(監督:ジョージ・ルーカス 1973)のエピローグでも用いられた演出である、仲間達のその後がマシュー・ブロデリックのナレーションによって語られる中、あの最も辛かったはずの2ヵ月が人生のかけがえのない時間だったと、懐かしさを込めて回顧している部分です。

倖いなことに南太平洋戦線に向かう途中で終戦を迎えたことで、戦場で終焉を迎えることのなかった主要な登場人物の人生のその後が紹介される件では()、反逆児コリー・パーカーはマフィアから怖れられる裁判官になり、作家となったマシュー・ブロデリックはペネロープ・アン・ミラーとニューヨークで互いに既婚者として自分達の初恋の想い出を語り合うことになる後日譚が語られます。

この映画の核と思われるシーンの一つとして、マシュー・ブロデリックの日記を仲間達が読んでしまう場面がありますが、そのことにより、マシュー・ブロデリックは言葉が文章化されることにより発する思いもよらない力を知ることとなります。

そして、当時日記に書いた仲間達の人物評が決して好ましいとは言い難かったはずなのに、振り返るとノスタルジックに思い起こされる彼の人生の青春章の主役達であったという語りに繋がることです。

戦闘シーンが登場しない戦時下の青春が描かれた作品として感慨深い作品です。

 

)ラストでは、戦死した先輩兵士達への哀悼の意が表せられます。

 

§『ブルースが聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七夕2020_私のお願い事